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最高の青春を求めて  作者: アニ野祭 ナリハル
第2章 【再出発の高校生活編】
16/25

(16)約束のアクセサリー

 夏祭り。

 文人たちにとって年に一度の一大イベントであった。

 そんな小学生の文人たちはこの年初めて自分たちだけでお祭りに行くことを計画していたが…


 その当日、文人は茜を突き飛ばしてしまうなど不穏な空気が立ち込めており…

 【現代】


 〈タッタッタッ〉


 「茜~!茜~!」


 文人は迷うことなく茜の名前を叫んでいた。

 ただ、ひたすら茜を見つける為に…。


 そのころ茜は…


 (あの時、公園で文人に突き飛ばされたなぁ…


 それで泣きながら走って逃げたっけ…)


 茜は神社内の池の周りにあったベンチに座り、数年前にあった出来事を振り返っていた。 




 【数年前】


 〈スタ、スタ、スタ〉


 文人はゆっくりと歩みを進め自分の家のアパートに到着をし、扉の前まで来た時だった。



 〈ガチャッ!〉


 扉が勢いよく開いた。



 「あれ?文人?


 何でこんなところに居るの?


 公園に行ったんじゃなかったの?」 




 扉から出てきたのは、ばあちゃんへの見舞いの品が入った荷物を両手にぶら下げた洋子たった。


 「そんな顔してどうしたの?」


 と、洋子は暗い表情の文人を心配する。


 「ばあちゃんが心配で…」


 (かす)かな声で文人は言った。


 「そうなの?もう、ばあちゃんは私に任せてって言ったのに…


 本当にこの子は、どうしようもないくらい、ばあちゃんっ子なんだから…


 ほら、そんなに心配ならそんなところに突っ立ってないで。

 早くマスクしてきなさい。

 早く行かないと、お昼ごはんちゃんと食べたのかも分からないしね」


 文人はこれでばあちゃん家に、連れて行ってもらえると少し表情に明るさを取り戻し、マスクを取りに家の中に入った。


 

 〈スタスタスタ〉


 文人と洋子は、ばあちゃん家に向かって歩いており、文人は洋子の荷物を少し持ってあげていた。


 ちなみに、文人の家からばあちゃん家までは歩いて行ける距離である。


 「今日は何時ごろに集まるの?」


 洋子は文人に聞いた。

 文人の表情が再び曇りだす。


 「6時って言ってたような…


 …もしかしたら行かないかも」


 「どうして?

 あんたも、茜ちゃんもみんなで行くのあんなに楽しみにしてたのに…」


 「ばあちゃんを放っておけないし…」


 文人は、ばあちゃんの事を言い訳にして茜たちとの事を隠していた。


 「ばあちゃんの心配をするのも分かるけど…


 あんたが居ても何も出来ないんだし…


 それにばあちゃんもゆっくりと休めないしね。

 だから、ばあちゃんの事は任せて文人はお祭りに行ってきなさい。

 あっ…でも風邪が茜ちゃん達に移る可能性を考えたら行かない方が良いのかしら…」


 と、話しているうちに、ばあちゃんの家にたどり着く二人。

 洋子が、ばあちゃんの家の鍵を取り出し扉を開ける。



 〈ガチャ〉



 「ばあちゃん!??」



 文人と洋子は同時に大きな声で叫んだ。



 「おおっ~文人よく来たの~


 さぁさぁ、早くお上がり。


 ちょっと散らかってるが気にせんでお入り」


 ドアを開けた先にあったのは、玄関にばあちゃんが座り込んで、その周りに靴を沢山並べている光景だった。


 あ然とする二人。


 「洋子~そんなところで突っ立ってどうしたんじゃ?

 それに、鳩が豆鉄砲を食ったような顔もして」


 「ちょっと、ばあちゃん!

 早くお上がり。じゃないわよ!

 こんなところで何をしてるの?」


 「ちょっとな、靴が増えすぎてたから、いらないものを捨てようと整理しとっての」


 「いやいや。

 ばあちゃん?なんでそんなことしてるのよ!

