雪たんのある日
いつもの宿屋兼食堂のいつものテーブル、四人はいつものようにだらけきって座っています、あ、雪たんだけはこの頃お気に入りのキラキラ輝く積み木で遊ぶのに夢中です、その横にはキューテルの光魔法を一身に浴びて巨大化したひまわりのような植物が花瓶を今にも破壊しそうな勢いで咲き誇っています、それには気にせず紫は何となく、呟きます
「ねぇ、思ったんだけど、雪たんが遊んでいる積み木の素材って何よ?やけにキラキラしてるけど・・・黄金、とかじゃないわよね、まぁ、オリハルコンって言われても驚かないけど」
テーブルに突っ伏したまま此方も見ずにダルそうにクランプは答えます
「ああ?そんな集めるのに面倒くせーもんで積み木なんて作るかよ、素材としては雪たんに見合うがそれじゃあ捻りもねぇしイマイチだろ、ねぇ、雪たん、その積み木は何で出来ているか覚えているかな~?」
積み木をしている雪たんは嬉しそうにこちらに顔を向けて
「うーん!髭のおじちゃんのよろいー!」
「わぁ、雪たんすごいね!ちゃんと覚えてたね!そんなに記憶力がいいなんて!もしかして雪たんはアーティファクトかな~」
「きゃはは!やー!」
雪たんを抱き上げいつものようにくるくる回るクランプを尻目に、紫は溜め息を付きます
「はぁ、・・・どうでもいいけど、雪たんが変な方向に向かって突っ走っていくわね、ん?キューテル?どうしたの?」
積み木をジーっと見つめているキューテルに、紫は不思議そうに声をかけます
「い、いえ、なんと言うか・・・あの積み木からお父さんの匂いが・・・いえっ!何でもないです!」
慌てたように両手を振りながらキューテルは話を逸らします
「そ、それよりムラムラ、聞いて下さい!とうとう暗黒魔法が使えるようになったんです!」
「・・・ムラムラって・・・・・・」
「まだバインドだけしか使えませんがすぐにテンペストペイン位使えるようになりますよ!」
「戦略級災害魔法をそんな簡単に覚えられたら堪らないわよ、それに暗黒魔法って、バインドは闇魔法でしょ」
その言葉にキューテルは、ふふん、と腰に両手を当て、慎ましやかな胸を反らして答えます
「そこはですね~流石お父さんが試作的に造ってくれた裏天使の私、って所ですかねぇ~色々と違うんですよ~にひひ~」
いつの間にか中二設定で試作品になってしまっている駄目天使は嬉しそうにはにかむ
「ほぉ、それは気になるな、試作品、只でさえ聖属性のお前が暗黒属性までとは行かないだろうが真逆の闇魔法を使えるようになれるなんてな、どれ、ちょっと紫に掛けてみ?」
タイミング良く雪たんと遊んで帰ってきたクランプが興味深そうに声をかけます
「ふっ、よかろう、この漆黒より生まれし堕天の象徴、神々にあがないし暗黒をも貪る漆黒の魔導の真髄、見せてやろう、ふはははははっ!」
「生まれは天界でしょ、生まれし、って言うより、膿まれし、って感じね・・・折角だから抵抗はさせて貰うわよ、天使に私の力、どこまで通用するか、試させて貰うわよ!」
そういうと紫は懐から例のブツを出し構える、紫の思惑はバインドは拘束魔法、私を捕らえに来た所をカウンターで迎撃してあげるわ、でした
ギルドのみんなも事の顛末が気になりこの闘いに注目しています、静寂の中、額に大粒の汗を光らせるキューテル
そのキューテルが一心不乱に唱える呪文だけがギルドの中に響きます、たかがバインドでこんなに時間をかけている時点でアウトなのですがみんなはそんなのお構い無しのようです
「おおぉーっ!」
やがてキューテルの身の回りから黒い霧のような魔力が吹き出し、ギルドのみんなは歓声を上げます
「ふっ、待たせたな!究極の業、くらえ!終末魔導バインド!」
その言葉と同時にキューテルから闇魔法特有の黒い蔓が・・・・・・
伸びる事はなく紫の回りに黒いサークルが何本か現れて急激に縮まり紫を拘束します
「なっ!これは!バインドじゃないのっ!?」
悔しそうに転がる紫を見据えキューテルが言葉を発しようとしたその時です
「ブモオォォォッ!」
《え?》
思いもよらぬ方向から聞こえた叫びのような咆哮に紫とキューテルは声を揃えてそちらに振り向きます
そこには雪たんをちょこん、と頭に乗せて超巨大化したひまわりが蔓をのたうち回させて暴れています、良く見ると花の辺りが裂けて口のような物も出来ていて、そこからダランダランとヨダレのような物も垂らしています、蜜ですかね?
「バカ野郎っ!お前の光魔法吸収し過ぎて花瓶の花が進化しちまったじゃねぇか!その黒い霧!ただ黒くなった光魔法じゃねーかっ!紫を捕らえたのも只の黒いホーリーバインドだっ!めんどくせーっ!」
「きゃはは!わーい!」
ひまわりの花弁に捕まり、振り回されている雪たんはご機嫌です
紫は成す術もなくひまわりの蔓に捕まります
「あぁっ!ムラムラっ!」
「おい、キューテル!何とかしやがれ!」
「そそそそんなこと言われましても・・・」
「あぁっ!紫が喰われたっ!ちっ!一時撤収!」
「ぎゃぁぁぁぁっ!」
「あぁっ!ラルフもやられたっ!」
「誰だそれっ!」
「うぎゃあああぁ!」
吸収した光属性の効力が弱まるまでこの事件は続きました、ドアの外でコッソリと中を覗き見していた赤いドレスの女の子も飲み込まれたとかいないとか
「きゃはは!わーい!」