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八強者  作者: アシタビト
第1章 闘争国バルト
7/13

第1章第7話 怒鎚傭兵団

時間が前後しているので分かりにくいかも知れませんので、気をつけてください。

「ヒューロさん!敵ですよ!起きて下さいよ〜!」


ここは生命の樹内に造られたエルフの城の、ヒューロにあてがわれた部屋。その中でオールは必死にヒューロを起こそうとしていた。

それと言うのも、ヒューロが2日前から部屋から出なくなり、戦いが始まり外が騒がしくなって尚、布団に引きこもっているからだ。


「ゼズド君1人で十分しょ。ぼくひつようない」

「いやその為に来たんでしょう⁉︎働いて下さいよ!」

「働きたくないでござる!」

「くっ!こうなったら力尽くで!…って、重っ⁉︎もう!死人が出るかも知れないんですよ‼︎」


押しても引いてもビクともしない。流石の巨漢ヒューロである。

しかし。死人が出ると言う単語に、モゾモゾと動いていたものがピタリと止まる。


「人って、たった10年で変わるものなんだね…」

「へ?いや、そりゃぁ10年もあれば変わる人は変わるでしょうけど…」


突然の問いかけに、そう答える。


「10年”も”か……」


ヒューロは呟き上体を起こした。


「やっとヤル気になってくれましたか…」

「うん、まぁ、ね。さってと〜準備しますか〜」


言いながらベッドから降り、部屋の隅に置いてある自分の武具を手に取る。

ガゴン!と音を立てて持ち上げたソレは鎧。上がるのは胴体部分だけで、中から置き去りにされた頭部、腰部、腕部、脚部が出てくる。


「よっこらせ」


その鎧、鉄板を複雑に折り重ね、フレキシブルな構造になっており、見かけよりも機動性がある。

まるで被る様に胴部を身につけると、腰、脚、腕をガチャガチャと嵌め込む様に装備し、最後にヘルムを被る。

しかし、鉄板の上から鉄板を重ねられたソレに隙間と言う物は一切なく、全体の厚さは平均2.5センチ。到底身につけて動ける重量ではない。そこからさらに【双盾そうじゅんヴォッシュ】を付ける。

双盾そうじゅんヴォッシュ】は側面、表面、共に装飾でゴツゴツとしているが、大雑把に言えば一角の長い台形、双方共に形は同じであり、表面の装飾が左右対象になっている。厚さ10センチ、高さ150程度の大盾だ。


「どっこいしょ」


気の抜けた掛け声と共に、軽々と【双盾そうじゅんヴォッシュ】を持ち上げる。

その姿に何時も巫山戯ていたヒューロの面影はない。まるで城壁の様な見る者を圧倒する凄味が今の彼にはあった。


「多分里の皆は避難してると思うから、オール君もその部屋に送るよ」

「分かりました」

「さ、行こうか」


そして2人が歩き出そうとしたその時。


カンッ‼︎


世界が激しく揺れた。


---------------------


「オイオイ…冗談だろ?」


ゼズドがそう呟いた直後、銃弾が彼へ殺到し、賊達が勝利を確信する。

しかし、彼は銃弾の雨の中、その姿を消してしまう。


「き…消えやがった…」


マシンガンを持った男がそうもらす。


「馬鹿野郎!後ろだ!」


マシンガン持ちの記憶は、その叫び声が聞こえた所で途絶えている。

ゴトリ…と男の頭が地に落ちた。


「クッソ!速ぇ‼︎」「畜生!」「見えねぇぞ!」「どんな脚力してんだよ!」「流石は〈気狂きぐるい〉だな!」


木々が揺れ、その度に黒い影が行った来たを繰り返す。

それがゼズドだった。

木や地面を有り余る脚力で蹴り上げ、霞む程のスピードで跳ぶ。まるでバッタかカエルの様な動きだが、相手にしている賊にとっては洒落にならない。

大き過ぎる円形の刃は、誰かの側を通り過ぎる度に容赦なくコレを両断し、肉塊を生成する。血飛沫が飛び散り、周囲を赤く染めていく。まるで電動カッターが飛び交ってる様だ。

賊は怒号を上げながらそれに向かい銃を乱射、殆ど見えてはおらず当たる事もない。中には視覚出来ている者もいるが、当然追いつかない。


(どう言う事だ?)


