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八強者  作者: アシタビト
第1章 闘争国バルト
5/13

第1章第5話 エルフの里

エルフの聖地、母なる森、エルフの里。

大陸の北東部に位置するその里は、バルトに住まう全てのエルフにとって神聖な場所。エルフ達はこの土地で生まれ、最後にはこの土地で死んで逝くと言われている。

艶のある葉が日の光を乱反射し、里の中を照らし出すその景色は、何とも神秘的な光景で、見る者全てを魅了する。

しかし、それは里内部だけの話。

そこへ辿り着く為には巨大な樹海を越えなければならない。鬱蒼とした森は天然の迷宮、木々に紛れ猛獣達が跋扈する。正に自然の要塞。

その樹海は今ーー


「酷い…」


ーー原型なく薙ぎ倒されていた。

変わりにあるのは巨大な生物が地を這った様な跡。地面が抉れ、木々は倒れ、焼かれている箇所も少なくはない。茶けた大地には夥しい数の足跡が残っており、大行進があったのは一目瞭然だ。

見上げる程の大蛇が通った跡、とでも表現しようか?樹海の彼方此方にある。それ等は全て、蛇行しながらも奥へ、エルフの里へと続いている。


「この足跡、100はいそうだな。パレードでもあったのかァ?」


土を撫でながらゼズドが言う。彼は立ち上がると2人の方へ振り返り、その視線に真顔のヒューロを捉えた。


「オイオイ大丈夫かよ?」


エルフとは何よりも自然を愛す存在だ、彼等は常に自然と共にある。そして、それはヒューロも同じこと、彼にとってはこの鬱蒼とした樹海すら慈愛の対象だったのだ。


「うん。今更急いだって仕方ないから…ただ、ちょ〜っと頭にキてるかな?」


怒りに引きつった笑みで言うヒューロ、それを見たゼズドは笑いながら足を進める。


「ヒャハハ!まぁそう怒んなってぇ、今回の大将はテメェに譲ってやんよ」

「うひひ、そうじゃなくてもボキが殺るんだお」

「会話内容が物騒ですよ…と言うか勝つこと前提なんですね」


この荒れ果てた樹海を見てそれだけの事が言えるのだからとんでもない。と、思いつつオールも続く。

すると彼の眼前にゼズドが手を出した。


「…?どうしたんです?」

「来た来た、ん〜ここら辺かな?」


瞬間、手が何かを摘む様な形となり、虚空を詰めていく。するとどうだろう?前方から猛スピードで飛んできた何かが、指の間に収まり、完全に停止した。焦点を合わせれば矢の先端があるではないか。