 昨日、高熱があったって言ったわよね?

 それで慌てて様子を見に来たのに…」


 「ああ、そうだったんかの。

 てっきり文人がわしに会いに来てくれたのかと思ったのに…」


 「いや、だからばあちゃんの見舞いに来たんだから、ばあちゃんに会いに来たのは確かだけど…」


 「わしの見舞いに?

 なんでこんなピンピンした者の見舞いに来ないと行けないのかの?」


 「はぁ?だってばあちゃんが昨日の夜から高熱出てるから祭りに行けないってさっき連絡してきたじゃないの」


 「あぁ~確かに今日のお祭りは一緒には行けないの…


 ()()()が昨日から高熱出してしまったから看病せねばならんからの。

 今は熱は下がったんだけど、まだ一人にはしておけないしの…」


 「うん?


 …()()()?」


 「ばあちゃん…それって一人じゃなくて一匹じゃないの?」


 文人が突っ込みを入れた。


 「そうじゃの。

 確かに文人の言う通りじゃの。

 ちなみに、動物病院は午前中に行ったからすぐに良くなると思うがの…」 


 そう。()()()とは、ばあちゃん家で飼っていた老犬の名前である。


 「って言うことは、ばあちゃんは熱は無いの?」


 困惑した顔で問う洋子。


 「そんなものあるわけなかろう~。ほれ。この通りピンピンしておるぞ」


 手を大きく振り回しながら話すばあちゃん。


 「なんだ。心配して損したじゃない…


 まぁ、でもこれで心置き無くお祭りに行けるわね、文人」


 「うん……」


 小さく(うなず)く文人。


 元気な、ばあちゃんの姿を見た文人は、ばあちゃんへの不安は取り除かれたものの、今度は茜に対してひどい態度を取ってしまった事が、気掛かりで仕方がなかった。


 「文人~どうしたんじゃ?

 何か顔色が悪いが…


 せっかく来たんだし中に入って少し休んでお行き。

 美味しいクッキーも出してあげるからの」


 ばあちゃんは文人を中へ招き入れる。


 「文人、もうすぐお祭りに行って色々と食べるんだろうから、ほどほどにしなさいよ」


 二人に着いていくように洋子も中に入っていく。




 そして時間が経ち…



 「よしお。早く元気になるんだよ…」


 文人は(そば)に寄り添い、よしおを励ましていた。


 「文人~よしおもゆっくりと休みたいだろうから、そっとしといてあげなさい。

 それにもうすぐ6時よ。

 そろそろ向かった方が良いんじゃないの?」


 「うん……」


 洋子の問いに再び二つ返事の文人。



 「文人~

 ちょっとこっちに来てくれんかの?」


 ばあちゃんが仏間から出てきて文人を呼んだ。

 そのまま文人は、ばあちゃんが居る仏間に入っていく。



 「ほらほら、ここにお座り」


 座布団を敷きながら、ばあちゃんは言った。

 訳も分からない文人は言われるがままに座る。


 「文人~お友達と喧嘩でもしたんじゃないのかの?」


 

 「えっ!?」


 

 文人はばあちゃんの(あたか)も知ってるかのような言い方に、驚きを隠せなかった。


 「その顔は図星(ずぼし)みたいじゃの…

 

 よかったらばあちゃんに詳しく話してくれんか?