しかし、ゼズドの注意は殆ど彼等へ行っていない。銃弾も、剣戟も、全て横目だ。代わりにその集中は生命の樹へと向かっていた。


「転移して来やがった」


事実を再確認する様にゼズドは呟く。彼は生命の樹付近に何者かが転移したのを感じ取ったのだ。そしてそれは、今現在ゼズドが感知している外からやって来ている。つまり昨日までこの里にいなかった者。


「マジかよ、おっぱじめやがった」


そしてその気配は、生命の樹の警備に当たっていた気配を一つ、消した。

エルフが一人、死んだ。


「っち!とっとと終わらせるかぁ」


文句を一つ垂れ、着地。賊の前に姿を現す。


「いたぞぉ‼︎」「今だ!」「殺っちまえ!」「死ねぉオラァァ‼︎」


空かさず賊が飛びかかり、銃口が火を噴く。


「邪・魔・だ‼︎」


そして多くの命が刈り取られた。


---------------------


生命の樹の根元に2人の男が立っていた。


「俺達、こんなところで燻ってていいんだろうか?」

「何言ってんだ、ここには里の皆が避難してるんだぞ?立派な仕事だろうが」


そんな会話をしつつ、戦っている仲間を信じ、警備に目を光らせる。

そこへ”来るはずのない敵”がやって来た。


「ち〜す」

「な⁉︎バカな⁉︎」

「お、お前は⁉︎」


身長170後半、イカツイ顔は40代と言ったとこだろう。燃えるような赤い髪を背中まで伸ばしだ男。その服装は黒一色。ジャラジャラと金属製のネックレスやチェーン、指輪やピアスなどをこれみよがしに付けている。

何より目立つのはその手に持つ得物。ゴツゴツとした高さ150センチ程の柄に、似合わぬほど巨大な頭がのっている。合わせて2.5メートルはあるだろう金槌。

その人物こそ〈怒鎚いかづち傭兵団〉団長ーー


「イヴィードさんだよ!」


イヴィード・ラハスだった。


「どうやって此処に⁉︎」

「クソッ‼︎応援を呼べ!俺が足止めする!」


いきなりの大将出現に2人の緊張はMAXだ。どうやって仲間を退けた?何故今まで誰も気づかなかった?そんな疑問は全て吹き飛ぶ、何せこのイヴィードこそが敵の最大戦力にして最悪の大敵。その一撃は地を割り、大地を揺るがす。

当然この2人に勝目はない。


「分かった!無理するなよ!」

「いいから早く行け!あの武器ではそう早く動けまい‼︎」


2人は一瞬で何が一番の手かを考え、それを実行へと移す。1人は構え、1人は他の警備がいる方へ向かい、走り出した。


「どこ行くんだよ?」


カンッ‼︎


構えていたエルフの後ろで軽快な音がなった。


パァンッ‼︎


その音と重なる様にして何かが破裂する様な音がする。

目の前にイヴィードの姿は


ない。


エルフが後ろを振り返った時、その目に映ったのはーー


「な…ッ⁉︎」


ーー木っ端微塵に吹き飛んだ同僚の姿だった。

ビシャビシャと細かい肉片が地面に落ち、大地を血色に染めていく。


(バ、バカな⁉︎み、見えなかったぞ⁉︎)