「ひぃっ⁉︎」


オールは驚いて尻餅をつく、ゼズドは指先で鏃掴んでいたのだ。もし、少しでもズレていれば目玉を貫かれていた事だろう。


「この腕…エルフだな。警告も無しにブッパとは、相当警戒してるらぁ…どうする?ぶっ飛ばして言う事聞かせるか?」

「やめて!仲間に酷いことしないで!…お城出る時にもらった王様の手紙があるだろうが!」

「あぁ、そんなんあったな」

「いやあるなら早くどうにかして下さいよ⁉︎」

「分かったドン!では…この(手紙の封についた)紋所が目に入らぬかぁッ‼︎」


ヒューロが書状を突き出す。

次の瞬間、飛んで来た矢が書状を貫いた。

タイミング的に見て矢の軌道上に書状を置いてしまったのだろう。


「ああああぁぁぁぁああぁぁああ‼︎‼︎」

「何してんのこの人ぉぉぉぉおおおお‼︎‼︎」

「ヤッハー!コレで実力行使1択だぁぁあああ‼︎‼︎」


2つの絶叫と1つの歓喜が木霊し、ゼズドが走り出す。と、同時に四方から矢が殺到する。


「イヒヒヒ!」


ゼズドはその背に背負い、後光の様になっている【円刃えんじんニヌエム】の柄を引っ掴むと、強引に取り外し振り回す。

それだけで矢は全て散った。


「もっとだ!もっと来い!」


叫ぶと同時に残った木々から人影が飛び出す。その数4人、全てエルフだ。彼等は抜刀の勢いで同時に斬撃を繰り出し、合わせてゼズドもニヌエムを大きく振り被る。

4つの刃は1つの円刃へと向かいーー


「ちょぉぉおっと待ったぁあーーー‼︎」


ーー大盾に阻まれた。

ヒューロだ。彼は両腕に身程ある大きな盾【双盾そうじゅんヴォッシュ】を構え、両者の攻撃を防いでいる。


「ぷるぷるぼくたちわるいひとじゃないよう」


間髪入れずヒューロへ向けて追撃が放たれる。

両方向から。


「ちょ⁉︎待って!悪かった!巫山戯てマジすまんかったから待って!てかなんでゼズドはんまで攻撃して来てんの⁉︎」

「死ねやオラァァアアア‼︎‼︎」

「うわぁぁあ!なんか怒ってらっしゃるぅう‼︎」


騒ぎつつも全ての攻撃を防いでいる辺り〈気狂きぐるい〉の片鱗が見えていると言えるだろう。


「そこまでだ‼︎」


怒鳴り声が響き、ヒューロとゼズドは其方を向く。そこには1人のエルフが立っており、腕にはナイフをあてがわれたオールが抑えられている。


「動けばこの小僧を殺す!大人しく投降しろ!」

「す、すみません…捕まりました……」

「ッチイ!足手纏いがぁ‼︎」

「酷い言い草‼︎」

「黙れ!コイツがどうなってもいいのか!」

「ゼズドさん、言う事を聞こう、この流れは殺されないパターンだよ!」

「打算的だなぁもう!」


2人のは渋々武器を下ろし、両手をあげた。


「よし!1人づつ確実に仕留めろ!」


それに合わせエルフ達が己が得物を振り被る。


「殺されないと思ってた時期が僕にもありました」


先ず狙われたのはゼズド、彼は未だ満面の笑みを浮かべており、オールは「あ、コレ、ジッとしてない感じのヤツだ」と悟る。

そんな事を御構い無しとエルフがその武器を振り下ろすーー


「待ちたまえ!」


ーー前に新たな声が放たれた。

現れたのは勿論エルフ。身長はヒューロと同じ位だろう、痩せ型ながらシッカリとした身体つきをしており、肩まで掛かる金髪、赤眼を持つ男だ。そこまでは他と大差ないだろう、だが、その服装は明らかに他のエルフとは一線を画している。スラっとした緑の鎧はさながら聖騎士、最低限に留められたその鎧から覗く服は木漏れ日を浴びて輝いている。背には緑のマント。全身緑尽くしだが、その姿は何とも型にはまっており、微塵も違和感がない。変わりに感じるのは厳かな貫禄だけだ。


「族長…」


誰かが呟いた。


「君達は自分が何をしたか分かっているのか!」


族長と呼ばれた男が怒鳴り、エルフ達は身を震わせた。まるで自分達が悪い事をして、それを自覚した様に。


「誉れあるエルフが人質など恥を知れッ!」

「も、申し訳ありません!」

「そもそも確認はとったのですか!賊と繋がりは!」

「そ、それは…」

「いきなり攻撃したと言うのですか…信じられない……」

「申し訳ありません…」

「昨日バルフォルトから援軍が出されたと言う報せがあった筈です、忘れたとは言わせませんよ!」


それを聞いた途端、オールを人質にしていたエルフの顔が青ざめる。恐らく彼がこの場の指揮をとっていたのだろう。その責任は重大。


「コレを見なさい」


族長が突き出したのは矢に貫かれた書状。いつの間に回収したのか全く不明だが、彼は確かに書状を持っていた。

そしてそれを見たエルフは顔が真っ青になる。内容こそ読んでいない物の、タイミングとその形から悟ったのだろう。


「貫かれているのは国王の紋章です、ここまで言えば、コレがどう言う意味か分かりますね」


絶望、そのエルフは頭をダラリと下げ、地に手をつく。最早返事すら出来ない様子だ。

族長は頭が痛いとばかりに目頭を押さえ溜息を吐いた。


「はぁ……しかし、里の為尽力してくれた事は認めます。今回の件も、きっと度重なる襲撃で疲れが出てしまい、判断能力が低下したのでしょう。後は私が引き継ぎますから、貴方は帰って休みなさい」

「し、しかしそれはっ!」

「分かっていますよ」


表情を和らげ、やれやれと言った具合で族長は続ける。


「貴方にも仕事がある、それを放って休める様な図太い神経の持ち主ではありませんからね。ですが、今は緊急事態です、だからこそゆっくり休み、英気を養って下さい。貴方は里に必要不可欠な存在なのですから」

