第1章第4話 壁轢ヴォッシュ
『ゼズド・カダエラ他同行者一名、至急王城へ戻られたし。もし他の〈気狂い〉と合流済みならばその者も連れてくるよう。』
「ねぇ…?」
「え?僕も?なんで?」
「何かあったのかしらん?」
それだけが書いてある書状を広げ、3人で覗く。ゼズドは気怠そうに、オールは狼狽え、ヒューロはハテナマークを浮かべている。
「おいお前使者なんだから何か知らねぇのかよ?」
「いえ…思い当たる節はありません」
「ま、呼ばれたもんは仕方ないっしょ!そうだ、首都行こう」
「だーっ!ったく面倒くせぇなぁ!要件くらい書けや畜生!」
内容の薄い書状に文句を言いつつも、彼等は首都へ行くしかない。いくら大戦を終わらせた強者とは言え、なんでもかんでも好き勝手出来る訳ではないのだ。
その点、国王からの”呼び出し”は、彼等を動かすのに十分過ぎる。
「いくかぁ…」
「しかし、何があったんでしょう?」
「よっぽどの事があったって俺達呼びゃぁしねぇ、何せ『大戦終わらせた』ってだけで一般人と変わりねぇからな。となると、もしかしたらバルトも戦争の情報を手に入れたのかもな」
「はい。ですから此方もそれを利用して王には何も告げず連れ出したんですけど…それならありえますね」
「適当なバルトがどうやってそんなビッグニュース仕入れたのか謎だけどね!」
「無断だったのかよ。まぁ、もし予想通りなら行く価値は十二分にあるぞ」
「そうですね、エンスと同じ情報とは限りませんし」
「ですしおすし」
村を抜けようとしていた3人は来た道を引き返す。向かうは勿論首都バルフォルト、その王宮だ。
そんな中、ヒューロが言う。
「ルミール君に会うのなんて久しぶりだなぁ!」
「国王と知り合いなんですか?」
「まあね!おいどんが【壁轢ヴォッシュ】って事までは知らへんと思うけれんども」
「まさかと思うがオール、王様まで情報にねぇなんて言わんだろうな?」
「そりゃ当然国王の事は存知てますよ!四界大戦後、国民の意見によって選ばれた、バルト初の名君。ハイエルフであり、随分フランクな王だと聞き及んでます!しかし、ゼズドさん以外の〈気狂い〉と会っていたとは…」
ルミール・バルト・エクセリオン。
現バルト王にしてエルフ族随一の知識人。その美しい容姿は男女問わず魅了し、その英知はエンスの科学者をも凌ぐと言われている。
彼は前王が反乱で死亡した後、バルト全土のエルフから強い支持を受け、更にその友好的な性格と突出した知識から見事王の座を勝ち取り、その名に”バルト”を刻んで見せた。
『最も強い者が王となる』と言う単純且つ馬鹿らしい風習のあるバルトで成したこの偉業は、最初こそ古人からの反感があったが、現在はその殆どから認められている。
もしかしたら彼等も『最も強い者が王となる』と言うのが暴君を産んだとどこかで理解していたのかも知れない。
何はともあれ、そんな者とヒューロが知り合いと言うのは意外な事実だ。確かに〈気狂い〉と言う立場上、面識があってもおかしい者ではない。しかし、ゼズド以外誰1人として不明だった〈気狂い〉が、一体どうやってバルト王に謁見したと言うのか?秘密裏にと言ってもバルトはそこら辺ガバガバな国、エンスの特殊部隊ならあっさりと情報を掴んで見せるだろう。だと言うのに、そんな情報は一切オールの耳に入っていない。
「まぁ!ルミール君は僕の幼馴染み見たいな物だからね!心の友ってヤツさ!」
「面白い冗談ですね、知ってますよ、ルミール王はエルフの里出身で、御歳300を超える御仁です。人間の貴方が幼馴染みと言うのには無理がありま…」
「あぁ、ソイツそれでエルフなんだよ」
その発言を聞いた瞬間、オールが固まる。
「……はい?」
エルフとは何か?と聞かれれば答えは簡単だ。賢く、慈愛に満ちた美しい種族。だ。そこに例外はない。
普通のエルフの他、黒人の様な肌をしたダークエルフ。白人の様な肌と、エルフより長い耳をもつハイエルフ。の三種がおり、概要は同じである。
賢く
「マジなんですなぁコレが!」
慈愛に満ちた
「あ、びっくらこいた?」
美しい種族。
「フヒヒ!サーセン」
そこに例外はない。
筈…
(このトロールと人間足して2で割ったみたいな男がエルフ⁉︎)