「ふふはははは‼︎」


金槌を肩に担ぎ直したイヴィードはエルフの方へ向く。その目に宿るは狂気、おおよそ人がする目ではなかった。


「俺ん用はそん中だ、だが目撃者は皆殺す!堂々と入っから精々俺を見つけねぇ様に気をつけろよぉ?ま、こんな事言っても意味ねぇか、お前も死ぬんだからよ‼︎」

「⁉︎」


瞬間イヴィードの姿が視界から消え


バギィン‼︎


頭上から音がした。


「させないっスよ‼︎」

「チィ‼︎」

「サンロさん⁉︎」


見れば空中で金槌の柄に剣を押し当てるサンロの姿がある。


「お前は下がってろ!」

「こんなところまで大将が来るとは…向こうは無事なんだろうな⁉︎」


続いてコナード、ミンレンが現れ向かっていく。

地上に叩き落とされ着地した瞬間を狙い、コナードが大剣を振り下ろし、それをイヴィードが受け止める。


「クッソ!バカ力が‼︎」

「潰れろ‼︎」

「断んよ!」


柄を斜めにし、大剣を地面へと流す。イヴィードはその勢いのまま金槌を大きく回し、遠心力を上乗せした一撃を向かわせる。


「それに当たってはいけません‼︎」

「くっ⁉︎」


エルフの男の叫びに、コナードは咄嗟に飛び退く、入れ替わるようにしてミンレンの矢が飛んで行き、イヴィードはそれを鷲掴みにする。


「アイツの一撃は尋常じゃありません!そこの血溜まりは…ケネクです、木っ端微塵に…!」

「何だと⁉︎」

「遅かったか!」

「畜生!許さねっスよぉ‼︎」


エルフの男の声に一同は驚愕し、すぐに怒りを露わにする。一瞬で頭に血が上ったサンロは飛び出し、驚異的なスピードで距離を詰める。


「ダメです⁉︎ソイツも速い‼︎」


叫ぶも遅い。イヴィードはさも当然の様に巨大な金槌を振り被るが、その動作はまるで何も持っていないかの如く軽い。

サンロの突貫に合わせ、己が得物を振り払い、そして


空を切った。


「ナニィ⁉︎」

「確かに速いみたいっスけど‼︎」


サンロが猛スピードで細剣を振るい、イヴィードが急ぎ戻した柄でそれを防ぐ。


「俺の方がまだ、チョット速いッスヨォ‼︎」


流れる様な連撃、イヴィードは必死に防いでいるが、一手遅れている。


「す、凄い…」

「若造は引っ込んでいろ!」

「応援を頼む、正直我等三人だけで勝てるかは未知数だ。何せ一撃喰らえばあの世行きだからな」


エルフの男へそう声をかけると、再びコナードとミンレンが動き出す。男も自分では役に立てないと悟り、仲間の元へ走り出した。


「ゴルァ‼︎逃げてんじゃねぇゾォ‼︎」

「お前の相手は俺っスよ‼︎」

「混ざろうではないか‼︎」

「私が援護する!可能な限り攻撃を続けてヤツに漬け込ませるな‼︎」


高速の3連撃、入れ替わる様にして破壊の断剣が振り下ろされ、それを流せば矢が刺殺する。

サンロ、コナード、ミンレンの見事な連携だ。


「ダァ!畜生‼︎しゃらくせぇ‼︎」


しかし、イヴィードも相当なものだ。3連撃を遅れながらも最低限の動きで受け切り、剛腕から放たれる一撃を流し、その場を飛び退く事で矢を回避。まるで全方位が見えているかの様な動きだ。