「族長…ありがとう、ございます…」


その姿は我が子を叱る父の様にだった。優しく、時に厳しく、慈しみの心を持った、誰もがその背を追いかける偉大な存在。

エルフは子供の様に涙を流し、族長に感謝しながらも去っていく。

途轍もないカリスマ性。


「さて…お客人方、里の者が大変失礼をいたしま、申し訳ありません」

「謝る事なんかねぇだろ、お前が止めなきゃアイツ死んでたぜ?」

「ちょ!ゼズドさん⁉︎ここでそれ言いますか⁉︎」

「それは恐ろしい。流石は【狂闘きょうとう】と呼ばれた男、ですかね。話は伺っていますよ、ゼズド・カダエラさん」

「応」

「エンスからの使者と言うのは貴方ですね、遠路遥々ご苦労様です」

「はい、オールと申します」

「よろしくお願いします。そして…」


族長は丁寧に挨拶すると、最後にヒューロへ目を向けた。



「久しぶりだね…ヒューロ君」


それはルミール王と同じく、友へ向ける優しい笑顔だった。

ゼズドとオールの2人は思い出す。


(そう言えばこの人エルフだったっけ)

(そういやコイツ、エルフだったっけ)


※ヒューロはエルフです。


「そうだね、エイグニール君」

「その呼び方は止してくれよ、昔の様にニールと呼んでくれ。君と会うのは12年ぶり、だったかな?」

「あの時以来ぜよ」

「……その節は本当に済まない、私のせいで…」

「ぁあ!やめてやめて!そう言う意味で言ったんじゃないから!と言うか君のせいじゃないから!」

「そう言ってくれると助かるよ。しかし、この12年どこに行ってたんだい?」

「えぇ〜っとそれはだねぇ…」


ヒューロと族長は暫しの間、昔話に花を咲かせ。取り残された2人は2人でヒソヒソと会話を始める。


『あの2人、お知り合いみたいですね』

『みてぇだが、知り合いっつーよりダチじゃね?』

『ルミール王にエルフの族長…ヒューロさんって意外と凄い人?』

『シラネ。まぁ、つっても実力は本物だ、案外そうなのかも知れねぇぞ?』

『なるほど…』

『つかなんで偉い奴意外、他の知り合いじゃねーんだよ、アイツここ出身だろうが』

「それは僕が嫌われ者だったかからさ!」


超えと共に、どうやってか2人の後ろに回ったヒューロがぬっと出てきた。


「うわぁ⁉︎」

「びっくらこいたかね?」

「自分で言ってて悲しくならねぇのかそりゃ」

「も〜んだ〜い、ないさーー!」

「あっそ、で?話は終わったのか?」

「オワタよ。ニール君が里まで案内してくれるって、詳しい内容はそっちでするってさ」

「自己紹介がまだでしたね、私はエルフ族の族長を任されているエイグニール・アリュッセルと申すものです。この度は里の為、どうかよろしくお願い致します」


見惚れる程綺麗なお辞儀をしたエルフの族長、エイグニール・アリュッセルは「こちらへ」と大行進後が続く方へ歩き出し、3人はそれに習い、足を動かす。


「詳しい内容は里で話すんだったな?なら、先に聞いていいか?」

「はい、なんでしょうか?」

「あんたエイグニールってんだよな?ヒューロが住んでた『エイグニールの村』ってのとなんか関係あんのか?まさかまんま人名だとは思わなかったもんでよォ」

「そう言えば、確かに同じ名前ですね…」

「え〜、それはですね…」


ゼズドの質問に、ニールは困った顔をしてヒューロの方へ向く。

恐らく彼に関係している事なのだろう、彼は特に気に留めた様子もなく「ええんやで」と答え、ニールも「では…」と話を進める。


「アレは今から12年ほど前の事です。当時は大戦真っ只中で、我々エルフの戦士もバルト軍と協力し、敵軍の侵攻を抑えるので必死でした。そんな折、私のもとにある一報が入ったのです『デルジ村へ侵攻あり、バルト軍は間に合わない』と」

「デルジ村って言うのは今のエイグニールの村ぜよ」

「私は急ぎ里の戦士に召集をかけ、編成し、デルジ村へ向かいました。その時、デルジ村の一つ隣村にヒューロ君が住んでいる事を思い出し、彼にも協力を要請。結果、ギリギリの所で間に合った我々は、見事敵を払う事に成功。村を救いました」

