第1章第8話 怒鎚レベンナ
あけおめ!
「つ……強い…」
バタリと男が横たわる、既に息はしていない。
「全く…兵器とは厄介な物ですね、想像以上に手間取りましたよ」
長く薄緑の剣身を持つ長剣を片手に、ニールはそう言った。
今倒れた男こそがこの隊の長であり、一番の実力者だったが、それを倒したニールは息一つ切れていなかった。
「被害状況は!」
声を張り上げつつ、里の方を見ると、巨大な砂煙が薄くなっていた。揺れがあったのはもう暫く前の事だ。
「負傷者が36名!死者はいません!」
「では負傷者とその傷の手当をする者は直ちに身を隠しなさい!それ以外の者は私に続け!」
「「「オォオオオオオッ‼︎」」」
鬨が上がり800はいるであろう軍団が動き出す。しかし、ニールの表情は晴れない。
それもその筈だ、彼らしくもない質量で敵を押し潰すと言う単純な作戦を立てながらも、それを全く活かせなかったのだから。
多すぎる仲間は、敵にとって格好の的、どこに銃弾を撃ち込んでも当たる。幸い、エルフの戦士達の強い者が前に出ていたので、銃弾を弾くなどの方法で被害は少ないが、今度は数の優位を活かせなかった。
仲間の大半が後ろで構えるだけの形となり、囲もうにも敵も後退し、戦闘時間が長引いてしまった。
結果的に勝利は収めたが、彼にとって納得のいくものではない。
(クソッ!急がねば!)
ニールは隊を率いて里の中心、生命の樹へと向かう。
「ん?」
しかし、その時何か違和感を感じ、森を見る。何がおかしいのか?目を凝らし…
「なんだ…アレは…⁉︎」
ソレを見た。
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バガァン‼︎
ヒューロが突き破った直ぐ隣の壁が粉砕し、イヴィードが飛び出す。
「ぐ…あぁッ⁉︎」
「アキャキャ‼︎」
自分の飛んできた方を見れば、壊れた壁から上体を外に出し、跳ぶ為にしゃがむゼズドが見える。
彼の体は段々と重力に従い、ある一点で一気に足を延ばす。
ドォン‼︎と音がなり、ゼズドが砲弾の様に発射された。みるみるイヴィードに追いつくと、彼は空中で体を捻り、ニヌエムを振り上げる。
「見つけた!お前が大将だろ!そうだろう!」
「なッ!なんだコイツ⁉︎がぁ⁉︎」
金槌を横にし、柄で防ごうとするが、あまりの衝撃に直角方向へ叩き落され、地面に打ち付けられる。
ゼズドはそのまま宙返りをすると、放物線を描き足から着地。隣にはヒューロが立っていた。
「よぉヒューロ!帰ってきたら天災の後で、しかも里の強者が伸びてやがる!ビックリしたぜぇ?」
「うんやっぱりアイツの武器アレだよ、頭の部分をよく見てご覧」
「ほぉ?やっぱりか!あそこから出たのは正しかったみてぇだな。何が起こるかサッパリ分からねぇ!注意しろよ!」
「ゼズドさんあんがと…って肩から血が出とるぞい?」
「ん?ああ余所見してたら撃たれた、支障はねぇ」
「ならいっか」
「しっかし、俺もあの痩せた木で戦うのは心許ないと思ってたし丁度よかったぜぇ」
「ハッハッハッ!僕等が本気で戦ったら生命の樹が薪になっちゃうよぉ!」
「そぉ言う事だ!」
「クソが…【狂闘ニヌエム】ゼズド・カダエラかお前…‼︎どうやってこんなに速く!」
「あぁ、お前の部下なら80人くらい死んだぜ?もう30も決着ついたみたいだし、後はお前一人って訳だ」
「なんだと⁉︎」
凹んだ地面から起き上がり、野次を飛ばすも返された言葉に驚愕する。そのまま顔を伏せると肩を震わせーー
「……く…くくく…くはは!……ハーッハッハッハッ!アッハッハッハ‼︎」
ーー笑い出した。
