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最高の青春を求めて  作者: アニ野祭 ナリハル
第2章 【再出発の高校生活編】
19/25

(19)タイムリープした理由

 茜は学校近くの神社にて陸と結香と些細なことで気まずくなり、気分を変える為神社の中にある池にて、子供の頃にあった出来事を思い出していた。

 そんな過去の出来事を懐かしんでいた茜の前に、突如何かに怯え、立っていられない状態の文人が姿を現し……。


 一方でその文人は数十分前に、これまで経験したことのない激しい頭痛が自身を襲い意識を失うのであった。 

 (……あれ? 俺は何をしていたんだっけ……)


 文人が目覚めた頃には、あの転げ回るように痛かった頭痛が嘘のように落ち着いていた。そんな目覚めた文人が辺りを見回すと……。

 


 「……えっ……」


 

 起き上がりその光景を目にして文人の思考回路は停止した。


 いま現在、目の前で起きている状況の何一つ理解することが出来ずにしばらくの間、唖然(あぜん)としていた。


 (……な……なんで)


 文人は必死にいまの自分の状況を整理しようとしていた。

 

 

 


 「可哀想にね」



 

 

 「まだ若いのに」




 「これからだったのに」 






 「()()()しまうなんて」



 


 文人にはその光景に映っている何人もの声も同時に聞こえてきた。

 さらに、その同時に聞こえた声の内容のどれもが信じがたいものであった。



 (……あ……あれ……って……俺の写真だよね……) 


 そう。


 文人の見ていた光景とは、自分の制服を着た遺影(いえい)が飾られ、その周りには今まで見たこと無いくらいの大量のお花、中心には棺桶(かんおけ)が設置され、母親の洋子がハンカチで顔を拭っている姿など、(まぎ)れもなく大沢文人のお葬式を行っている様子にしか見えなかった。


 

 (えっ……。な……なにこれ。俺が話し掛けてもみんな無視するんだけど……これって何かのドッキリ……?いや悪い夢だよね?俺は神社で茜を探している時に頭痛がして意識を失った。それで今は悪い夢を見てるってことだよね……)

 

 

 文人は母親の洋子や、その周りに居た親戚のおばさんなどに話し掛けてみたが、自分の話し掛けている声は全く聞こえておらず、それどころか姿すらも見えていない様子だった。

 


 「文人や……」



 「ばあちゃん!?」  


 『いまは悪い夢を見てる』そう結論付けていた文人の耳元に再び()()声が届いた。


 

 「ちょっと……! これどういうこと!? 何でこんなことになってるの??」


 今度のばあちゃんは姿が見えず、どこからか耳元に語りかけてくるような聞こえかただった。

 姿が見えていたら間違いなく飛び掛かっていたような勢いで、ばあちゃんの声に反応した文人。

 

 「すまんの…… 文人にとっての昨日になるかの……?

 あの時は言い出せなくて悪かったと思っておる」


 何を言い出せなかったのか知らないが、文人にとってはそんなのはどうでもよかった。

 それよりも早くこの視界に映っている胸糞(むなくそ)悪い悪夢を、消し去ってもらいたい文人。



 「ねぇ!謝るとか良いからさ!こんなの悪い夢だよね!? 早く入学式の日に返してよ!それも夢だったら卒業式の次の日で良いからさ!!何でも良いから早く目覚めさせて!!」

 

 

 「……文人」


 そんな文人の願いを知ってか知らずか、ただ名前を呼ぶだけのばあちゃん。文人の精神状態は訳も分からない状況に崩壊しかけていた。


 「おいっ!クソババァ!!

 (だま)ってないで何とか言えよ!!

 早く戻してくれって言ってんだよ!!

 俺はやり直して小花さんと――」


 これまで発したことのない汚い言葉をよりにもよって、これまで誰よりも大切に思っていた、ばあちゃんに使ってしまった文人。

 


 「――文人!! 気持ちは分かるのじゃがこれが……」


 そんな文人の様子を見かねて、ようやく話し進めたばあちゃんだったが……

 

 

 「今みてるのが大沢文人の生きてきた人生の()()の姿なんじゃ!!」



 「…………。」



 文人は無言でその場に倒れこむように座り込んだ。



 

 「文人……

 お前さんはのぉ……。



 『卒業式の夜、急性心筋梗塞で命を落としたんじゃ……』

 翌朝、洋子が見た時にはもう……」


 震えた声でばあちゃんは言った。



 「……おい……おい。

 

 嘘だろ…?