「その時指揮をとってたのがニール君だから、それに感謝した村人達が『エイグニールの救った村、エイグニールの村』って改名したんだよね」

「しかし、私は村に戻ってから知ったのです。我々が戦っていたのは囮、別働隊があった事に」

「…」

「結果として、ルート上にあった村が一つ蹂躙されました。村の名前はデルザ『守護者が住む村』と呼ばれていた村です。そしてその守護者とは、ヒューロ君だったのです」

「それって…!」

(あぁ、そう言う事か)


オールが目を見開く中、ゼズドは無表情ながらも納得していた。

『そんじゃ、守護者さんによろしく』

『君は優しいエルフだ、だから君が人を殺めたなんて、僕には信じられない…それでも君は〈気狂きぐるい〉の1人だと、そう、言うんだね』

『そんな君がエイグニールの村に住む、なんとも皮肉だね』


(そうか、コイツはそこで狂ったのか)


彼は知っている、同じ〈気狂きぐるい〉となり、共に戦うまで。彼が何を思い、何をしていたのか。

しかし、彼等がそれを語る事はまだ先の話だろう。


「私の所為なんです…彼はその頃から〈気狂きぐるい〉の片鱗を見せていた!彼さえいれば…彼さえいれば別働隊の一つや二つ…!」

「だからニール君が気にする事じゃないと、さっきから言っておろう。ワシがいたところで村が救えたとは限らんのじゃ…何より、デルジ村と君達を救えた、ワシはそれで満足じゃよ」

「ヒューロ君…」

(感動的なシーンなのかも知れないけどヒューロさんが巫山戯てるせいで台無しだよ…)

(腰曲げんな。盾を杖にすんな)

「それから彼は姿を消し、1年後に〈気狂きぐるい〉が現れ、更に1年が経ち、大戦は終戦。結局ヒューロ君が帰ってくる事はなく……私は!ずっと貴方に謝りたくて!」

「君も大概しつこいね!」

「ルミール王から手紙を頂いた時は本当に驚いた。君が〈気狂きぐるい〉で、デルジ村に住んでいるなど、夢にも思いやしなかった」

(聞いてねぇや)

「だがこうして再開出来た、心から喜ばしいと思っているよ。もし君が自殺でもしていよう物なら一体どうすればいいかと…っと、どうやら着いた様だね」


ニールが立ち止まりそう言うが、見えるのは木々と茂みだけだ。一体何処に里があるのかと、見渡しても何もありはしない。


「えぇっと…ニール君?里はまだまだ先にじゃないのかえ?」

「あぁ、申し訳ありません。説明し忘れていました。エルフの里では、少し前から魔導国 《マジク》との交友が始まっていましてね」


瞬間、三人の顔が強張る。


『おいヒューロ、どう言う事だ?』

『俺も今初めて知った』

『嫌なところで繋がりが出てきましたね…』

「良質な木材や、薬草、毒草などと引き換えに、こう言った魔法技術を提供して貰っています」


茂みを掻き分ければ、薄っすらと青白く光る幾何学模様があるではないか。

訳の分からない文字が外周に描かれたそれは、ニールに反応する様に光を強める。


「コレは転移魔法と言って、その名の通り任意の場所へ移動する事ができるのです。どうですか?すごいでしょう?…どうしました?」


自慢気に言いながら振り返ったニールは、三人の強張った表情に疑問を抱く。何か不味い事を言ったのだろうかと、困った顔を浮かべるが、答えはすぐに帰ってきた。


「いや、なんでもねぇよ。戦時中でもこんなもん見る機会無かったからな、ちっと驚いただけだ」

「そうでしたか。この世界の全ての生物には魔力がある事はご存知ですよね」


終戦後、世界は大きく変わった。

4国が持つそれぞれの力、欲深き王達が最期まで欲したそれは、皮肉にも全ての国が最初から保有していた物だった。

全ての人類には魔力が宿っている。

全ての人類は特殊な能力を秘めている。

全ての人類は摂理に近づく知能がある。

全ての人類には無限大な可能性がある。

だが、突然魔力や超能力が己が身にあると言われたところで、使えるのか?と言えば話は別だ。各国で研究は行われているが、成功した事例は少ない。

超能力が使えたところで、使えないと言う常識が邪魔をし、大した力は得られず、魔法や科学に至っては地力が違い過ぎる。何より純粋な”力”など、鍛えるしかないではないか。


