FFランク冒険者はやはり最強か?
冒険者パーティの人数制限は古来からの習わしにより最大4人までと決められている。ならばこそ人は最大戦力を求め、今日もギルドホールにはより有望な戦力を仲間に引き入れようと冒険者が集まり勧誘の声で賑わいを見せている。
「こちらメンバー弓2盾1、火力がA5以上の前衛募集中でーす」
「仲良しパーティでは現在ヒーラーを募集中です。うちのメンバー全員Sランクですが、女の子ならランクは特に問いませーん。今なら一緒にレベリング手伝っちゃいます。」
その日、地元では最強と言われている仲良しパーティが珍しく仲間を募集していた。これを聞いた周りの冒険者たちは一瞬だけ色めき立った。自分にも最強メンバーの仲間入りをするチャンスが来るかと期待した者も大勢存在したという。
だがしかし、彼らはその場の誰も受け入れなかった。何故なら全員、女の子じゃなかったから。
「はぁー、居ねえな可愛い子」
イベント会場のような様相を呈しはじめたギルドホールをお手洗いの為に抜け出したメンバーの一人がひとりごちる。ため息を吐きながら俯いたまま曲がり角に差し掛かった瞬間、彼の胸元には軽い衝撃と「きゃっ!」という鈴の鳴くような女の声が聞こえた。
「あ、すいません」
咄嗟に謝る彼はすぐに彼女に目を奪われた。あ、かわいいと。
「痛たたた」
「どこかお怪我はありませんか」
「いえ、こちらこそ。ぼーっとしていたんです。ごめんなさい」
杖を片手に女の子座りで自分のミスにポカリと軽い拳骨で叱りを入れる彼女の姿を見た彼はその時、運命を感じていた。この子が俺のヒロインだったんだと。
彼はその後、何かすぐには気がつかないような怪我をさせていては申し訳ないと連絡先を渡す。彼女をしっかりと家まで送り届けた後はお詫びとして食事の誘いなんかもちゃっかりと取り付けた。聞けば彼女も冒険者のようで、杖を持っているところを見てもしやと思った彼の見立ての通りに仲間の回復魔法を得意とするヒーラーであった。当然、後日のデートの際は勧誘を行なって、Fランク冒険者の彼女は二つ返事で誘いを承諾する。
「あ、この前ちょっと擦りむいちゃったみたいで」
「そうだったんだ、ごめんよ。それならハイポーションを渡しておこう」
「いえ、何もそこまでは。軽いかすり傷ですから。 あ、そうだ。それならハチミツを頂けませんか」
「ハチミツを?」
ええ、こう見えても私、ポーション作りが得意なんです。彼女の言葉に内心得意も何もあるのかと一瞬だけ思ったが、女の子の手料理みたいなものだと思うとなんだかそれだけで一つ特別なことのようにも思えたので、それから彼は毎日ハチミツを1スタックずつ彼女に渡すことにした。
仲良しパーティは新たに迎え入れた若い女の子を前にカッコ良いところを見せようと今まで以上に苛烈な冒険者を繰り返した。自分たちのヒロインを護り抜く日々は充実していて、及ばすながらも少しでも頑張ろうと、疲れ果てた仲間のケアを一生懸命がんばる彼女に他のパーティメンバーはぞっこんだった。
「皆さーん、お風呂沸きましたよ。さて私はこれからギルドの口座に今日の稼ぎを預けてきますね〜」
「いつもありがとね〜。……ところでこの後」
「……もう、仕方がないなぁ。特別ですからね、他の人たちには内緒ですよ」
「よっし」
いくら可愛くてもあまりにも低ランクの娘を仲間に引き入れるなんてと、最初は反対していたメンバー達も試しに1度と冒険に連れて行ったら、これが非常によく、むさ苦しい男のパーティの心のオアシスとかしたので、帰るごろには誰も彼女の加入に反対はしなかったのだが、ただ一点彼らにも困っていることがある。
「それっ、ホーリーアロー」
「いでっ?!」
「はわわ?! ご、ごめんなさい、大丈夫でしたか」
「え、援護射撃は嬉しいけど、ちゃんと周りに気をつけて撃ってね」
