続・雪たんの日(祝)
「おいしいーっ!」
テーブルでクランプ、ガリアン、アレキサンダルというこの世界で鉄壁とも言われる布陣で雪たんはニパッと笑顔を綻ばせラーメンを食べます
「見ろ、この雪のような無垢なほっぺに飛んだラーメンを、まるで伝説に謡われた聖剣のようじゃないか」
「ああ、それにあの幼い指で持った箸、なんてぎこちないんだ、だが、それがいい!」
三人は雪たんを暖かなまなざしで見つめています、時が時、場所が場所なら間違いなく牢屋にぶち込まれ社会的に抹殺されていることでしょう
「だが、クランプ、らしくないな、雪たんをこんな状態にするなんて、大事に至らなかったからよかったものを、もし何かあったとしたら全ギルドはお前を敵とみなし抹殺する所だったぞ」
「ああ、俺も今まで毒だけは使って来なかったがもし何かあれば吝かではないぞ」
「すまん、時間通りに帰るつもりが紫に出くわしてな、遅れてしまった」
「そ、それは違います!それよりギルド長!依頼の魔物大量発生の原因を突き止めました!」
「てめーっ!ラーメンの恩忘れたか!ファイアボールとファイアバレットの区別もつかねーへっぽこがぁ!それも黙っといてやるからおとなしくしてやがれっ!」
「言ってんじゃん!大声で言ってんじゃん!うがああぁぁっ!」
周りの冒険者たちはごろつき三人組も含め
「うわぁ、そんな区別も付かないの?」
「魔導師として終わってんじゃん」
「紫好きなのかな?」
「よく見りゃ可愛いのに・・・残念だ」
と、ひそひそザワザワ話し出します
「と、とにかく報告します、冒険者クランプは召還術にて大量の魔物を召還、その数は軽く1000を超えていました、それを娘の雪たんに討伐させてレベルアップさせていた模様です!これは常識の範疇を超えており極めて悪質な行動だと認識します!ギルドは即刻クランプを捉え罪を償わせるべきって聞けーっ!」
「ん、ああ、すまん、雪たんが熱くて食べ辛そうだったのでな、家宝の小茶碗を取りに行っていた」
「聖杯じゃねーか!それ!ダメ!ほらっ!ラーメン神酒になっちゃってるしっ!なんでこんなにアーティファクトがあるんだよ!飲ますな飲ますなっ!」
「ええー、ちょっとくらいいいじゃんかー、それよりクランプ、今の話は本当か」
いきなりシリアスモードに移ったアレキサンダルはクランプに問う
「ああ、その通りだ、紫は何もうそは言ってねーよ」
「そうか」
アレキサンダルは視線を雪たんに向け優しく微笑むと
「雪たん、魔物との戦いはどうだった?」
と聞く、雪たんはラーメンを食べるのをやめてニコっと笑うと
「あのぷよぷよスライムさん釣りー?ちょーたのしかったー!」
「そうかそうか、所で雪たんはレベルいくつになったんだい?」
雪たんはしばし考えてから指を一本づつ数え始める
「うーんとねー!ごーっ!」
アレキサンダルとガリアンはカッと目を見開きガタガタと震え驚愕する
「なっ!なんだとぉ!6歳でレベル5だとっ!・・・・天才だ、天才はここにいたのか・・・」
「いや、彼女は天使だ、天使は背中から羽が生えていると聞いていたが・・・デマだったようだな」
「昔の言い伝えなんてそんなもんさ、だってここにいるじゃねーか、本物の天使がよう、そうだろ?」
6つの慈愛の目で見つめられる雪たんは恥ずかしそうに「エヘヘ」と、笑い、またラーメンを食べ始めます、あぁ、アガペー万歳。
「だーっ!昔からの定説をデマにしてんじゃねーよっ!それより早くクランプ捕まえなさいよ!」
「いや、その必要はない」
「は?」