「面倒っスね…」

「丁度我等を足して割った様なヤツだ」

「一筋縄ではいかないか」

「へへへ、里の強者がこうも揃うとはなぁ…あの野郎、俺にコイツ等も始末させるつもりか?」

「何?」

「オイオイ忘れたのかよ?俺たちゃ傭兵団だぜぇ?雇われたに決まってんだろ!ま、もっとも依頼人の名前は死んでもバラさねぇけどなぁ」

「依頼人だと⁉︎」

「そうだよバカかテメェ等。俺等イカれた野郎の集まりがこの里に早々奇襲成功なんてさせられるかってーの。内通者がいる訳だ」

「そ、そんなぁ…里の何処かに裏切り者がいるってことッスか!」

「ははは!そうだそうだよそうやって仲間内で疑いあって疑心暗鬼になりやがれ‼︎」

「騙されるな!我々を同様させる嘘に決まっている!」

「はっ!そう解釈するのもお前の自由…まぁどっちでもいいが。オレァお前等強者殺すまで金もらっちゃいねぇんだ、別口で殺してやるから後でにしろ」

「それで逃がして貰えるとでも?」

「だよなぁ〜あー面倒クセェ…しっかたねぇ、ちっとばかし面白いもん見せてやるよ」


そう言ってイヴィードは構えると叫ぶ。


「力貸せやレベンナァ‼︎」


瞬間、金槌の頭の片側が火を噴いた。


「なっ⁉︎」

「なんだありゃ⁉︎」

「ボサッとするな!来るぞ」


それはジェットエンジンよろしく強大な推進力を生むと、目にも止まらぬスピードで動き出す。

狙いはコナードだ、瞬時に距離を詰め、金槌を振り払う。


「速っ……⁉︎」


コナードは意表を突かれ、動けない。


「危ねっス!」


が、またも空振りだ。サンロがコナードを押し、自らは引く事で事なきを得る。


「驚かないで下さい、アイツの武器が速くなっただけで、アイツ自身が速くなった訳じゃねっスよ〜!」

「す、すまん…」

「だがアレは厄介だぞ!私の腕でも全く当たらん!」

「ああは言ったものの、まさか3人がかりでこれ程手こずるとはな…」

「あの武器が厄介っスね…せめてアレを如何にか出来ればジリ貧で勝てそうっスけど」

「そう上手くは「ダベってんじゃねぇぞオラァ‼︎」行かんよな‼︎」


ブオンブオンと金槌が振り回され、そのたび熱と突風が巻き起こる。

3人はバラバラに散り、3方向から攻める。しかし、火を噴く金槌を巧みに操るイヴィードには一歩届かない。

サンロが駆け、剣による連撃を試みるも、速さを上乗せされた金槌の攻撃範囲は広い。コナードがその怪力を存分に使った一撃を放つも遅過ぎ、ミンレンの矢は終始動き回るイヴィードを捉えられない。


「あ」

「サンロォ!」

「分かってるっス‼︎」


コナードが一瞬の不意を突き、イヴィードの金槌を勝ちあげる。同時にコナードの脇を抜け、サンロが駆ける。胴を切り裂かんと放たれたその一撃はーー


「っと危ねぇ‼︎」


足裏で受け止められた。


「コイツ靴になんか仕込んでるっスよ‼︎」

「言ってる場合か‼︎」


2人が飛び退き、先程までいた場所に金槌が振り下ろされる。轟音が鳴り響き、大地を揺らし、地面が陥没していく。3人は体制を崩し、その隙を見逃さずイヴィードが突撃、ミンレンへ向かう。


「先ず一匹ィイ‼︎」


振り被られた金槌は動き出し--


「しまっ」


--3度目の空を切る事となる。

逸早く体制を立て直したサンロがミンレンを助けたのだ。

その時、この場にいた全員が悟る。


『平行線か…』


両者決定打が決まりそうで決まらない、恐らくこの先も同じ状況が続くだろう。力、速度、洞察力の3に対し、1人のオールラウンダー。コレではどちらかの体力か集中力が切れるまで戦い続けなければならない。

しかし、そうなれば3人の方が有利なのは明白、しかも時間が長引けば援軍も来る。


(((勝てる)))


3人は確信した、そしてその確信は



イヴィードの言葉によって掻き消される事となる。



「あ〜!あ〜!面倒クセェ!面倒臭ぇ‼︎テメェ等面倒くせぇよ!なまじ強い分手加減がしにくい!金になりそうだったから生かしてやるかと思ったけどもういいわ…まぁチャンスは残してやるから頑張って生き延びてくれや」


3人はそれがハッタリだと思った、実際イヴィードの動きには余裕がある様には見えない。手加減していたと言うなら、残りの力は一体どこから出てくると言うのか?そうしている間にもイヴィードは金槌を振り被り、それを地面に向かって振り下ろす。


カンッ‼︎


軽快な音が鳴り。


突風が発生し

草花は散り

大地が飛び跳ね

家々が倒壊し

瓦礫が巻き上がり

木々が引き抜かれ

地面が割れ

地層が捲れ

地盤が陥没し

世界が揺れる。


響いた軽快な音に、仲間を呼びに行ったエルフは思い出した。


(あの軽快な音が鳴ったのはアイツが殺された時だけだった)


---------------------


「こりゃ決まりだな」


その頃ゼズドは揺れる大地を物ともせず走り、呟いた。

見上げた先に移るのは噴煙の様な砂煙り。

大地の揺れと合わせ、それが人為的な物だとゼズドは考える。


(さて…今度はどんなぶっ飛んだモンが出てくるかねぇ?)


考えながら目的地に到着する。そこは里の南側、怒号が飛び交い、剣戟の音が木霊する戦場だ。


(だが、その前にコッチか)


エルフの里は大きい、兵の数も1000は超えている。この場にも150近いエルフがおり、戦闘を行っていた。

しかし、先程の揺れと、雲を形成している砂煙りにエルフ達は動揺を隠せない様だ。反比例する様に賊は笑みを浮かべ、手に持った銃器の引き金を引いている。


「ギャハハ!死ね!死ね!し「お前がな」ぎゅ⁉︎」


ゼズドは屋根の上に登り、マシンガンを狂った様に乱射していた賊を真っ二つにすると、その場から里を見渡す。


生命の樹あの上にいた時から思っていたが…やっぱりおかしいよなこりゃぁ…)