 文人の力になってあげたいんじゃ…


 それに一人で抱え込むよりは話した方が楽になると思うしの」



 「ばあちゃん…」


 文人はばあちゃんに茜や陸と今日の祭りに行く予定だったこと。

 そして、今日、茜にしてしまったことを話した。


 「そうか…そんなことがあったのか…


 それはわしも悪いことをしてしまったの…


 洋子にちゃんと説明をしていたらこんなことにはならんかったのに…」


 「ううん。ばあちゃんのせいじゃないよ。俺が一方的に悪いから…」


 「文人…。こんなばあちゃんから今の文人に言えるのは一つしかない。

 今から茜ちゃんに会って謝ってきて欲しいんじゃ。

 事の発端(ほったん)のわしから言えることは、これだけじゃ。

 このまま、文人の大切な友人関係が壊れたままだと文人に申し訳が立たん。

 だから、今から茜ちゃんに会って仲直りをして、ばあちゃんをこの気持ちから救ってくれんかの?」


 ばあちゃんは知っていた。

 文人の心の中では、茜に申し訳なく思っており、今すぐにでも仲直りがしたいと思っていることを。

 しかし、文人の性格を考えると正直に謝りに行く勇気がなく、色々と後ろ向きな考えをし、このまま向き合わず時が経ってしまうことも分かっていた。


 「ばあちゃん…。

 

 分かったよ。

 今から行ってくる」


 「それこそ文人じゃの~ばあちゃんの可愛い孫じゃ。

 そんな文人にはこれをやろう」


 と、戸棚を開け、とある箱を取り出してくるばあちゃん。


 そして…箱を開けた中には…。



 「うわ~綺麗」


 その中にはエメラルドグリーンのような色をして輝く、四つ葉のクローバーの形をしたアクセサリーが入っていた。


 「どうじゃ?綺麗じゃろ。

 これは昔、そこの神社に行った時に頂いたものなんじゃ。

 詳しいことは分からんが、何やら不思議な力を持っていると言ってたような…


 それに、一つに見えてるこのアクセサリーなんじゃが…


 ほれ。

 実は二つになるんじゃ」


 と言い箱からアクセサリーを取り出すと、四つ葉のクローバーが別れ、それぞれ双葉になった二つのアクセサリーに。


 「これは…二つで一つなんじゃ。

 このアクセサリーは一つだけでも、とても綺麗なんじゃが、こうやって組み合わせる事によって二つの葉っぱが、四つになる。

 四つになることで、幸せを運ぶ四つ葉のクローバーになるという訳じゃ」 


 「そうなんだ!すごいねこれ!」


 目を輝かせながら文人は言った。


 「でも、こんな老いぼれた、ばあちゃんが持ってても仕方ないし、いつか文人に渡そうとずっと思っていての。

 それで、今の話を聞いて渡すのは今なんではないかと思って、取り出したわけじゃ…」


 「うん?どういうこと…?」


 「さっきも言ったんじゃが…これは二つで一つ。

 つまり、これを一つずつ持った二人は永遠に仲良しでいられるって訳で…


 文人。もう言いたいことは分かるかの?

 一つは文人が持って、それで、もう一つを茜ちゃんに渡して欲しくての」


 「えっ!?茜に??」


 「そう。茜ちゃんに。

 これまで文人と仲良くしてくれた茜ちゃんに対して、お礼もしないといけないと思っていたし、今回の件でも迷惑を掛けてしまった。

 それに、女心はそう簡単なものではないから、手ぶらで謝るだけでは多分、許してくれぬと思うしの~

 文人がこれを渡せばきっと茜ちゃんと仲直りが出来るはずじゃ」


 「ばあちゃんがそう言うのなら。

 これは有り難くもらう事にするね!

 それじゃあ今から茜ん家に行ってくる!

 話し聞いてくれて、ありがとう!

 ばあちゃん!!」


 ばあちゃんが言うことなら素直に何でも聞く文人であった。


 「しっかりとやっておいで。

 またいつでも話を聞いてあげるからの。

 あと…どうなったかの結果も聞かして欲しいしの…」


 「うん?どうなったって?」


 「まぁ、あんなことや、こんなことがあった場合には、ばあちゃんの耳に入れて欲しいと言うことじゃ」


 「あんなことやこんなこと…?」


 「えっと~何でもよいから気にせんと、わしに話しておくれってことじゃ…。

 ほれ、文人。細かいことは気にせんでよいから早く茜ちゃんの家に行っておいで」


 「うん。わかった!」


 〈タッタッタッ〉


 二つのアクセサリーを握りしめ、急ぎ足で仏間から出ていった文人。


 「まだ今の文人に理解してもらうのは早かったかの…


 ()()()()()()()を文人から聞く為には長生きせねばの…」


 何やら(たくら)んでいる様子のばあちゃんであった。


 「あっ、ちょっと文人。

 そんなに慌ててどうしたの?

