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ギガンティック・マシン -Outer Edge-  作者: 靖ゆき
3章 黒光丸
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4(3章完)

 一瞬で大勢の人間が集まり、もうすでに続々と帰途についている。

 グラスピアーは気絶している間にスーツを脱がされ、身体を樹脂の海に沈められ、固められて運ばれていった。大男が身に着けていたスーツや額当ても回収され、それらも運ばれていく。

 力が尽き果て、座り込んでその様子を見ていた景光にスタッフから声がかけられる。

「早く乗ってください。模擬戦が始まります」

 そう言えばそんな話だったなと思い出す。

 労いの言葉もなければ説明もないことにがっかりしながら、苦労して身体を立たせる。その隣にスノーモービルに乗った光流がやってきた。

「お疲れ様です」

「ああ、お疲れ様。早く乗らないと」

 景光はヘリを指さすが、光流を首を振る。

「これを乗せるスペースはないそうです。だから、乗って帰ります」

「今からか?」

 光流もかなり疲れているはずだがこくりと頷き、そして訊いてきた。

「乗っていきます?」

 本音を言えば断りたかったが、光流がパートナーだと思って誘ってくれているのだと思えば、断れなかった。

「む、無理に乗ってもらわなくても大丈夫ですから」

「いや、乗せてもらうよ」

と歩み寄ったのに光流がスノーモービルから降りる。

「───?」

「私。男の人に後ろからしがみつかれるとか嫌ですから。運転できますよね?スパイなんだし」

 古今東西、優秀なスパイは陸空海、あらゆる乗り物の運転ができるのが常識だ。景光だってもちろんできる。≪ギガンティック・マシン≫以外なら。

 仕方なく、首を二度鳴らしてからスノーモービルに跨る。見慣れないボタンがいくつかあるが、スノーモービルとしての運転だけなら不要なものだろう。

「どうしたんだ?」

 なかなか乗って来ない光流に声をかける。

「分かってますよ」

 光流は不機嫌そうな声で応えると、俯きながら景光の後ろに跨り、そっと腰に手を回して来た。

「落とされても文句言うなよ」

「言うに決まってるじゃないですか!」

 腰に回された手に力が加わるのを確認してから発車する。結構なダメージを受けたためかガタガタと揺れてなかなか安定させることができない。

 背後では、二機の大型ヘリが飛び去って行く。

 しばらくの格闘の後になんとか安定させることができ、雪原を駆け抜けていく。雪は止んでおり、雲間からは陽も差し込んできている。

 しばらく無言のドライブが続いた後、光流が話しかけて来た。

「また、会えますか?」

「佐賀基地は軍事機密の山だ。スパイの出番はまたあるだろう。会うこともあるんじゃないか」

「そういうことを言ってるんじゃありません」

 光流が腹をつねってくるが、その程度の力はスーツが防いでくれる。

「君とパートナーが組めて良かったよ。辛いこともいっぱいあったけど、楽しかった。またパートナーが組めると良いと思う」

「あ、あ、ありがとうございます。私も嬉しかったですけど、でも、私が言いたいのはそういうことではなくて……」

 光流はごにょごにょと話を濁した後、別のことを訊いてくる。

「あの、連絡先を交換しませんか。もし、もし良ければで良いんですけど。無理にとは言いませんけど」

「無理じゃないよ」

 今更何を遠慮しているんだと思い、景光は笑う。

 後ろで顔を真っ赤にしながら小さくガッツポーズをしている光流に景光は気が付かない。

「基地に戻ったら教えるよ」

「あ、あの、でも、これは一度パートナーを組んだ者として、一緒に闘いを乗り越えた同士としての交換ですからね。好意があるとか、そんなんじゃありませんからね」

「分かってるよ。興味があるだけなんだろ」

 光流がまた後ろでごちゃごちゃと言い始めたが、小声なのと、スノーモービルが風を切る音のせいで聞こえなかった。

 光流は腰にぐるっと手を回し、力を入れてしがみつき、そのまま静かになった。

 こうして他人に身体をあずけられるのも気持ちの良いものだな。景光はそう思いながら、スノーモービルを走らせた。




設定資料


世界:

今からそれほど遠くない近未来。≪ギガンティック・マシン≫を用いた第3次世界大戦中。

ギガンティック・マシン(GM):

ある日突然世界各国が保有した巨大人型兵器。体長は100m前後のものが多い。現在の戦争は、GMによる決闘方式になっている。

コリア・バン:

大戦初期に韓国と北朝鮮の国境付近で起こり、朝鮮半島を消滅させた大爆発。GMのブラックボックスを開けようとしたためだという噂があるが、真偽は定かではない。爆発により発生した衝撃波、地震、津波により近隣諸国は大きな被害を受けた。日本も九州及び中国地方の日本海側は壊滅的な被害を受けた。

日本軍:

GMの保有により戦争への参加がやむを得なくなり、GMの運用を目的とした日本軍が創設された。自衛隊も別組織として存続しているが、その規模は大きく縮小されている。GMの運用が目的であるため、軍人としての訓練を受けていない者も多い。

パワードスーツ:

人体の動作を補助する機器としてのパワードスーツは軍民両用で進められてきたが、軍用に関しては自立型であるオートマタの性能が向上することにより、パワードスーツの開発は縮小された。GMにより国家間戦争での居場所がなくなる一方、オートマタの使用が制限されることにより、国内治安用として復権することになった。この時代、アシスト機能として歩兵がパワードスーツを着用しているのは一般的である。なお、民生用は広く普及している。

少数で現場に急行し、そのまま戦闘に入るという用途から、自動車から変形するタイプの開発も盛んである。

黒光丸:

黒い忍者風スーツを身にまとい、各国のスパイたちと闘う正義のスパイ。ヒーローとして、日本政府のプロパガンタ的な役割を担っている。巨大手裏剣型多機能ツールを使用する。

Mエナジー:

GMに使用されている未知のエナジー。Mはギリシャ神話の知の女神メーティスのイニシャルから取られた。


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