「ううっ、ごめんなさい。痛かったですよね? そうだ! お薬塗っとかないと」
「えっ、ちょ?! 気持ちは嬉しいけどそこハァンッ?!」
「あれ? ちょっとして間違えたぁ!!」
そう、彼女は天然ドジっ子なのである。
「おい、まだなのかぁ?」
「い、今いくぅ!」
そもそもヒーラーなのだから回復魔法を使えば良いだろうとツッコミは今じゃ定番とかしている。
「あっ、そうだった。いっけなーい☆彡」
メンバー全員がほっこりとしたところで今日の冒険も終わり、全員が同じ我が家へ向けて帰路につく。
「そういやそろそろ貯まる頃だろう、俺たちの住宅資金も」
「どうせならプール付きの豪邸に住みたいよな」
「農場と馬小屋も建てて、俺は残りの人生を悠々自適な毎日にしたいんだ」
「えへへ、今の口座残高みたら皆さんビックリすると思いますよ。そうですね、今度の週末に商業ギルドに行って相談してみましょうよ。お通帳持っていきますから」
楽しみだなぁ。仲良しパーティーは週末を楽しみにしていた。そして当日、口座に預金をおろしに行ったきり彼女が彼らの所へ帰ってくることはなかった。最初は大層心配して必死に捜索を行った一週間。捜査の結果、彼女の物と思われる靴の片方が路地裏から見つかり、そのすぐ近くで判別不能なほどにズタズタとなった身元不明遺体が見つかり、失意の底に沈んで一ヶ月。それでも諦めきれずにギルドに情報を集めに向かったある日、メンバーの一人が偶然発見する。ギルドマスターの部屋にあるベッドでスヤスヤと眠る彼女の姿を。
彼らは事の真相を悟った。ああ、つまり俺たちは騙されていたのか、と。
思えばあの女には不審な点が多かった。いつもハチミツを要求してきたがポーションの為だけにしては多すぎた。今までヒールを使っていたか? 尻尾を斬ることでどんな役目が果たされるのか?何度誤射を浴びてきたことか、他にもまだ、数え切れないほどの。
仲良しパーティはあの日から復讐の友と化した。同じ傷を負ったもの同士、たくさん分かり合えたのだろう。その後彼らは女の拉致監禁を企て、計画的に始末してくれようと決心した。
そして犯行当日、メンバーの一人が心地よさそうに眠る女の耳につけられていた自分が贈ったピアスをみて感情が高ぶり、勢いのまま絞殺にかかく。あまりにも呆気なく事切れた彼女の姿を見て、メンバー全員が虚しさを覚えた。ああ、どうして苦しみは消えないのかと。彼女は、まるで救われたかのように穏やかな表情で眠ったままだった。
メンバーの一人が枕元にあった日記帳を取り広げる。せめて胸糞悪い幸せそうな毎日が綴ってあればせいせいした気持ちになれそうなのに。
そこに書き綴ってあったのは自分たちと過ごしていた懐かしく忘れられない楽しかった日々と、絶望の毎日。ギルドマスターに身内を人質に取られ目の前で乱暴され、有りもしない罪で家族が投獄され、返して欲しくば仲良しパーティに取り入り、少しでも財産を巻き上げて来いと脅された事。そしてあまつさえそれを日記として書き残して毎日読み返して語りきかせてくる事、それがマスターの悦びであること、近いうちに心に傷を負った仲良しパーティ全員を罠にかけ籠絡して忠実な僕に変える計画があるのだと。その時に私の姿を見せつけて彼らの反応を楽しむのだと。
それを見て仲良しパーティの全員は哀しくなった。彼女にお金を盗まれたことよりも、ギルドマスターに嵌められたことよりも、自分達のヒロインを自らの手で殺めてしまったことよりも……
「……なあ?」
「ああ、そうだな。この話には致命的な問題点がある。つまり、それはだな」
仲良しパーティは死んだふりをする彼女にハイポーションをぶちまけながら言った。
「ギルマスはお前だろうが、馬鹿!」
「がぼがぼもが?!!
ゲホッ、あ……忘れてた!」
そして、公正な裁判が執り行われてアホのギルドマスターは晴れてFランクからF***ing Foolランクの奴隷へ落ちたのであった。