 今からお祭りに行くの?」


 仏間から慌ただしく出てきた文人に気付いた洋子が声を掛ける。


 「うん!ちょっと行ってくる!」


 「もう。あんまり慌てたら転ぶわよ。

 母さんはこのままばあちゃん家に居るからここに帰ってくること。

 それと、あんまり遅くならないようにね」


 「わかった、わかった。行ってきます!」


 「行ってらっしゃい~」


 〈ガチャッ〉


 

 文人を見送り、仏間に居るばあちゃんに話し掛ける洋子。


 「もう。あんなに慌てるならもっと余裕を持って出て行ったら良いのにね。

 それで、文人は何か言ってた?」


 「洋子が早とちりをするから文人が、とばっちりを受けてしまっての…」


 「えっ~?何それ。私のせい?ばあちゃんが説明不足なのが悪いんでしょ。」


 「そんなことはないわい。勝手に病人扱いしよって!」


 と、この瞬間二人の言い合いのゴングが鳴り、この言い合いはしばらくの間、続くのであった。


 「はぁ、はぁ、はぁ」


 〈ピンポーン〉


 あっという間に、茜の家の前に到着した文人。


 〈ガチャッ〉


 「あら?文人くんじゃない。そんなに急いでどうしたの?

 大丈夫??」


 と言い出てきたのは、茜の母親…

 

 高山百合子たかやまゆりこ


 「あ…茜ちゃんは…居ますか…」


 息を切らしつつ、一刻も早く茜に会って謝りたい文人。


 「茜なら、陸くんが迎えに来てくれて。

 さっきまで二人で文人くんを待ってたみたいだけど…


 ちょうどさっき、神社に向かったところだわ…


 文人くん、よかったらちょっとウチで休んで行ったらどう?」


 「あ…ありがとう…ございます!

 でも、大丈夫です。

 一緒に行くって茜と約束したし…


 俺も早く向かいたいから」


 と言い再び走り出す文人。


 「あっ、ちょっと。文人くん!茜たちの居場所わかるの~?

 あっ、行っちゃった。

 人も多いのにどうやって探す気なのかしら…


 まぁ、携帯も持っているはずだし大丈夫よね…」


 ちなみに…


 急いで出てきた文人の手持ちは、あのアクセサリーのみであることはこの時、誰も気付いていなかった。



 〈ザワザワ〉


 「うわー今年も人がいっぱいだね。

 離れて歩いていたらはぐれそう。

 もっと近付いた方がいいかも…」


 「おいおい茜。そんなこと言っても、さすがにこれは引っ付きすぎだろ」


 と、茜と陸はお互いはぐれないよう、かなり密着した状態で歩いていた。


 「良いじゃない。別に。

 それにどう?この浴衣!」


 (そで)を揺らし、両手を広げながら、陸に見せる茜。

 陸は、茜らしい赤を基調(きちょう)とした浴衣を(まと)った姿を真横で感じ、すでに胸の高鳴りを押さえきれないでいた。


 「うん。似合ってる……」


 頬を赤らめて言う陸。


 「本当?それは良かった。

 今年、買ってもらった新しいのだから!

 ちょうど、陸にも見て欲しかったし…」


 少し寂しげに話す茜。

 この時、陸は気付いていた。

 茜が本当に見せたかったのが自分ではないという事に…


 「そっか。

 それより、あいつは結局来なかったよな…


 文人と別れて少しして連絡してみたら、ゲーム続けたいからもう行かないって連絡が返ってきたけど…


 まさか、本気な訳ないよな…


 何か他に理由があるんだろうけど…」


 「もう良いわよ…あんなバカ…。

 

 どうせ、今ごろ一人でゲームでもやって勝手に楽しんでいるんじゃない?