「その中でも我々エルフや、名に魔を冠す魔人族の方々は保有魔力とその扱いが生まれつき達者らしく。簡単な魔力操作なら、少し習うだけでホラ、この通り」


ニールが陣に手を触れれば、更に光が強まり、浮き上がったソレが動き出す。


「魔力を込めるだけなら里の者、皆が出来ます。おまけにこの魔法陣、エルフにしか反応しないので、外部の者では見つけるのも難しいでしょう。今では里の重要な防衛設備ですよ」

『いいんですか?マジクの事を言わなくても』

『そりゃぁお前が決める事だ、ヒューロも分かってるな?』

『うんともさ。それにアッシももう少し様子見た方がいいと思いますぜ!』

『分かりました、では、最終的な判断は僕がしますね。それに、ルミール王からその事を聞いていない様子ですし、僕達もあまり余計なマネはしない方がいいでしょう』

「では、里へ移動しましょう。陣の中へ入って下さい」


促されるまま三人は魔法陣の中へと入る。すると魔法陣は眩い光を発し、次の瞬間には景色が変わっていた。


「ようこそ、エルフの里へ」


鬱蒼とした森はどこへ行ったのか?艶のある葉が太陽の光を乱反射し、木漏れ日と合間ってその地を神々しく照らし出す。木と一体になったかの様な家々は見上げる位置にある物まであり、それ等は吊り橋で複雑に繋がっている。更に家や橋にツタが絡まり、美しい緑を演出している。地面には背の低い草や花々。どこまでも自然で美しい集落が底にはあった。


「綺麗…」

「ほ〜、こりゃスゲェな今まで見た中じゃトップクラスだ」

「うふふ、すごいでしょう?」

「あ〜、景色に不釣り合いなヤツが視界に入って来やがったぞ〜」

「おひょ!おひょひょ……」


ゼズドの前でウザい動きをしたヒューロが吹っ飛んでいき、案内が再開される。


「目指すは集落の中央にある、あの一番大きな木です。あの根元に我が城があるので、そこでゆっくりと話をしたいと考えています」

「はいほい」

「戻ってくんの速ぇよ」


-------------------ーー


その城とは驚く事に”巨大な木”そのものだった。何をどうしたのか、確かに根元の部分は人の手が入っており、建造物の様にも見えるが、中に入れば話は違う。奥行き、幾つもの階段、外の景色、どう考えても巨木の中をくり抜いて造られている。だと言うのに枝の先には青々とした葉が茂っている。どこかが腐っていたり、病を患っている様子は少しも見られない。

内装もバルフォルトの王城と引けを取らないレベルだ。ただ、王城の煌びやかで派手な印象とは違い、ここは落ち着いた、ゆったりとした印象を受ける。全体的に緑が多く、草花が使われている飾りも多い。

『ここを解放すれば、里の女子供全員を入れる事ができます』

この建物に入った時、ニールが言った言葉だ。

この建造物自体は、大昔に里の民と協議して作り上げた物らしく、男達は戦いに出るので、その分は考えていないと言う。老人も若い期間の長いエルフでは絶対数が少ない上、命に執着する事もないので考慮されていない。

三人はそんな建物の応接間へと通されていた。

その際、ニールは服装を正してくると席を外し三人だけとなったのだが…


「ようこそ、エルフの里へ」


応接間には先客がいた。

緑色のゆったりとしたドレスを着ているハイエルフの女性だ。金髪を長く伸ばしており、その髪は彼女が動くたび、絹の様に美しく輝いている。頭に金のティアラを乗せ、他にも装飾品を着けて着飾っているが、全くしつこくない。

何より驚くべきはその姿形。体は出るところが出、締まるところは締まっている。妖艶な雰囲気を纏わせ、微笑む顔は”美”そのもの。美男美女揃いのエルフ族の中でも抜きん出て整っている。