「そうか!そうかぁ‼︎流石は〈キチガイ〉だ!」
「え?」
「あ?」
その言葉に2人は反応した。彼等がキチガイと呼ばれていたのは戦時中、つまり10年も前の話。それを知っているという事は、イヴィードは元軍人か、それに準ずる者という事になる。
「こりゃいい‼︎こんな強者を2人も同時相手出来るなんて、俺はなんと幸福な事か‼︎コイツを手に入れてから15年‼︎待ちに待った時が来たぞぉ!」
「あんさん、僕等を知っとりはるんですかい?」
「あぁよく知ってるとも‼︎俺は15年前までバルト軍人だったからなぁ‼︎その時敵から奪ったのがコイツだ!」
掲げるは巨大な金槌、その頭にはよく見れば小さな文字が刻まれている。
「コイツの名前は【怒鎚レベンナ】‼︎15年前、貴様らは存在は認識されていなかったが、武器は確かに存在した!それがこのレベンナだ‼︎お前等の物もそうだろう!【円刃ニムエム】‼︎【双盾ヴォッシュ】‼︎」
ニヌエムは刃を掴む金具に、ヴォッシュは盾の真ん中少し上にある小さなプレートにそれぞれその名前が刻まれている。
「レベンナを手にした時は大層驚いたぜぇ?何せ力なき者の筈のエンス人がバルト民をハンマー一つで消し飛ばしていくんだからなぁ!だがソイツは俺にアッサリと負けて死んだ‼︎俺は武器に仕掛けがあると睨んだが、大当たり!見ろこの破壊力を‼︎」
ここはイヴィードが襲撃をかけた場所とは反対側だ、そこには倒壊を免れた家がいくつも存在し、彼は近場にあった家へ近づくと、レベンナを一振り。轟音と共にその民家は吹き飛んだ。
「コイツを手に入れてからは戦争が楽しくて仕方なかったぜ!バルトでは大した力もない俺が、コレ一つで一騎当千の猛者だ!だが、同時にこんな情報を耳にする様になった『特殊な武器を持つ者を狙う化物がいる』ってなぁ!それぁお前等の事だろう〈キチガイ〉共!お前等は全員分の武器を手に入れて俺同様戦争を楽しんだ‼︎そうだろう‼︎」
「何言ってんだコイツ」
「知らね」
「そん時の俺は弱かった、お前等に恐れをなして、それでもコイツは欲しくて、軍から逃げ出してた!戦争に混ざらねぇ為に、お前等に狙われねぇ為にだ!だが、俺はあの時の恐怖を忘れた事は1度もねぇ!見えない者に!どんなヤツかも分からないってのに恐怖した事を!だから鍛えた!このレベンナに相応しいだけの力を付ける為だ!そしてその力は今の俺に備わってる‼︎さぁトラウマを打ち消す時が来たんだ、俺がお前達より強いって事……証明してやる‼︎」
「はいはい解説御苦労様ぁ、だったらさっさと証明してみろよカスが」
「長かったねぇ…ワシャもうおじいさんになっちまったワイ…」
「ふふふ……そんな事を言っていられるのも今の内だ、死ね‼︎」
イヴィードは思い切り地面を蹴る。たったそれだけの事で彼が立っていた場所にはその足跡が消えぬ程深く刻まれ、加速は上々、それに見合った推進力で動き出す。
先ず狙ったのはゼスドの左前方た居たヒューロだ。
「バッチこ〜い!」
彼は余裕とばかりに言うと、攻撃に備える。イヴィードがレベンナを振り被ったその時、ヒューロが腕を弧を描く様に動かし、それに合わせヴォッシュが回転。今まで腕を前に出して下方を向いてたソレが、ガコンと言う音と共に腕先の方へ向く。そのまま、まるで殻を閉じるが如く上下に盾を交差させようとするが…
ボォッ‼︎
突然レベンナが火を噴き、防御が間に合わない。腹へ当たる。
そしてーー
カンッ‼︎
「は?」
ーー軽快な音と共にヒューロの姿が消えた。
代わりとばかりに鉄片が宙を舞っている。
ゼズドは自分でも驚く程間抜けな声を出したが、それを自覚する事もなく後方を見る。