 

 じゃあ……俺は()()最悪の卒業式の後、一人で孤独死したってわけ……?」


 信じたくない……信じられない様子の文人。


 「残念ながらそうなるの……」



 「……まじ……かよ」


 

 (ははっ……。ばあちゃんの言ってることが全部本当だったら実に俺らしい最期じゃん。最期まで何も決めれず行動を起こせず……。


 最期の日は人生の一つの節目である高校の卒業式の舞台で転んで、憧れの人と、元カノに笑われて、その後憧れの人は友人と付き合っていたって知って、元カノと元友人とチューしてるところを見て、大雨を浴びて、カップ麺食べて死んだって……

 

 ってことは最期の晩餐はカップ麺だったってこと……。

 いや、そんなことはどうでもいいけど……

 いや、やっぱり最期はカップ麺じゃなくて温かい手料理とかが……。

 いや、いまの論点はそこじゃないだろ。

 もし本当に卒業式の日に一度死んでいたとしても、さっきまでいた世界はなんだったんだ?

 俺は確かに入学式の日に戻ってやり直し初めていたよね……)


 (かす)かにある希望を信じて顔を上げる文人。

 

 「でっ、でも!じゃあさっきまで俺が居た世界はなんなんだよ!ばあちゃんが過去に戻してくれたんじゃ――」

 

 

 「――あれはあの世に行く前の走馬灯のようなものじゃ。

 文人のこれまでの人生で一番行きたかった日に()()だけ跳ぶことができる。

 

 確かにその間、一時的には過去の自分を抑え込んで意識を乗っ取ることが出来るが、それも()()だけの期間限定の話しなんじゃ……

 日付が替われば自然と(たましい)が抜けて、わしらがいる場所に来ることになる」



 「……それじゃあ……俺はあと半日経ったらこの世にいられなくなるってこと……?」


 「そうじゃ……。過去の入学式の日の世界であと半日じゃ……」


 文人の(かす)かな希望も消え去ってしまった。

 もう一度戻れるのは確かではあるが、それがたったのあと半日だけの時間しか残っていないとは……。


 「そんな……そんな話し……簡単に信じられるかよ……俺が選んだのはやり直すために最適だから入学式に戻りたかったんだよ……それが……たったの一日って……」


 再び(うつむ)き落胆する文人。


 「若い文人には酷な話しをしているとは思うがの……」


 「たった一日で何が出来るってんだよ……。ねぇ、ばあちゃん何とかならないの!せめて戻るなら卒業式の日とかさ!!」


 文人は頭を抱え(なげ)いていた。


 「……文人。さっきも言ったが選べるのは一度きりじゃ……いくら可愛い孫の頼みでもこればっかりはワシの力ではどうにも出来んくての……。本当にすまない……」


 「ばあちゃんが言ったんじゃないか。悔いなく生きろって……俺は()()()()に告白できずに……」


 拳を強く握り締めな涙ながらに訴える文人。

 

 「……文人、もしかしてお前は何か勘違いをしてるんじゃないか?」


 

 「えっ……それってどういう?」


 「ワシがなぜあえて今、この光景をお前に見せたのかまだ分からんのか?

 お前のこのお葬式をよくみるのじゃ!」



 「よくって…自分の葬式なんて見て嬉しいわけなんか……」


 そう言いつも目にこびりついた涙を手で擦って取り除き、言われた通りに辺りを見渡す文人。

 

 「ほれ!()()()()じゃろ」


 

 「母さん……」


 そう言って文人は涙を流し続けている母親の洋子を見つめる。


 「そっちもじゃが……もう一人居るじゃろほれ……」


 しかし、ばあちゃんは別の人物の存在のことを言っているようだった。

 【予告】

 自身がタイムリープをした衝撃の真実を知った文人。

 落胆する文人に対して、ある人も涙を流していることを文人に伝えようとするばあちゃん。

 果たして……その人物とは……。

 残りの僅かな時間を文人は有意義に過ごせるのだろうか……

 次回【(20)想い人】

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