賊が侵攻して決たと思われる場所は、どこも大蛇が通った後の様になっており、現在賊と戦闘している後方も同様だ。


(前にサンロは言ってたな)


ゼズドは生命の樹の上でサンロと会い、その時聞かされた情報を思い出す。


『ヤツ等は決まって一箇所を大胆に破壊しながら進んで来るっす。でもソレは囮で、本命は別働隊なんスよ。本隊は壊すだけ壊して直ぐに帰るって分かってるんで、皆里の守りを固めるんスけど、どう言う訳か守備の薄い所を突かれちまうんスよね…』


(おかしい…確かに里はデケェが、若い期間の長ぇエルフは3分の1が戦士だ。1000はいる。それに対して敵は10分の1、別働隊なぞ作ったらもっと数は少なくなる。当然ソレに比例して防衛するエルフも少なくなるってのに、警備が薄くなるもクソもあるかよ。誰かがどっかに集中させてるとしか考えられねぇ)


戦場を見渡し、気づく。


(ニールもサンロもいねぇ、警備を指揮してたダークエルフもいなけりゃ、樹の上にいたミンレンとか言う奴もいねぇ…確かに俺はここの防衛を最低限にしろっつって有無を言わさず飛び出したが、流石にここまで戦力を減らすか?)


そうしていると、賊の何人かがゼズドに気づき、指を指し銃口を向ける。瞬間血飛沫が舞い、肉塊の間にニヌエムが突き刺さった。

ゼズドは飛び降り、ニヌエムを引き抜くと、近場にいたエルフを捕まえて問う。


「エイグニール・アリュッセルは何処だ?」

「へ?ぞ、族長なら北東に向かいましたが?」

(俺の言葉の意味を理解して指揮を取りに行ったか、ただのビビりか、はたまた別の何かか)

「他の隊長クラスはどうした?」

「コナードさん達なら生命の樹で防衛に当たっています…」

(こちらも同じく、女子供を守る為か、ただのビビりか、はたまた別か)

「ミリーナとか言う女族長は?」

「避難しているに決まってるじゃないですか!」

(まぁそうか)

「あ〜じゃぁ兵の配置や数はどうやって決める?」

「族長が場所と数、作戦を決め、隊長や班長が判断して組み分け、細部の配置を決めます」

(つまり族長、隊長、班長とそれぞれの意見が組み込まれてる訳だ。一番怪しいのは族長だが、どいつにも弄くるチャンスはある訳か…)

「ッチ!裏切り者を絞り込むのは難しいなオイ!」

「へ?う、裏切り者⁉︎」


言うや否やゼズドが円刃を振り上げ、振り下ろした。


「どけ!」

「うわぁ!」


エルフの後方にいた賊が肉塊へと変わり、もしゼズドがソレを倒さなかったらどうなっていたか、考えたエルフはゾッとした。


「よぉし!面倒だから頭ふん縛って吐かせるか!そう言う訳でちゃっちゃと殺るから、かかって来いやオラァァ‼︎」


言いながらゼズドは円刃の下方を蹴り飛ばす。するとガコン!と音がしたと同時に、リングに棒をつっかえた様な形をしていたソレは、棒の上に輪を乗せた形へと変わった。まるで槍だ、いや、槍と言うには刃が大き過ぎ、柄が短い。巨大な長巻とでも言ったところだろう。


キィィィイイイイ‼︎


その状態で尚円刃は高速回転を始める。

賊はゼズドの声で存在に気づくと、果敢に向かっていき、武器を振り上げる。


「死ねぇ!」

「煩ぇ!」


だがリーチの差が歴然だ。ゼズドは敵の間合いにすら入らず、横の一振りで胴体を分かつ。

その勢いを止め、体を捻りなが、投擲する様にニヌエムを振り下ろし、後ろから向かってくる敵を両断すると、円刃が地面に突き刺さり回る物が柄に変わる。当然掴んでいたゼズドが弧を書きながら飛び、向こう側にいた男を踏み潰す。

更に担ぐ様にして持った円刃を、力のまま地面から引き抜き振り回し、両側から襲いかかろうとしていた賊を切断、そのままぶん投げる。銃を持った敵の上半身と下半身が別れを告げた。


