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ギガンティック・マシン -Outer Edge-  作者: 靖ゆき
1章 夜のオルタ
2/19

2 (1章完)

 肩を揺らすと少女は目を覚ました。

「ここは……」

 周囲をぼんやりと見回している。ビルの上では星明りや街の明かりが多少届いていたが、ここは真っ暗だった。目が慣れてくれば、ガレキだらけであることが分かるだろう。

 そのガレキの向こうからチラチラと光が差し込んでくる。様々なサイレン音や、人の声も届いてくるようになった。

「……もしかして、下まで落ちたの?」

「降りたんだ」

「降りたって……、なにこれ?」

 一瞬照らされた光で自分の服にべっとりとついた血を発見した少女は悲鳴を上げる。

「安心しろ。君の血ではない。」

「じゃあ、誰の血なのよ。こんなにたくさん」

 振り返った少女は、私の頭の傷口に気が付く。

「大丈夫なの?」

「大丈夫だが、そろそろ降りてくれると助かる」

「ごめんなさい」

 少女は膝から降り、ねじ曲がった運転席の躯体の間をくぐって外へ出ていく。外から差し込んでくる光は増え、周囲の状況がかなり分かるようになってきた。

「どうしてこんなに毛だらけなの?」

 少女は服についた毛を払っている。

「落ちている最中に住み着いてた動物でも巻き込んだんだろう」

「こんなに長い毛の動物を?大丈夫?」

 私が運転席の外に出ようとすると、手を貸してくれた。恥ずかしながら多少足がふらつくので、好意に甘えた。

「なんでそんなにボロボロなの?」

 質問の多い娘だ。この年頃は皆こんなものなのだろうか?

「君を庇ったからだろう」

「それは……」

 少女が疑問に思うのも当然だ。一張羅の上着だけでなく、中に来ているシャツもボロボロに破れているのだ。

「ありがとう」

 礼を言われただけで、それ以上の追及を受けることはなかった。

「……行こうか」

「うん」

 二人で協力し、ガレキを避けながらビルの外を目指す。

 五分程でエントランスホールに辿りつくことができた。すぐそこに、大勢の人達の姿が見える。さかんに少女の名前を呼んでいるのは、彼女のお仲間だろう。

「これでお別れだ」

「うん、ありがとう」

 彼女はすぐには立ち去らず、私の方をじっと見ている。

 これはあれだ。何か気の利いたことを言わなければならないシーンだ。

「元気で。私が君にしてあげられることはもうないし、二度と会うことはないかもしれないが……」

 そんな不安そうな目で見るもんじゃない。

「ずっと応援している」

 少女は一度目を丸くした後、今度はくしゅくしゅの笑顔で「うん」と頷いた。

「じゃあね」

 少女は走り去っていった。多くの人達が一斉に彼女を取り囲む。

 私もゆっくりと歩を進め、ビルの外に出た。二機の垂直離着陸機(VTOL)が停まっており、軍のものと思われる様々な車両が列をなしている。その向こうには警察や消防の車の回転灯が見える。

 少女はVTOLの方へ連れて行かれている。その中から一人の女性が離れ、こちらへ歩いてきた。

 背が高く、重ねて来たキャリアが顔に出ている。

 カスペルスキー 神楽(かぐら)。若い頃からの腐れ縁で、今回のクライアントでもある。

「酷い怪我ね。きちんと治療を受けなさい」

 一発目からお小言だ。

「君のところでは治療してくれないのか?」

「あれが医療チームの車両よ」

 持っていたペンで指し示す。

「分かった。報酬から治療費を差し引くとか言わないでくれよ」

「恩人にそんなことはしないわ。今回はありがとう。あいかわらず若い娘を見つけるのは得意なのね」

 なぜ感謝の気持ちだけで済ませないのか?しかもまだあんな昔のことを根に持っているのか。本当にしつこい女だ。しかしもう、反論する元気もケンカをする元気もない。

 だからこれは本音だ。

「今度は君のことも絶対に見つけるさ」

「そういうのはいいから。また私があなたを必要とする時に、すぐに見つかるところにいて」

「分かった」

 ウインクをして約束するが、またも軽く流される。

「これは特別報酬よ」

 神楽は二つ折りにしたメモ用紙を渡して足早に去っていった。姿勢の良い背中がVTOLに乗り込んだのを見送った後、メモ用紙を開く。



『探偵のおっさんへ


携帯を買ったら連絡してね。  恵』



 その下には番号が書かれていた。

 嬉しいのか恥ずかしいのか照れているのか分からない不思議な笑みが顔に浮き出てくる。

 上ってきた朝日に目を細めているふりをして顔を顰めながら、飛び立っていくVTOLを見送り、医療チームの車両に向かった。



設定資料


世界:

今からそれほど遠くない近未来。10年前から何度目かの(おそらく3度目の)世界大戦を継続中。世界を二分するものではなく、各国で相争う戦国時代。


ギガンティックマシン:

巨大人型兵器。体長は100m前後のものが多い。この兵器が開発されたことによって、国家間の戦争はギガンティックマシン同士の戦闘がメインになり、製造する力のない小国は、大国に併合されていくことになった。

その巨体故に、操縦は極めて困難である。初期のタイプは一機に十人程度が乗り込んで操縦する必要があった。その後、少人数化、遠隔操縦化が検討されたが、現在ではHTPシステムが広く取り入れられている。


高度戦術体(High Tactical Person(HTP)):

機械的に神経系を強化された操縦士。ギガンティックマシンと自身の身体をリンクさせることにより自分の手足のように操縦する。ギガンティックマシンと操縦士の接合(リンク)が強ければ強いほど、その力が強くなる。最近はギガンティックマシン本体よりも、HTPシステムの開発に各国は凌ぎを削っている。

操縦士の正体は各国の最重要機密である。操縦士に適合する人間を探す、または作り出すために、非人道的なことも数多く行われていると噂されている。


変質者オルタ

過去に行われていた遺伝子操作による超人製造計画の中で生み出された獣人化する者。成功例、生存実験体はゼロと記録されている。

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