「マジかよ……」
そこには巨大なドリルに穿たれた様に幹を抉られ、穴を開けた大木達が倒れようと動き出している。それも一本や二本では無い、見えなくなる程だ。
生命の樹から此方を見ていたオールとミリーナが悲鳴の様な声をもらす。
「次はテメェだ!」
気を取られていたゼズドの背後からイヴィードの声が響いた。瞬時にその場から飛び退き、レベンナが暴風を起こす。
回避を成功させ、着地したゼズドの体は見て分かる程に震えている。
「なんだぁ?怖いのか?」
「いいやそうじゃねぇ、そうじゃぁねぇよ」
その声も震えており、確かに怯えている様に見える。
が、振り返った彼の顔はーー
「ッ⁉︎」
ーー笑み。
「あぁぁあああ‼︎血・が・騒ぐ‼︎滾る‼︎フットーしそうだ‼︎お前程のヤツと会うのは久々だぁ!ははは!ダメだ!武者震いがとぉまぁらぁなぁいぃぃいい‼︎」
体を捩り指を忙しく動かすその姿は嫌悪感を覚える程だ。
「ぐ…気持ちの悪い野郎だ!」
「早く始めようよ!」
先に動いたのはゼズドだった。だが、彼のとった行動にイヴィードは目を疑う。彼は自分の武器であるニヌエムを振り上げ
投げた。
「なに?」
仲間が1人いなくなり、一撃必殺の攻撃を持ったイヴィードを前にしたこの状況で、得物を投げる。到底理解し難い出来事だ。
しかし、彼が持っている武器もまた謎の多い代物、いくら大戦の記実があるとは言え、それが全てとは限らない。
危機感を覚え、その場を飛び退く。
ニヌエムが地面に深々と突き刺さりーー
「よぉけんなよぉ〜!」
「いいっ⁉︎」
ーーゼズドが飛んできた。
イヴィードがヒューロへ向けて跳んだ時とは比較にならない程のスピードだ。着地の前に追いつかれるだろう。レベンナを前方に反撃の用意を整える。
ゼズドは滑空しながら地面に突き刺さるニヌエムの柄を引っ掴み、推進力に身を任せ引き抜くと、今度は体を捻って横回転をしながら斬り下ろす。
現在ニヌエムの全長約3m50。対してレベンナの全長約2m50リーチの差は歴然だ。
当然イヴィードは防御へと移り、その刃を柄で受け止める。が、円刃が回転を始め、ゴツゴツとしたレベンナの柄を滑り、指を断とうとする。
「回転!それがコイツの能力か!」
「そいつはどうかな?お前のは火を噴くのと尋常じゃぁねぇ破壊力って所か」
「ふん!それこそどうかなぁ!」
手を離し柄を傾け流すと同時に、レベンナの頭から火を噴き出させ、柄の下方を握り直すと、その場でハンマー投げが如く猛回転。
ゼズドに止まる術はない。
しかし、慌てる事なく円刃をレベンナに引っ掛け、一緒に回り出す。
「グヒヒ!面白いアトラクションだなぁ!」
「はぁ⁉︎」
イヴィードが驚愕する中、ゼズドは進路上にあった木の幹に足からぶつかると、そのまま張り付く様に静止、力を込めニヌエムを振り払う。
レベンナがその推進力ごと跳ね除けられ、暴走する。急いで吹き出す炎を止めるが、その時にはゼズドがニヌエムを振り下ろそうとしていた。
着地と同時にバックステップで回避、円刃が地面に突き刺さり、柄が動き出す。ゼズドもつられて動き出し、イヴィードを踏みつけんと上から迫る。
更に後ろに下がって避ける。
肩に担ぐ様になったニヌエムを背負い投げの様に振り下ろす。
更に下がる。
もう一度上からの踏みつけ。
「そう何度も同じ手が通じるわきゃねぇだろぉぉお‼︎」
狙っていたのだろう、放たれたレベンナの軌道は、踏みつけの体勢に入ったゼズドを完全に捉える。
「そう何度も同じ手ぇ使うわきゃねぇだろぉぉお‼︎」