まるで聖女だ。


「誰だ?」


しかし、そんな事は御構い無し。表情を変えないゼズドが切り出す。

彼の頭は何時も闘争で一杯だ、そんな全ての人が振り返る様な絶世の美女を前にしても揺るがない。


「私はミリーナ、ミリーナ・フェルファと申します。ルミール王、エイグニール族長と共にヒューロさんの幼馴染ですわ」

「そうなんだポン!」


これ以上ないと言う程に綺麗なお辞儀を見せたミリーナの横で、いつも通り巫山戯るヒューロ。

呆けているのはオールだけだった。

いや、普通の人ならミリーナに見惚れるんだけどこの人達可笑しいから、うん。


「どや?美人やろう?オール君なんて固まっとるで?」

「いや、あの、その…」

「ふふ、褒めても何も出ませんよ」

「つかなんでテメェが自慢気なんだよ」

「いいじゃないか!僕の数少ない友達自慢したって‼︎」

「あ、少ないって、自分で言っちゃうんですね」

「ちなみにエルフの里の族長は男女2人、ミリーナちゃんも族長なんだぜ!」

「お前の数少ない友達大物しかいねぇなオイ」

「ドヤ!」

「その顔やめろ、蹴りたくなる」

「ふふふ…ヒューロさんは変わりませんね」

「変わる?変身でもすればいいズラ?」

「出来るんですか…」

「いや出来んけど…何言ってんのお前?引くわ」

「言い出したのはヒューロさんじゃないですか!」


騒がしく会話をしていると、ドアノックされ、鎧を脱いだニールが入室してくる。


「随分賑やかですね、楽しそうで何よりです」

「いいからとっとと話進めろ〜い」

「そうでしたね、申し訳ありません」


早速飽きていたゼズドに急かされ、ニールが着席する。それによって体面には美男美女が揃う事となり…


「なんででしょう?負けた気がします」

「そもそも勝てねぇだろ、エルフだぞ。あ、隣のは例外な?」

「ウピ!」

「?なんの話ですか?」

「いえいえ、此方の話です」

「そ、そうですか…?」


流れが分からず、少し困惑するニールだったが、一度咳払いをすると「では…」と続ける。


「今回貴方方に来て頂いたのは他でもない、エルフの里を救って頂きたいからです」

「救って欲しいとは言うなァ。援軍が欲しいって話だったが、精鋭揃いのエルフがそこまで追い詰められてるってのか」

「はい…事実、状況は芳しくありません。度重なる奇襲に皆疲れきっています」

(僕を人質にするくらいだしね…)

「森は焼かれ、大地は荒らされ、仲間も少なからずやられてしまいました。それに引き換え此方は有効打どころか敵の居場所すら掴めていません。このままでは非常に不味い…だから王に援軍を申請したのです」


その王が下した判断では〈七拳刃しちけんじん〉総出で対処しなければいけないレベル。

彼だってただ椅子に座って偉そうにしている訳ではない、元を辿ればエルフの戦士、それもかなりの強者。

目の前にいるニールも同じだ。放つ雰囲気が他のエルフとは明らかに違う。

そんな2人に「強い」と言わせる程の敵。オールはまだ見ぬそれに恐怖を覚えた。


「聞いてる限りだと、エルフが弱くなった様にしか聞こえねぇな」


放ったのはゼズドだ。その一言に流石のニールむムッとした表情を浮かべる。


「居場所は分からねぇ、奇襲はされ放題、終いにゃ同様して卑怯って自分等が言う様なマネまでしてらぁ」

「ゼズドさん、それは言い過ぎじゃ…」


挑発する様に切り込むゼズドを、オールが止めようとする。その時、意外な人物が声を上げた。


「確かに、僕もそう思うよん」

「え⁉︎」


ヒューロだ。同じエルフであり、この里の出身である彼が賛同している。

ニールもミリーナも驚いた様子だ。


「里には強い人が沢山いる筈だよ。コナードさんはバルトでも指折のパワーしてるし、ミンレンさんは目が尋常じゃないくらい良い。サンロさんは足がとても早いし、ニール君だってとっても剣の扱いが上手いじゃないか。なのにコレだけ好き放題やられるって言うのはちょっと納得いかないな…敵は一体何者なんだい?」


何時になく真剣な表情で続け様に言い切る。

その眼光を向けられたニールは、眉間に皺を寄せ俯き、口を開いた。


「敵は…自らを〈怒鎚いかづち傭兵団〉と名乗っていました」

「傭兵団…」


バルトに傭兵と言う職業は無い。何故ならバルトでは犯罪発生率が途轍もなく低いからだ。それと言うのも、バルト民は突出した運動能力を持っている為、近場に森でもあれば簡単に自給自足できる。つまり金に固執する必要が無い。

一般的に金持ちと言われる部類も、大半は己が武力でのし上がった猛者。

要するに重要がなさ過ぎる。

そもそも、バルト民は他人を利用すると言う概念があまりない「欲しい物は自分の力で手に入れる、誰かに頼った時点で負け」大体の考え方がコレである。勿論例外や、無意識の内にやっている事はあるが、詐欺や強盗が発生する事は殆どない。

ならば傭兵とは何か?