 あいつは、私と一緒に居たくないのよ。

 だから、今日はもう来ないんじゃないかな…。


 それに、私もあいつなんて居なくたって何とも思わないし。

 それより私あれ食べたい!陸、早く行こう!」


 「お、おお。」


 茜に腕を掴まれた陸は少し驚いた声を発した。

 そんな陸を引っ張っていき、りんご飴を買った茜。


 「やっぱり、りんご飴美味しい!陸も舐める?」


 陸に笑顔で差し出す茜。


 「い、いや俺はいい。」


 「えっ~遠慮しなくてもいいじゃん~

 もしかして、陸は嫌いだったけ?

 文人は美味しいって去年舐めてたよ」


 (あいつは茜の舐めたんだ…)


 心中(しんちゅう)穏やかではない陸。


 「あっ…


 なんであんなバカの名前を出したんだろ…


 陸、何かごめんね……」


 「別に気にしてないから」


 と、平然を(よそ)う陸であった。


 「次は、どこに行く?射的でもどう?欲しいものあったら取ってやるけど…」


 と陸が言い掛けたが…


 「あっ!かき氷!!」


 「あっ、おい…そ、そんな引っ張るなよ…」


 と言う陸を再び引っ張っていく茜。


 「ねぇ、何味にする?」


 かき氷を手に陸に問い掛ける茜。


 「俺はブルーハワイかな?」


 「あぁ~」


 「何その反応?何か変か?」


 「いやー陸らしいなって思って……」


 「そうか?普通だろ」


 「そんなことないよ~だって文人はいつもイチゴ選ぶじゃん~

 イチゴと、ブルーハワイを比べたら陸の方が大人っぽいよ」


 「大人か?

 それなら茜は何を掛けるんだよ?」


 「私…私は~イチゴ…」


 と言いシロップを掛ける茜。


 「子供っぽい文人と一緒だな……」


 「べ、べつに、私は女子だから良いの!

 文人は男子なのにイチゴが好きなのが子供だって言ってるんだから」


 「まぁ、でも確かに文人の好みは子供っぽいよな」


 「そうそう!ハンバーグとか、カレーとか王道すぎるから…」


 二人はかき氷を食べながら文人の話しを続けていた。


 

 そして…


 ふと、陸が言った。


 「てか、また文人の話ししてるし…


 やっぱり文人が居ないと始まらないよな…

 

 茜もそう思わないか?」


 「うん。

 正直言うと、私も文人とも来たかったかな…


 やっぱり私にとっても三人で居るのが一番楽しいし…


 でもね、こうやって陸と来れたのも嬉しいよ!


 今年初めて、親が居なくて私らだけで行くから不安もあったけど…


 陸が居るだけで心強いし!

 それに、こうやって二人でくっついていたらカップルに間違えられたりして~

 な~んて、まだ誰もそんな風には見ないか!」


 笑顔でおちゃらける茜。



 「茜…無理すんなよ……」


 

 「えっ…」


 「そんな顔で言われても辛いだけだって……」


 笑顔の茜の目からは涙が流れ落ちていた。


 「あれ…私、なんで涙出てるんだろ?」


 慌てて、涙を(ぬぐ)う茜。


 「今から文人を呼ぼう。

 さすがの文人も電話をしたら来るだろうし」


 「いい……」


 首を横に降りながら茜は言った。


 「どうして?三人で来たかったんだろ…


 それなら…」


 「文人は、家でゲーム続けたいんだろうし…


 それに、例えここに来る気があっても、ばあちゃんと行きたいって言ってたくらいだから…


 今ごろ家族で来てるんじゃないかな…?