しかし、柄は突如回転を止め、それどころか逆方向に回転していく。レベンナが空振り、ゼズドが着地。円刃が地面を斬り裂きながら回転し、イヴィードを両断せんと迫る。
レベンナを振り上げた勢いのまま後方に落とし、跳ぶ。レベンナ頭を軸に弧を描き、頂点で引き戻すと、そのまま横薙ぎに繋げる。それは突き出したニヌエムの円刃に直撃し
カンッ‼︎
「ぬぉお⁉︎」
突如吹き飛ばされたニヌエムを何とか引き戻そうとするが、その強大な力に逆らう事が出来ず、一緒に吹き飛ばされてしまう。
「ヒャヒャヒャ!腕が捥ぎれそうだ!」
笑いながら回転の中、体勢を整え、遠心力を利用し、進路上にある障害物を斬り進む。
当然斬った所で物体が無くなる訳ではないので、宙に投げ出された岩や木々に体を打ち付ける事となるが、ゼズドは抵抗する事なくぶつかり、全身傷だらけになりつつもそれを抑止力とした。
だが、遅くなればなるほど後ろから障害物を吹き飛ばすイヴィードに追いつかれる。
大岩を足場に、イヴィードの方を見た時には既に目の前で腕を大きく引いている。急ぎ飛んでよければ、軽快な音と共に大岩が消し飛んだ。
「マジヤベェ!」
(しかし、物に当たる時しかこの音はしないのか?後何回か試すか)
イヴィードは振り切ったレベンナに火を噴かせ、再びハンマー投げの要領で飛ぶ。軌道の先にはゼズド、此方も同じく円刃を引っ掛け様とし
外した
「お?」
イヴィードは突然進路を変え、地面へとレベンナを全力で振り下ろす。
「吹き飛べぇぇぁぁあああ‼︎」
カンッ‼︎
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「ヒューロ!ヒューロ‼︎起きなさい!」
「あ、どうもおはようございまゴフッ!」
鬱蒼とした森の中、鎧が砕け散り、大木にもたれかかる様にヒューロは倒れていた。彼の側にはミリーナがいる。
彼女はヒューロが吹き飛ばされたのを見て、飛び出してきたのだ。
幸い、イヴィードはゼズドとの戦いでその場を離れ、目撃される事は無かった。
声に反応したヒューロは口から大量の血を吐き出す。内臓にダメージがいっているのだろう。
「あっはは…かっこ悪い所、見せちゃったぜ」
「言ってる場合⁉︎早く手当を…」
「あ〜かなり飛ばされちゃったみたいだねー」
ヒューロの吐いた血に濡れるも、構わず片手を回し、如何にか起こそうとする。が、彼はエルフの女性が持ち上げるには重すぎる。
「ぬぐぐ…っはー!重すぎよ貴方!どうなってるのよ!」
「なぬ!失礼な!」
「いいからじっとしてなさい!」
「大丈夫、自分で、立てる…」
酷くぎこちなくヒューロはその大きな体を起こす。そして盾を杖にし、ゆっくりと立ち上がって行きーー
ボグァァァアアアア!!!!
ーー轟音と共に世界が揺れた。見上げれば2つ目の噴煙が出来上がっている。
直後、途轍もないスピードで大木が飛来し、2人の横へ落ちる。
最早生命の樹付近はグズグズだ。
「あぁ…森が、里が」
フラフラと、誘われる様に歩き出す。
「ダメよ⁉︎そんな体じゃ無理だわ‼︎」
「行かなきゃ…守らなきゃ…」
「聞いてるの⁉︎」
「ははっ、ゼズドさんは鈍ってないって言ってたけど、大分衰えてたみたいだね」
ミリーナが声をかけるも虚しく、ヒューロは止まらない。それどころかその足取りは歩く毎にハッキリとした物になっていく。
「痛いから、苦しいから…そんなの甘えだよ。例え限界だろうがなんだろうが、やらなきゃいけない。それが僕の、僕達のいた環境さ…」
「それって…もしかして大戦の時の」
「…さぁ行こっか、これ以上あの2人に戦わせると、被害が増えそうだ」
ズドゥォォォォオオオン!!!!
