雪たんの休日2
「え?」
振り向いた雪たんは思わず声を出してしまいました
マドハンドは害はないとはいえ魔物、それも下位、言葉を話せる訳がないのです、もし話せたとしたら普通の魔物ではありません
ピクピクとビミョーに動くマドハンド、それを眺める雪たんの額に一筋の汗が伝います
「うそだよ・・・だってさ・・だってさ・・・」
完全に警戒体制の猫のように身構えた雪たんはマドハンドを正面に置き、どんな事にも対応出来るようにみがまえているようです
「だって・・あのクッキー、マドハンドより大きかったんだよ! どうやって食べたのー! すごーい!」
キラキラ目を輝かせながら雪たんはマドハンドに飛びかかりどう考えてもポケットの中には入らないであろう大きさの新しいクッキーをポケットから取り出しマドハンドにグリグリと押し付けます
「もいっかい!もいっかい!」
ポケットから出したクッキーをマドハンドにグリグリ押し付けながら雪たんは大興奮です
「あちよーっ! ほわぁーっ!」
雪たんの興奮も最高潮です、変な声も上げながら雪たんはマドハンドをクッキーで蹂躙します
「いたっ! ちょっ! 痛いからっ!やめてよっ!」
「あっ!しゃべったー!」
「えっ?いまさら?いたっ、いたいからっ!やめっ!やめなさいってばっ!」
疲れたのかようやくクッキーを押し付けるのをやめ、ほっぺをプクーと膨らませたご機嫌ななめな雪たんが辺りを見るとマドハンドの隣には濃い緑色の髪をした女の子が顔だけ出して埋まっていました
「・・・・・・・」
「・・・・・マンドラゴラ?」
「ちがうわよっ!人間よっ!ちょっと良くわかんないけど腕と顔以外埋まっちゃってるだけよ!あー大きな声上げたらまた力が・・・ごめん・・・お嬢ちゃん・・・誰か掘り起こせる人を呼んできてくれない?もう3日近く何も食べてないの、お礼はするから・・・」
「違うよーお嬢ちゃんじゃないよー雪たんは雪たんだよーマンドラゴラのおねーちゃん」
「マっ、はぁ、もうなんでもいいわ、とにかくここから出して欲しいの、お願い、あとそのクッキーもちょうだい」
「わかったよー!」
もう限界が近いらしくぐったりとうなだれながらももぐもぐとクッキーを咀嚼しているマンドラゴラのおねーさんをしゃがんで小一時間つついたり撫で撫でして飽きた頃、ぱぁっとひまわりのような笑顔をみせると雪たんは
「ひーちゃん引っ張ってー!」
と、ひーちゃんにお願いをします
「え?ひーちゃん?」
「ブモウ」
ひまわりのような笑顔の死角の向こうでひまわりのような化け物がゆっくりと蠢きマンドラゴラに近づきます、ゆっくりと近付きながらパカッと口を開きヨダレのような蜜をだらだらと溢します、顔のように見える花の部分は白く硬質化し、無表情な仮面のようです、腕と思われる茎の部分の葉っぱは高速回転をし始め何でも切り裂きそうです。
どう動けば恐怖を与えられるか理解してるなんてなかなか知能が高いようですね、さあ、13回目の地獄の金曜日の始まりです
「ブフオォッ!ひっ、ひまっひまっ!ひっひまひーっ!」
マンドラおねーさんは勢いよくクッキーを吹き出しよく分からない悲鳴をあげていますがひーちゃんは蔦で器用に手を作りおねーさんの顔を鷲掴みにします
「ひっ、いだっ!いだいがらっ!ちょっ!取れちゃうっ!取れちゃうからっ!てかなんで葉っぱは回転させたのっ!使わないじゃんっ!仮面も意味ないじゃんっ!いだいがらーっ!やめーっ!」
「ブモウ?」
ひーちゃんはコテンと顔を横に傾けて不思議そうにしていますが手は緩めません、気持ち葉っぱの回転が早くなった気がします
「がんばぇー!がんばぇー!」
「がんばらないでっ!取れちゃうっ!取れちゃう!」
「ブモウー」
「もげるっ!もげるっ!」
「ブッモウっ!」
「モゲっモゲっモゲモゲモゲモゲっ!」
メリメリた音をたて、おねーさんの首が伸びていきます、うわぁ・・・
どこかの部族では首の長さが美しさと比例するそうですがその部族でも絶世の美女と称えられるであろうくらいの長さに達したとき、モッコシッ!とマンドラねーさんが抜けました。
安心して下さい、マドハンド付きですよ
「うべうろうぁっ!」
奇声を上げながら収穫された少女は話に聞くマンドラゴラの特徴そのままです、抜くときに奇声を聞いてしまうと死んでしまうそうですけどね
ひーちゃんに顔面を掴まれたままぶらぶらしている少女の姿は土まみれです、が、それでも気品漂うような純白、少し透明感と瑞々しさのある鎧に身を包んでおり、どこから見ても普通の冒険者ではなく、よく見るとうら若き少女なのに歴戦の戦士のようなオーラも身に纏いどれもこれもちぐはぐに見えます
濃い緑色の艶やかな髪、そして土にまみれながらも透き通るような透明感のある瑞々しい純白鎧、雪たんはそんなおねーさんを見て
「わぁー大根だー!」
とおおはしゃぎしていましたとさ