(24)告白
いま二人がいるこの場所は二人にとって想い出の詰まった神社にそっくりだった。
この場所と似た神社であった二人の想い出と言えば……。
あのお祭りの日。夕立の中、文人が茜を探し回ったあの日の事だった。
「えっと……あのお祭りの日もこんな風に綺麗な満月だったよね」
「ちゃんと覚えてたんだ……」
「ごめん。忘れてたけどさっき思い出した。あの約束のことも、このアクセサリーのことも……」
文人は自身の鞄に付いていたアクセサリーに触れて言った。
そんな文人はあの日のことを意識があった部分までは思い出していた。自分がその時に抱いていた茜への気持ちとともに……
「なにそれ……。まぁめっちゃ文人らしいけど。思い出したのならちゃんと着けててよね」
そう言って最初は呆れた表情を浮かべていたものの、すぐに表情を緩め、文人の鞄に付いていたアクセサリーを文人の首もとへと付け替えた茜。
「……あ……あかね!?」
そして制服の隙間から自身の首もとにも手を突っ込む。
「あれ~やっぱりリボンとか外さないと厳しいかな……」
思わず唾を呑み込む文人。
「……あっ、あった!」
茜が大きな声で叫び、文人の目の前にアクセサリーを掲げる。
この時……制服のボタンの一つでも外されていたら……文人の理性は崩壊していたかも知れない。それぐらいに男として後のないこの状況、この雰囲気は文人にとってまずいものであった。
ただ……彼女を傷つけたくない……彼女を悲しませたくないという彼女への強い愛情が、文人の男としての欲望を押さえ付けていた。
「ほら!私も今でもこうやって着けてるんだから!文人とお揃い!」
茜は文人に近づき、文人の首もとに着けたアクセサリーと自身の首もとのアクセサリーを重ね合わせた。
その際の茜の笑顔は暗闇でもはっきりと文人の目に映った。
「その笑顔こそ茜だよね……俺はそんな茜の笑顔を守れなかった……」
茜に着けてもらったアクセサリーを握りしめながら文人は言った。
文人は目の前で茜の笑顔を見るのは久しぶりだった。
その眩しく懐かしい笑顔を見ていると、自然と文人の目から涙が零れ落ちた。
「文人……本当に今日はどうしたの?もしかしてさっき私が怒ったこと気にしてる?それなら大丈夫だよ。これからずっと文人のドジを見せてもらって笑かしてもらうから。こうやって私の側で変わらず見せてよね!」
茜は文人にウインクをしながら言った。
「文人……」
そんな彼女の姿をみて堪らなくなり抱き付く文人。もちろんこんなに近くに彼女を抱き寄せたのは付き合う前の茜にとってはこの日が初めてであり、文人にとっても茜と別れてからはこの日が初めてであった。
「俺もずっと茜の側にいたい!!離れたくもないし……いつまでも。一緒にいたい~!俺はやっぱり茜が好きだ!!大好きだ~~~!!!」
文人は茜を抱き締めながら叫んだ。
今まで生きてきた中で一番顔を真っ赤にして。
茜もそんな文人の告白を真っ赤な顔で聞いていた。
「私も文人が好きだ~!!大好きだ~!!いつまでも……一緒にいたい~!ずっとくっついててやる~!!」
お互いに顔も見ず抱き締めながら叫んだ。
お互い顔を見たら恥ずかしくて何も言えなくなるからだ。
そんな二人に身に付けられたアクセサリーは久々に重なりあい、当時の輝きに負けないぐらいに輝きを放っていた。
「ねぇ……文人。それならこれからはちゃんと約束守ってくれるってことだよね?」
こうして叫び合い落ち着いた二人は、急に恥ずかしくなり少し離れて座っていた。
「……えっ。うん。覚えていたらね……」
文人にとってはハッキリと約束をすることは出来なかった。
自分の未来を知っているからこそ……。
「あきれた~さっきまでの威勢はどうした?まぁ今日はそれを差し引いても十分プラスだから許すけど……。今日さ私ずっと引っ掛かってたんだけど、朝遅刻した時に何かあった?それ以降文人の様子がおかしく思えたんだけど……何かあったなら相談してほしいなぁ。私に『誰よりも悩みを聞いてもらう』って約束したよね?」
「……うん。実は……」
そう言って定期を無くし、同じ学校の新入生の女子に貸してもらい、その女子に対してペコペコとお礼のお辞儀をしていたと伝える。
「ふーん。そんなことがあったんだ。それなら私に連絡くれたらよかったのに……」
「ごめん……」
「それだけじゃないでしょ?」
「……えっ」
「そんなことで文人があんなに怯えたりしないよ……他にもっと重要なことが文人の身に起きたんでしょ……?ねぇ。私困ってる文人の力になりたい……ちゃんと私に教えて」
(……真実を言って信じてくれるか……でも……茜を頼るって約束したし……あと残り僅かの時間ぐらい茜との約束を守りたい……)
自分に対して真剣な表情で訴えかけてくる茜の表情をみて、文人の心は揺らいでいた。
「実はね……俺……今日で……この世からいなくなるんだ……」
「……………………。」
(さすがに……信じてくれないよね……)
「……えっ。それどういうこと………?詳しく言って……!」
少しの沈黙の後、茜から口を開いた。
文人には茜の表情が一気に雲っていくのがわかった。
今の茜は文人のことを何でも信じる。それほどの勢いが茜の表情から際立っていた。
(……やっぱり駄目だ。茜に本当のことを言ったって何になるっていうんだ……彼女を笑顔にするのもあの時の約束だったはず……)
今の茜の表情からは笑顔が消え、眉間にシワを寄せ険しい表情をしている。
「なーんてね!ほら、このとおり「ピンピン」してるんだからいなくならないよ~!ほらほら!表情緩めて!怖い顔になってるからさ!」
文人は茜の頬をつつきながら言った。
文人は真実を言うのではなく茜の笑顔を守ろうとした。
「……もう!何それ!!言っていいことと悪いことがあるんだから!それにまた怖い顔って言ったな~!文人のくせに~!私に嘘つくなんて百万年早いんだから~!」
茜はそう言って文人にデコピンをしようと指を近付けてきた。
文人はすぐに立ち上がって、そんな茜を振り払おうとベンチの周りを逃げ回った。
茜も同じく逃げ回る文人を追いかけた。
そんな二人は何も変わらない出逢った頃の二人そのものだった。
「……あっ、やっと見つけた……」
「こんな所にいたのね……」
夜の神社の外れにあるひっそりとした池の周りで響き合う若い男女二人の無邪気な声。
そんな声に引き付けられ、陸と結香がようやく二人を見つけだした。
「あいつら何やってるんだろう」
「必死に探してる私たちの気もしらずにねぇ」
「まぁケンカしてるよりはいいんじゃない?」
「それもそうね」
「時間も時間だし俺たちも混ざりに行きますか?」
「えっ!?いいの?」
「良いに決まってるでしょ」
そう言って、陸は結香の手を引っ張って二人の中に入っていった。
文人の最期の選択はこうだった。『茜の笑顔を守る』
バラバラだった幼馴染みたちも揃い文人の人生は残り僅かとなる。
次回【『終』(25)求めていた『最高の青春』】