「ホラね?」
「でも貴方、そんな体じゃ…」
「大丈夫だって、もう治ってきたから」
「へ?」
確かにバルトの民は異常な力を持つが、再生能力が高まったり、半不死身になる訳ではない。それはセンサの超能力者の特権だ。当然ヒューロも同様に、そんな短時間で傷が治るはずはないのだ。
しかし、彼の足取りはおかしくない。それどころか体の動きに異常が見られない。
「嘘…」
「ま、そういう事。ほないきましょか〜!」
ミリーナは知らない、彼の言う『治ってきた』と言うのは、痛みに慣れてきたと言う意味だったと言う事を。
ヒューロは何も言わず、痛みに耐えながら
歩く。
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「コイツ…化け物か?」
「ご明察!よく分かってるじゃねぇか!」
爆心部にいたイヴィードは、その光景を見て、最早驚く事に慣れ始めていた。
巻き上がる瓦礫、割れる大地、引き抜かれる木々、そして
その中を飛び回るゼズド。
曲芸などというレベルではない、強大な衝撃より巻き上げられたそれらは、弾丸さながらの速度で上空へ飛来している。
ゼズドはそれを足場にして跳び回っているのだ。
「ヒィイヤッハァアーーーッ!!!」
「このゴキブリ野郎‼︎」
ゼズドの斬りおろし、跳んで躱す。
イヴィードの横薙ぎがニヌエムを狙い、それより速く地面から抜かれる。
両者踏み込み、ゼズドの間合いだ。横一文字を這う様にして通過させ、返す刀を跳んで避け、レベンナに火をつける。
空中で数回転した後、その勢いを落とさぬまま振り下ろしに繋げる。だが、その前にニヌエムが突き上げられ、レベンナを逆噴射。体ごとひっくり返り、振り上げに変更する。
しかしゼズドもそんな物に当たってはくれない、突き上げたニヌエムをそのまま後方に下ろし、それを支えとして跳躍、事無きを得る。
着地、睨み合い。いや共にその表情は笑っていた。
「中々の反応速度だ!悪くない、悪くないぞぉ!寧ろ…イイ‼︎」
「ハハハ!余裕だな【狂闘】!俺もまだまだイケるぜぇ?」
(とは言ったものの、体力の消耗が激しいな…対して奴はガキみてぇに元気でいやがる…だが、あの円刃をぶん殴った時と、さっきの振り下ろしで瓦礫に当たってダメージは入ってる筈だ!俺がポカやらかさなきゃぁ殺れる!殺れるぞ!それに!もしもの時はアイツ等もいるしなぁ!)
先程跳んで行った瓦礫が落ち始める中、結論を出し、イヴィードは一層頬を吊り上げ、レベンナを天高く振り上げる。
「まぁ決着がついた時にゃぁこの里が無くなってるかも知れねぇがなぁぁあ‼︎」
そして地面を打たんと叩き下ろす。
イヴィードはゼズド自体を狙う事はやめていた。狙うは二次災害、レベンナによって破壊された物の細かい破片での攻撃。
いくらゼズドと言えど、岩石が落下する中、足場すら吹き飛ばされ、高速で飛んでくる破片を全て防ぐ事など出来はしない。
(どうせレベンナの破壊力じゃぁ受け止める事も出来やしねぇ!テメェにある選択肢はレベンナにぶっ潰されるか、破片に蜂の巣にされるかの二択だ‼︎勝ったぞ〈気狂イ〉‼︎)
カァァアン‼︎
甲高い音が鳴り響き、瓦礫が落ち始めた。
地面に変化は
ない。
「ば、馬鹿な⁉︎」
「あ〜やっぱりそうか。段々分かってきたぜソレの仕組み」
ゼズドはレベンナを受け止めていた、それも片手だ。
進路上に塞がったニヌエムの矛先は、レベンナの柄を受け止めている。
弾き、間が生まれる。
イヴィードが汗をかき始めた。
「先ず火の噴射、こりゃ牽制、放射、推進力への変換と色々出来るみてぇだな?だが、その火はハンマーの両面、縁に開いてる穴から出てやがる。そしてあの破壊力だが、何か物体に当たらねぇと発揮出来ねぇみてぇだなぁ?空振りじゃあの音もしない。よくよく見れば火を噴く噴射口と内部の面の間に溝がありやがる。差し詰め、物体に当たると同時に片側の面が動いて中から叩き、衝撃を対象の内部に送るってところか。動力源は魔力。それ等によって生み出される破壊力が尋常ならざる物ってなりゃぁお前の力でもアレだけの事が出来るのだって辻褄が合う。つーまーりーは、だ!その面にさえ触れなきゃテメェ自身の力しか出せねぇって訳だ!」
完全に図星だった。ゼズドはイヴィードがレベンナを手に入れてから知り得た情報を、この短時間で解析して見せたのだ。
イヴィードに先程までの余裕なぞありはしない。
「さて盛り上がって来たところで俺も本気出していくとしますかぁ!」
「なん…だと…⁉︎」
(今まで加減してたってのか⁉︎んな馬鹿な⁉︎そんな事あるはず…)
思考は途中で断たれる。またしてもゼズドが衝撃の行動に出たのだ。
踏み込み、繰り出された攻撃は
斬り上げだった。
(ありえない…)
現在、ニヌエムは棒の上に輪を乗せたような形状だ。石突きの代わりに金具が残っており、その全長は約350センチ。刃180センチ、柄160センチ、金具10数センチだ。
斬り上げで威力を出そうとすれば、どうしたって地面に当たり、止まってしまう。
ならばゼズドはどうやったのか?