アレキサンダルの発言に紫の動きは止まり硬直する
「犯人はこいつらだ」
そういってアレキサンダルはビッと指を指す
「え?」
「えぇーっ!」
指差す方向には先ほどのごろつき三人組
「ふざけんなっ!さっき信用するっていったじゃねーかっつ!」
「俺たちゃやってねーぞ!」
「金かえせー!」
アレキサンダルはごろつき共をみてうでを組む
「おまえたちにはもうひとつ魔物寄せを使い商人から金を奪い取った容疑がある、ウチの尋問は・・・厳しいぞ、あと俺は金は借りとらん!一同、引っ立てぃ!」
騒ぐごろつき共を屈強なギルド職員たちが捕縛していく
「これにて一件落着だな、さすが鉄の法、見事だよ」
「そう煽てるな、このくらいは事件のうちにも入らんよ、はっはっは」
「はぁっ?これが事件だよっ!冤罪だろっ!冤罪!犯人お前の隣にいるだろっ!お前らちゃんと私の話聞いてたのかっ?お前らの頭の中はどうなってんだっ!脳みそフルーチェかっ!」
アレキサンダルは騒ぐ紫の前に行き、静かに紫を見つめる
「な、なによ」
「先ほどの事件だが、ごろつき共は自分の利益のために起こした事、それは罪だ、だがクランプの起こした事は可愛い可愛い雪たんのレベルアップのために起こした事象、つまり、摂理だ、摂理は購えない、ましてや法で裁くなど、神に背くことなのだよ、わかるな?」
そう言ってアレキサンダルは優しく紫に微笑む
「全っ然!これっぽっちも理解できねーよ!摂理なんて壮大なテーマにしてんじゃねーよ!」
「ふむ、それではもうひとつ、おい、ガリアン、お前は雪たんが取ってきたこのスライムの魔結晶、いくらで買う?」
それを聞いたガリアンは、くわっと目をかっぴろげわなわなと震えだす
「う、売ってくれるのか?」
「ふん、スライムの魔結晶なんて銅貨1枚くらいの値段じゃない、全部あわせても銅貨50枚くらいの値段じゃない、まああの様子じゃ倍の値段の銀貨一枚くらいは出しそうだけど」
アレキサンダルはニヤリと笑い
「ああ、今回は特別だぞ、そこの馬鹿な紫に物の価値と言うのをわからせてやれ」
「はぁ?たかだか一晩明かりを灯すのもやっとくらいの魔硝石の価値なんてそこらへんで走り回っているガキんちょだって知ってるわよ」
「十枚だ・・・・」
「ばばばっ馬っ鹿じゃない!銀貨10枚って!20倍よ20倍!雪たんが取って来ただけで20も価値が上がるわけ!市場が崩壊するわっ!」
「金貨十枚だ!」
「・・・・・・・・・・おぅ」
あまりの値段に声も出せない紫
「これでガリアンは一晩雪たんの取ってきた魔硝石の明かりに包まれる、最高じゃないか」
そういってアレキサンダルは魔硝石の入った袋をガリアンに投げる
「特別だ、選ばせてやる」
「い、いいのかっ!?」
「ちょーっとまてぃ!1個か!1個の値段か!物の価値とかかんけーねーじゃんっ!物価天元突破してんじゃんっ!」
「いやあ、いい買い物したぜ!すまんが今日はこれで閉店だ!すまんなみんな!」
「ははは、しょうがないやつだなあ、まぁ、気持ちはわかるがな」
「ああ、そうだな」
「だあああぁぁっ!馬鹿ばっかりだっ!馬鹿ばっかりだっ!」
両膝をつき指をわきわきさせて天に叫ぶ紫を尻目に
「ごちそーさまでしたっ!お父さんっ!雪全部食べたよっ!」
「うんうん、雪たん偉いね、こんな偉くて可愛い子見たことないよ、もしかしてどこか偉い国のお姫様かな?よぉし、じゃあ雪たんお風呂に入ってから今日は偉い国のお姫様のお話をしてあげようかな?」
「きくーっ!」
嬉しそうにバタバタはしゃぐ雪たんは今日も幸せそうでした
「きーーーーっ!」