「銃兵集まれぇ!固まって奴を撃ち殺せ!他は特攻だ!時間を稼げぇ!」


一層大きく怒号を上げる背の高い獣人の男がゼズドの目に止まる。賊はその人物の指示通り固まり始め、近距離武器を持った者達がゼズドへ向かい走り出す。


(あいつがここのリーダーか…どうしてくれよう?情報を吐かせるか?いや、時間がねぇ。まぁ3人いるとか言ってたし頭も残ってるし、いいか)


しかしながら、エルフもそれを良しとはしない。数で圧倒されている上、注意が別のものへ向き、銃の援護がない賊はみるみる数を減らし、ゼズドに到達するも瞬時に薙ぎ倒される。賊はもう集まった銃使い11人しか残っていない。


「撃てぇえ‼︎」


号令と同時に銃口が火を噴く。

無数の弾丸がゼズドへと向かって行き、なんとソレを弾きだした。柄や刃を使い、弾道を逸す、あるいは塞ぐ。

だがここはバルトだ、同じ芸当が出来る者など探せばいくらでもいる。賊も動じる事なく撃ち続ける。その間にもゼズドは進み続け、誰かが、その足元に何かを投げた。

それは手榴弾だった。


「あ、やべ」


それだけ言い残して爆煙に包まれる。尚賊は撃つ事をやめない、手榴弾の1発や2発でどうこうなるとは思っていないからだ。銃弾を満遍なく煙に撃つも、何かに弾かれる音はしない。


「待て!なんの音もしねぇなんて逆におか…」


可笑しい。

指示を出していた男がそう言おうとしたその時、何かが振り下ろされた。視線を下げれば円刃の円内に入ってるではないか。

ニヌエムは両刃だ、最大級の悪寒が走り抜ける。


「まッ‼︎」


静止の言葉を告げようとした時、ニヌエムは触れ抜かれた。

ドシャ!

彼の上半身が落ちる音で残る賊が全員後ろを向く。その間に4人の首が一斉に飛んだ。賊のがたじろぐ、その間に2人が臓物をぶちまけた。残りが攻撃に打って出ようとする。その間に3人肉塊へと変わった。最後の1人が逃げ出す。


「うわぁぁあ‼︎化物だぁぁああ‼︎」


背を逃げ出した彼は、肩を捕まれ、万力の様な握力で潰される。


「ぎゃぁぁあああ‼︎」

「オイオイ、今まで散々好き勝手やって置いて逃げ出すって、そりゃぁねぇだろう?」

「た、助けてくれ!謝る!もう殺しはしない!この通りだ頼む!頼む‼︎」

「ん〜、そうだな、向こうで殺した奴等に許可貰って来い」


裏拳によってその男の首から上は何処かへ飛んで行った。

エルフ達はその光景を呆然と見ている。


「何見てんだ見せもんじゃねぇぞ」


その一言でエルフ達は我に返り、それぞれが動き始める。


「ったく、何驚いてんだか。この程度サンロだってできらぁよ、精鋭揃いが聞いて呆れるぜ。ま、用事は終わった訳だ、さっさと向かうか」


生命の樹へ向け、ゼズドが駆ける。


---------------------


「オール君掴まって‼︎」

「な!なんですかコレ」

「分からわないよ‼︎」


ヒューロとオールは突然の轟音と揺れに狼狽した。部屋中の物が倒れ、動き回る程の揺れだ。オールは立っていられず、ヒューロも盾を杖にし、四脚でやっと耐える。

やっと揺れが収まった、そう思った瞬間、何処かで爆発音の様な音が響き、再び樹を揺らす。


「…‼︎不味い!あの方向は‼︎」

「ヒューロさん⁉︎どこ行くんですか!」


言うや否や、ヒューロは走り出し、その余りある力で壁をぶち破っていく。オールもそれを追うが、ヒューロのスピードは体格に見合わずとても速い。追いつけず、破壊音だけが響く中、オールは壊れた壁を目印に進んで行き、やっとヒューロの姿を発見した。