地面ごと斬って見せた
「ゥウィッヒ‼︎」
「ぐぉぉお⁉︎」
柄で受け止めたイヴィードが打たれたゴルフボールの様に飛んでいく。
落ちてくる岩を砕き進み、大木に背中を打ち付け、地面に落ちた。
「ゴホッ…ガハッ…⁉︎なんだこのパワーは⁉︎」
咳き込み、顔をあげれば迫る者がいる。
輪で円を作り、円で球を作る。
進路上のモノを削ぎ、薙ぎ、斬り刻む。
球をの中心にいるソレは
「ヒヒャハハフヒハハハフフフハヒヒイヒハ‼︎」
狂った闘争の化身。
「なんだこりゃ!なんだコイツは⁉︎狂ってやがる…‼︎」
接近に合わせ、レベンナを振るも
ガキッ!
防がれる。
「クソッ!クソッ‼︎このキチガイがぁぁあ‼︎」
両の頭から交互に火を噴かせ、目にも留まらぬ連撃を叩き込む。
縦に横に
右へ左へ
上へ下へ
縦横無尽に叩き込む。
ズガガガガガガガガガ……
「やめろやめろ、自分が劣ってるからってそう僻むなよ」
しかし届かない。
全くと言っていい程だ。全ての軌道の上に、まるで予測しているかの様に円刃が立ち塞がり、その柄を止める。
ガガガガ……
止める。
ガガガガガガガガ…
止める。
ガッ
止まる。
円刃の中に、レベンナの頭が入っいた。
「ホラ、落として見ろよ」
カンッ‼︎
わざと落とされたレベンナが軽快な音を立て、その破壊力をみせつける。
突風が発生し
草花は散り
大地が飛び跳ね
家々が倒壊し
瓦礫が巻き上がり
木々が引き抜かれ
地面が割れ
地層が捲れ
地盤が陥没し
世界が揺れた
「やっぱ物体に当たらねぇとダメなんだなコレは!」
それでも届かない。
「な、何故だ…⁉︎俺は、俺は強くなったんじゃぁねぇのかよぉぉお‼︎」
「ああ強いぜ?上の中くらいだ。だが、戦時中はお前程度のヤツはわんさかいやがった。上の上との間にある壁が絶対的なんだなコレが」
瓦礫が落下する中、イヴィードの前に立つゼズドは、傷こそあるがそれがダメージに繋がっているようには見えない。
「クソッ!クソッ‼︎こんな筈じゃ…こんな筈じゃ!」
「お前その〜、レベンナとか言ったか?それに相応しい力がどうのとか言ってたが、全然だぜ?その武器はそんな生半可な自己満足で振るっていいもんじゃぁねぇ!勘違いしてるみてぇだから教えてやるよ。それ等特殊な武器を狙ってたのは俺達じゃぁねぇ、その内の一人、つまり個人だ。そしてそいつが武器を欲した理由は単純明解、破壊する為!この世にあっちゃいけねぇんだよ円刃ニヌエム等は」
地面を殴るイヴィードの前にしゃがみ込み、ゼズドは続ける。
「早く続きをしようぜ?簡単に終わっちまったらつまらねぇだろう?せっかくそんな大層なモン持ってんだからさぁ?」
項垂れるその表情は見えない。肩は震えている。
「く…ははは。もう勝てねぇよ…」
「あ?」
「俺一人じゃぁなぁ!」
顔をあげれば笑みがある。イヴィードの心は折れていない。それをみたゼズドも笑う。
「なんだ?まだサプライズをくれんのか?嬉しいぜぇオイ!」
「ふひひ…それ程のモンじゃぁねえよ。まだ気が付かないのか?」
「あ?あ〜…失敗した。コッチに意識が言って全く気付かなんだ」
------------------ーーー
時を同じくして、エルフの戦士達は戦っていた。
