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ギガンティック・マシン -Outer Edge-  作者: 靖ゆき
4章 君の聴いている音を聴きたい
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7(4章最終話)

 校舎の出口に座っていた祝子は祐に気が付くとヘッドホンを首にかけて立ち上がり、スカートをはたいた。

「や」

「どうも」

 挨拶を交わしたものの、しばらく無言が続いた。赤く染まった空の中に≪ギガンティック・マシン≫朱雀が小さく浮かんでいる。

「あの女に呼び出されたんでしょ」祝子が先に口を開いた。

「うん。君を首にするって」

「昨日メールが来た。まぁ、あの女は嫌いだったから清々するけど、貴重な収入源が無くなったのは辛いな。それで、あのバイトは一体なんだったの?」

「それは秘密だから話せないよ」

「……なんか、話し方変わってない?」

「これが新しいバイトなんだ」

「なんだ、お前はあっち側の人間になっちゃうのか」

「あっち側とかこっち側とかじゃないよ。僕の居る場所は変わらないけど、やることがはっきりしただけだよ」

「ふうん。なんかしっかりしちゃったな」

「そう?」

 クラスの愛玩動物的キャラクターがしっかりしているのは設定に合わないかもしれない。難しいな、と祐は思う。

「こんな感じはイヤかな?」

「別にイヤじゃないけど。私には関係ないし」

「君が首になった理由を聞いたよ」

 祝子の前では素の自分でいたいと思って、祐は少し意地悪な口調で告げる。首になった理由は、祐とバイトの話をしたからだけではなかった。

「レポートを全然出していなかったんだって?特別製のヘッドホンまでもらったのに。ヘッドホンで聞いていた音は全て監視されていたって知ってた?」

「知らないよ」

 祝子は顔を背ける。

「どうして僕の声ばかり聴いていたの?」

「好きだから」

 祝子は祐の顔を睨みながらきっぱりと言う。空が赤いから分からないが、その顔はきっと真っ赤になっているだろう。

「あんたの声が好きなんだ」

 ストレートな告白に一瞬固まってしまった祐だったが、「声が好き」という言葉に気を取り直した。

「私はこんな低い声だろ。ガサツな自分を表しているようで嫌いなんだ。だから、綺麗な声が好きで、高くて、澄んだあんたの声が好きなんだ。でも、あんたは自分の声が嫌いなんだろう。だからそんなこと言えなくて、あんたに近づくとかもできなくて、遠くから聴いているだけの時に、あの女からバイトの誘いがあったんだ。だからってやって良いことだったとは思ってない。悪かった。ごめん」

 祝子は一気に打ち明けた後、思い切り頭を下げた。祐は意外と腹を立てていない自分に気が付いた。それどころか、かわいいとまで少し思ってしまった。

「良いよ。でも、一つ教えて欲しいことがあるんだ」

「なに?」

「今は普通のヘッドホンなんだろ。何を聴いてるの?もしかしてオレの声の録音?」

「違う!普通の音楽。でも、古い曲だから多分知らないと思う」

「教えてよ」

「えーと……、ハードロックってやつ、ブラックサバスとかメタリカとか」

 祐は驚いた。

「本当に?オレも大好きだよ」

「え、まじ?」

「まじだって。この間はこんなものを買っちゃった」

 祐は常に持ち歩いている鋲の打たれた黒いリストバンドを見せた。

「うわーかっこいい!付けてみても良い?」

「良いよ」

 はしゃぐ祝子を見ているとまたかわいく思えてしまって、祐は自分の感覚に戸惑う。

「でも、二人とも全然綺麗な声じゃない」

「バッカ、あれはあれで綺麗なの。ああいう綺麗さもあるんだ。それに、あの歌に魂が揺さぶられるの」

「それは分かる」

「でしょ」

 祝子はリストバンドを付けた右腕でポーズを付けながら、満面の笑みを見せながら携帯で自分を撮影し始めた。

「あんたも入って」

 そう言われて祐も一緒に写真を撮った。

 そこに、摩子とみどりが通りかかった。

「なーに、お二人さん。仲良いじゃん。付き合ってるの?」

「そうだよ」

 摩子のからかいの言葉に、祝子は即答する。

「そうなの?」と、祐は驚いて訊く。

「そうなんだよ!行こ!」

 祝子は祐の手を引いて走り出す。

「お幸せに~~」

 手を振る摩子とみどりに見送られる。

 自分の手を引いている祝子の顔が真っ赤なのを見て、「まぁ良いか」と祐は流されることにした。


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