「ヒューロさん!」


そこにはヒューロ、ミリーナ、そして見知らぬ赤毛の男が1人。男は肩に巨大な金槌を担いでいる。オールはこの男の特徴を見て、目を見開いた。


「こ、この男⁉︎」

「お?なんだガキンチョ、俺ん事知ってのか?いや〜有名人は参っちまうぜ〜!そうだぜ俺こそが〈怒鎚いかづち傭兵団〉が頭領イヴィード・ラハス様だ!はっはっはっ!」


堂々と言い放ち、笑うイヴィード。その姿には謎の重圧がある。オールはたじろぎ、ヒューロは無言。そしてミリーナは口を開いた。


「貴方の…貴方の目的は何⁉︎何故里を襲うの⁉︎」

「そりゃお前をさらう為だ」


一拍も置かず、さも当たり前の様に言い放ったその言葉は、この場にいた全員に衝撃を与えた。


「んー?な〜に驚いてんだよ?外にいたヤツにも言ったがよぉ〜俺達は傭兵団なんだぜぇ?依頼されてやってるに決まってんだろ、テメェ等の身内からな!ギャハハ!」

「う、嘘よそんなの…そんな事あり得ない!」

「そう思うんならいいんじゃねぇか?関係ねぇしなぁ。俺は依頼を遂行するだけだ」

「ッ‼︎」


言い終わったイヴィードは、続いてヒューロの方へ顔を向け、指差す。


「お前は【壁轢へきれきヴォッシュ」】だな?戦ってみてぇが、残念ながら今回の依頼はお前をぶっ殺す事じゃぁねぇ。どうだ?そこの女をコッチに寄越せばコレ以上危害を加える事はしねぇ」

「それが通ると思うのんでゲスか?」

「あ?なんだぁその喋り方?くっはっはっ!馬鹿みてぇ!」

(言った!あの人言っちゃったよ!)

「まぁ、通るとは思わねぇわなぁ?だが、いいのか?死ぬぜ?もう1人【円刃えんじんニヌエム】がいるらしいが、アレだって瞬時に三方向からの敵を殺すことなぞ出来やしねぇだろう?だが、今ならソイツ1人の命で皆助かる!コレがどれだけ重大な事か、お前には分からないのか!」

「うるさいでヤンスなぁ…エルフを舐めるなよカスが!たかが百や二百、来ると分かっていりゃぁ物の数じゃない!大体もう戦いは始まってるんだ!今更遅いんだよ!」

「ぐはは!そうかそうか!そりゃぁ心強いなぁ!だが俺はこの里に来てから何人か殺してるぜぇ?」

「このッ‼︎」


イヴィードの挑発で頭に血を登らせたヒューロは、怒りのまま一歩を踏み出す。


「待って!」

「ミリーナちゃん?」


ソレを止めたのはミリーナだ。彼女はヒューロにそう言うと、スタスタと歩き出し、ヒューロを追い抜く。


「ちょ⁉︎ミリーナちゃん⁉︎」

「本当に…私が行けば皆は助かるのね?」

「あぁそうだ!」

「まさか…!正気ですか⁉︎嘘に決まってますよ!」

「嘘じゃぁねぇよ!俺は益のねぇ働きはしねぇ主義なんだ」

「そんな言葉が信じられ「黙ってて!」ッ⁉︎ミリーナちゃん…」

「貴方みたいな殺す事しか考えてない狂ったヤツに捕まるなんて心底イヤだけれど、それで皆が助かるなら、私は行くわ」

「ほう?いい度胸だな」

「一つ聞かせて。その依頼主って言うのは、私を攫って一体何がしたいの?」

「さぁな!慰み者にでもされるんじゃねぇか?ギャハハ!」

「…そう言う発想しか出来ないのね、この下衆が」

「あ?んだオメェ。立場分かってんのか?」

「えぇ分かってるわよ。私は貴方にとって大事な依頼品、手を出せないのでしょう?」

「むはは!俺ヨォ、オメェみたいにしゃしゃってる女が一番嫌いなんだ…なぁに調子に乗ってんだよ?俺が!何時!お前を!殺せないなんて言ったぁ‼︎」

「ッ⁉︎」

「依頼主はこう言ったぜ?『最悪殺しても構わない』ってなぁ!予定変更だ!俺は【壁轢へきれきヴォッシュ】の激しい抵抗に会い、止む得なくバカな女を殺しましたってなぁ‼︎」