 そんな文人の邪魔をしたくないし…


 どうせ、最初から文人は三人で行く気なんて無かったんだよ」


 「そんなことないだろ…


 それに、もしも家族と来てたとしても、別にちょっとぐらい抜けても問題ないだろうし。

 茜が連絡しないなら俺が連絡する……」


 と言い携帯を取り出す陸。


 と、その時…



 「余計なことしないで!!」



 茜の大声に一瞬周りがざわついた。


 

 「ごめん。大きな声出して…


 文人は私と一緒に居たくないはずだから…


 あの時…私が近付きすぎたから、だから、文人は怒ったんだよ、きっと。


 何か嫌われるようなことしたのかな…


 まぁ、こんな性格だからウザがられたのかも。

 だから、しばらく文人に近付かない方が良いんだって……」


 「茜…それは考えすぎだって…

 

 文人にもきっと事情があったに違いないって」


 茜を擁護(ようご)する陸。


 そんなやり取りをしていた二人に…


 「茜ちゃん!陸くん!」


 突如、どこからか二人を呼ぶ大きな声が聞こえた。

 直後に、人混みを掻き分け勢いよく二人に近付いてくる人影が見えてくる。


 「はぁ、はぁ」



 「おばさん!?」


 二人は驚いた声で言った。

 そう。二人の目の前に現れたのは、文人の母親である洋子であった。


 「あれ…やっぱり二人と一緒じゃなかったのね…」


 息を整えつつ話し始める洋子。


 「どう言うこと…?文人は家でゲームやってるんじゃないの?」


 「えっ?文人がそんなこと言っていたの?」


 茜の発言に驚く洋子。


 「文人と別れた後に、陸が連絡をしてくれたんだけど…


 ゲームをしたいから一緒に祭りに行けないって返ってきて…」


 「ゲーム?あの子はなんでそんなの送ったのかしら?」


 「やっぱり…私に会いたくないから…」


 「うん?茜ちゃん、どう言うこと?

 もしかして…文人と何かあったの?」


 普段より表情が暗い茜の様子を見て不審に思った洋子。


 「おばさん。実は…」


 茜は洋子に昼間、公園であった出来事を全て話した。


 

 「そんなことがあったの…


 それで、ばあちゃんもあんなに怒ってたのね。

 茜ちゃん。今日は私のせいでごめんなさいね……」


 「えっ…どうしておばさんが謝るの?」


 「あれ?文人から聞いていない?

 実はね…」


 洋子も、今日、文人に対してあった事を全て茜たちに話した。


 「文人…それで…。

 

 そりゃ私には言えない訳か…」


 「そうなの。だから文人は茜ちゃんのことが嫌いになった訳じゃないから。

 文人の事許してあげてね……」


 「ところで、おばさん。肝心(かんじん)の文人はどこに居るんですか?」


 陸が聞いた。


 「あっ、そうよ!こんな、のんきに話してる場合じゃなかった!」


 「えっ、それって…もしかして文人の居場所が分からないの…?」


 茜が洋子に聞いた。


 「そうなのよ。あの子茜ちゃん家に行くって携帯も持たずに慌てて出て行って…


 茜ちゃんのお母さんにもさっき確認したんだけど…


 茜ちゃんたちを追いかけて、凄い勢いで神社に向かったって聞いたから…


 それで、急いで神社に探しに来て、茜ちゃんたちの姿が見えて声を掛けたんだけど…


 あっ~これからどうしよう。

 この人混みだから簡単には見つけられそうにないし…」


 「携帯忘れるってもう…あのバカ。

 私も探すの手伝う」


 「茜ちゃん?手伝うってこんな人混みの中をどうやって…」


 「分かんないけど、このままじっとしてたって文人を見つけることなんて出来ないから!」



 〈タッタッタッ〉



 「あっ、ちょっと!茜ちゃん!ま、待って!」


 洋子が止める声にも耳を傾けず茜は人混みの中に飛び込んでいった。


 果たして…この大勢の人混みを掻き分けて二人は再会をし、文人はばあちゃんからもらったアクセサリーを茜に渡すことが出来るのであろうか… 

 【予告】


 茜は必死になり文人を探していた。

 文人は必死になり茜を探していた。

 そして…

 

 二人はとある場所にたどり着き、その場所で、二人は再会した。

 そんな二人に生まれるものとは…


 次回【(17)初恋】

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