それはバルトでも珍しい賊が、建前として使う事の多い役職名だ。

傭兵は大抵「欲しい物は自分の”力”で手に入れるうばいとる」と言う、普通と解釈の違う者や、人殺しに快感を得てしまった者がなる。

簡単に言えば、今回の敵は犯罪者集団。


「確かにヒューロ君やゼズドさんの言う通り、里には賊を退けるだけの猛者が居ます。しかし、どう言う事か、賊は此方の手を知っているかの如く攻めて来るのです。一番戦力の薄い場所を的確に狙い、戦士の数が多くなると逃げ、後はそれの繰り返し、周期も完全にバラバラで、此方はそれを読む事が出来無い…!」

「それは…内通者がいるのでは…」

「そんな事はありえない‼︎」


オールの言葉にニールは声を荒げた。


「そうです。我々エルフが、一体なんの為に同族を陥れる様な真似をすると言うのです?得る物が余りにも無い。それに、エルフ族にそんな汚らしい心を持つ者などいません」


ミリーナの言葉にヒューロも静かに頷いた。


「ですが…事の成り行きを聞いているとそうとしか…」

「止めとけ、話が拗れる。今は敵の情報が優先だ。それに……ぶっ潰しゃ分かる」

「では、話を続けます。賊の数は100前後、バルトにしてはかなり多い数だと思われます。目的は不明。推測では我々エルフを他国に奴隷として売っているか、自分達の元に置くか…」

「まぁ、エルフの女は美人ばっかだからな。男だって需要は全く無いわけじゃねぇ」

「はい…そして何より彼等はエンスの兵器を利用しています。確認されているだけで銃、手榴弾。幸い、戦車などの重火器は確認されていません」

「うっそ…」

「まぁ、その程度なら問題ねぇがらとなるとソイツ等はエンスと繋がってんのか?」


視線がオールへ集中する。当然だ、彼はエンスの民なのだから。それも使者、何か知っていてもおかしくはない。


「も、申し訳ありません…今から本国に問い合わせても…遅いですよね、ハハ…」


明らかに落胆した皆の顔を見て、気まずい気分を味わう事となった。


「ま、そんな都合よく知ってる訳もねーか」

「仕方ありません」

「続けてよニール君」

「はい、今回、一番の難点となるのが傭兵団を率いる男でしょう。赤髪の男です。身長は170後半、ゼズドさんよりガッシリとした体型をしていて、黒い服を着ていました。服には金属の装飾品が沢山ついていて、見れば分かる程です。けれど、問題はその男が持つ武器なのです」

「巨大な金槌、でしたね?」

「王から聞いていましたか…そうです。ヤツが持つその金槌が異常な物で、一度を叩けば大地を揺らし、物と言う物は破壊され尽くします。明らかに話に聞いた魔工技を超越している…!まるで未来の兵器でした」


ゼズドとヒューロがお互い頷き、ゼズドが席を立つ。


「っし、粗方分かった。他になんかあるか?」

「相手は必ず夜に現れます。ですが昼だからと気は抜かぬ様お願いします」

「なら話は終わりだな、俺はちょっくら見回りしくらぁ。何か見つけたら報せる」

「はい、よろしくお願いします。では、我々も解散としましょう。部屋は用意してあります、来る日に備え、どうぞゆっくりとお休み下さい」


こうしてオールと〈気狂きぐるい〉一行のエルフの里防衛作戦が始まった。

ちなみに作戦は「臨機応変に」作戦。つまり無かった。

次 回


予 告


エルフの里にて様々な話をしつつ襲撃に備えるオール一行。ミリーナの衝撃の告白によりヒューロは崩れ落ち、そこへ轟音が響き渡る。悠々として飛び出すゼズド、続くニール、明らかに空元気のヒューロ、そして部屋の片隅で震えるオール。さぁどうなるこの話⁉︎


次回、八強者はっきょうしゃ第一章第6話


襲来


お楽しみに!

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