そう言いながらイヴィードが金槌を振り上げた。あんな物がミリーナに当たれば一溜まりもない。


「…イヤッ⁉︎」


小さく叫びを上げた直後、衝撃が襲いかかり、一瞬の浮遊感の後、再び衝撃が走る。

しかし、どういう訳か、ミリーナの体は硬い何かに優しく包まれており、彼女自体にダメージはない。

顔をあげればゴツイ甲冑が目に入る。


「ってて…」

「ヒューロ⁉︎貴方…なんで…」

「ったく!なんだよデカブツ思ったより速ぇーじゃねぇか!こりゃ失敗失敗…っても目の前でソイツ殺ったら戦ってくれるんじゃねぇかって打算もあったんだがなぁ!」

「益のない戦いはしないんじゃ?」

「あぁ!アレは嘘だ」


再びイヴィードが金槌を振り上げ、迫る。対してヒューロは、めり込んでいた壁から身を剥がすと、ミリーナを自分の後ろへとやり、足を大きく開き踏ん張る。


「さぁて!世界最強と言われた〈気狂きぐるい〉の実力はどれ程のもんか見せてもらおうじゃねぇか!女一人守りながら、盾だけでどこまでやれるかな⁉︎」


自重、遠心力、重力の重なった振り下ろしが放たれる。ソレに対してヒューロは左のヴォッシュを振り上げた。

ガァァン‼︎

と重く乾いた音が響き金槌が弾かれた。


「お?やるな」


しかし、弾かれた力を遠心力に変え、体を反転させると振り払いを放ってくる。再び左のヴォッシュで今度は弾きながら受け流す。ガシャンと音がなり金槌が通過、イヴィードは瞬時に回転すると再度振り下ろしを放ってくる。今度は右で防いだ。


「フハハッ!どうしたよ最強!防いでるだけじゃその内くたばるぜぇ⁉︎」


そうは言うが、ヒューロに反撃させる暇を与えないのはイヴィードだ。初撃だけで学んだのか、弾き返しても体を回転させ、次の攻撃へ最短で繋げる。恐ろしいコンボだ。

ガァン!ゴォン!バガン!ズガァ!ギィン!

金槌がその質量から考えられない程の猛スピードでグォングォンと動き回り、ヒューロへ向けて進む。ソレをヒューロは弾き流していく。圧倒的な攻と防の差が出来てしまった。


「ヒューロ!止めなさい!私が行けば…」

「何言ってるんだお馬鹿!君が行った所でどうにもならないよ!コイツがどう言うヤツか、よく分かったろう!」

「でもこのままじゃ貴方が‼︎」

「ははっ!僕の事嫌いじゃなかったのかい?」

「‼︎」


ミリーナは確かにルミールやニールへ近づく為その輪に入り、ヒューロのお友達を演じていた。それは確かな真実だ。だが、4人で過ごした日々全てが、ヒューロとの関係の全てが全くの嘘だ、と言うには長過ぎた。

ヒューロの容姿に嫌悪感は感じる、その言動に苛立ちも感じる、それでも幼馴染を心から嫌いになる事など、出来はしなかった。


「…嫌いよ」


ミリーナは小さく言う。ヒューロは「そうかい」と同じ音量で返すと、声を大きくして続けた。


「俺は好きだよ!君もルミール君もニール君も!例えソレが演技でも、君達が俺を気持ち悪がらなかったのがどれだけ嬉しかったと思う?どれだけ心の支えになっていたと思う?コレは恩返しなんだ!ピンチだからこそ!俺が救われた分、ここで返す!」


イヴィードは何が起きたのか理解出来なかった、先程まで連撃を叩き込んでいた筈の自分が吹き飛んでいるのだ。

ヒューロはソレを追う為、衝撃で床へめり込んだ足を引き抜くと、


「君は”僕等”が守るよ」


言って走り出しーー


「壁役が突っ込んで来てんじゃねぇよバカがぁ‼︎」


ーー横の一振りで吹き飛ばされた。


「ヒューロ‼︎」


ミリーナが叫ぶ。ヒューロはそのまま壁をぶち抜き、外へと吹っ飛んでいく。


「バカはお前だよバーカ」


と、言い残し。

直後、イヴィードは危険を感じ振り返る。


「あはっ♡」


そこにはニヌエムをバットの様に振り被るゼズドがいた。

次回予告!


遂に現れた敵将イヴィード・ラハス!キチガイ二人は戦いの場を変え強敵へと挑む。しかしその時、予想打にしな出来事が⁉︎そしてイヴィードが持つ金槌は一体なんなのか⁉︎


次回、八強者はっきょうしゃ第一章第8話。


怒鎚レベンナ


お楽しみに!

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