「精鋭を前に出しなさい‼︎傷ついたものは引くのです‼︎」
「ダメです‼︎敵が散開しすぎて全貌を把握出来ません‼︎抜けられます‼︎」
「絶対に通してはなりません‼︎最低三人に一組で散りなさい‼︎」
「三班全滅‼︎二番隊が大きな被害を出しています‼︎」
「敵のペースに流されてはいけません‼︎後ろには皆の家族がいるのですよ‼︎コナードさん達はどうなっているのですか‼︎」
「援軍を呼びに行った者が戻りました‼︎現在生命の樹でも交戦中‼︎敵将が現れ〈気狂い〉2名が抑えているとの事です‼︎コナード、サンロ、ミンレンの三名は敵将との交戦で戦闘不能に陥りました‼︎」
「そんな馬鹿な‼︎三人が揃ってやられたと⁉︎」
「南の150名が到着しました‼︎」
「直ぐに加勢する様に伝えなさい‼︎それと交戦中の〈気狂い〉両名の監視をつけなさい!もし彼等が負ければ後はありませんよ‼︎」
交戦相手は不明、恐らく〈怒鎚傭兵団〉繋がりの者だろうが、銃器は持っておらず、強さも桁違いだった。
数は把握しているだけで150を超えており、精鋭を前面に押し出す事で拮抗しているが、敵は広範囲に散開しており、対処しきれてない。
生半可な戦士ではあっという間に抜かれるのだ。
「死ねぇぇえ‼︎」
「死ぬのは貴方ですよ‼︎」
上から襲い掛かってきた敵の刃を流し様に剣を振るう。しかし相手は反応し、仰け反る事で擦り傷にとどめた。
やはり強い。
その後三合ぶつかり斬り伏せるも、敵の数は未だ多い。
「やってくれますね…‼︎」
ニールは歯を食いしばった。
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「はは…ははは!ハーハッハッハッ‼︎俺達傭兵は独自のコミュニティーを持っている‼︎今この里を襲ってるのはバルト全土から集まった殺し好きの中でも選りすぐりの精鋭よ‼︎その数200は居る‼︎さぁどぉする【狂闘】‼︎まだ俺とやるってんなら俺は全力で逃げるぜぇ?その間被害は増えるだろうがな!」
「コイツ…‼︎」
気を張り直したゼズドは今起こっている事に気がつき、せせら笑うイヴィードに青筋を浮かべる。
「ハハハハハ‼︎どうするんだよなぁ!なぁ‼︎どっちか選べやぁ!」
(来るなら宣言通り逃げる‼︎向こう助けに行くなら挟めばいい!いくらコイツでも俺+200は無理だろう‼︎もしそれでもダメなら見切りつけて依頼対象だけさらって逃げればいい!どう転んだって悪くはならねぇ!おれの勝ちだぜ最強さんよぉ‼︎)
ゼズドは、しばし引き攣った笑みを浮かべた後、背を向けーー
「んじゃ俺はその精鋭とやらをぶっ殺してくるとするか」
(ははっ!行くか!馬鹿め!)
「約束通だ、大将はくれてやる。後は頼んだぜ”ヒューロ”」
ーーそう言った。
「な…に…?」
「任されました〜」
後方から声が聞こえ、恐る恐る振り返るとそこには。
「やぁ!さっきぶり!」
ヒューロ・カッシが立っていた。
次
回予
告
突如として現れた殺人鬼200人撃退に走るゼズド。その裏で始まるイヴィードVSヒューロ。その実力とは如何程の物か!キチガイ共の激闘はまだ続くのか⁉︎
次回、八強者、第一章第9話
暴走タンク
お楽しみに!
オール「僕の影薄くありません?」