「酷い事考えるなぁ」
「心読めるんですかッ⁉︎」
「いんや、慣れてるから大体分かるッ‼︎」
謎の勢いで言い切る。
ちなみに、トロールとは四界全土に生息する人型の生物(地域によって魔物や魔獣など、呼び方が変わる)で、身長3メートル近く、緑の肌、寸胴短足でありながら筋肉質な肉体を持つものである。
対してヒューロの姿はと言うと、一見ふくよかな人間の男性に見えるが、その腕の太さや体に対しての顔の小ささから、ただのデブではない事が伺える。恐らく骨格的な問題もあるのだろうが、それは確かに筋肉だ。
『トロールと人間を足して2で割った』と言う表現は、案外的を射ているかも知れない。
「お前耳見せてやれよ」
「おうとも!コレがおいらの…耳だぁぁあああ‼︎」
大げさに髪を掻き上げ、その耳を強調させる。見えるは金属質の何か、よくよく見ればそれが人間の耳を象った金具だと言う事が分かる。
彼の耳は偽物だ。
「う、嘘だ…コレがエルフなんて……」
「多分本当だ、何しろ大戦時から一切変化ねぇからな」
「そ、そうだ!バルトのエルフは他と違ってこんな感じの人も多いにちがいな…」
「くねぇよ、コイツだけだ」
オールは再びヒューロの方を見る。彼は高速で反復横跳びをしながらウザったらしい顔を向けてくる。
「分かりました、彼はハーフエルフなんですね、そうなんですね!」
人族の種類は多々いるが、二つの種族が交わっても産まれてくる子供はどちらかの種族になるのだが、どう言う訳かエルフと人間の間には”ハーフエルフ”と呼ばれる混血種が産まれる。
彼等は耳が短いと言うだけで、エルフ同様その殆どが美男美女。そこに加え普通の人間より賢く、エルフより非常に有効的だ。
量種族の良い面を引き継いでいると言われている彼等だが、長寿、頭脳、優れた容姿、しかし、そこには例外があり、極稀に当てはまらない者もいると言う。
オールはヒューロがそれに違いないと思いたくて言い切る。が…
「残念ながら普通のエルフですぞ!」
それも虚しく返される。
「どこが普通なんですか!人間でも貴方みたいな人早々いませんよ!あ!さてはその耳、ただの飾りですね⁉︎本当は人間なんでしょう!」
「どんだけ認めたくねぇんだよ」
「ん〜、耳かぁ。耳はね、自分で千切っちゃった」
そう言って金具を外す、すると歪な形をした、異様に短い耳が残る。まるで強引に毟り取った様に。
エルフにとってその耳とは象徴、エルフがエルフ足る為に無くてはならない物。死罪より重い罪として耳を斬り落とされる事すらある程だ。
それを自分で毟り取ったなど狂気の沙汰としか言いようがない。
「ダメだこの人…ヤバ過ぎる……‼︎」
オールが頭を抱えていると、ゼズドが大きく溜息を吐いた。
「おい、その位にしとけ」
「でも…!」
「でもじゃねぇ。その容姿のエルフが自分で耳を落とした、コレがどう言う事か分からねぇのかよ。つか、普通に失礼だ」
その言葉にオールはハッとする。全ての物事には理由がある物だ、ならばその狂気の沙汰にさえ、歴とした理由がある筈。
それがどんな物なのか?
彼の容姿、住む場所、其れ等を踏まえ、少し考えれば大体の察しはつくだろう。
「も、申し訳ありません…失礼な事言って」
「いいよん気にしてぬぇ!し」
「ったく、俺はオメェ教育する為に旅してんじゃねーっての。さっさと馬車探すぞ〜」
「今度は馬ですよね…」
そうして三人は村を後にした。そして馬車は馬じゃなかった。
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「う、うぅ…」
「死にそうだなお前」
「おおー死んでしまうとは情けないー」
ここは首都バルフォルトの中心にある王城、その通路の一つ。
レッドカーペットの敷かれた煌びやかな廊下を、さも当たり前の様に二人が歩く。その間でオールが青い顔をしているがお構いなしだ。
三人は道中何事もなくバルフォルトへ到着すると、ゼズド先導の元、王城へと直行。事情説明と、書状を見せ、中に入って今に至る。
案内もゼズドだ、彼は〈気狂い〉で唯一名の知れた人物、王城に入った事も一度や二度ではない。
ちなみに、ヒューロは会う度警備に声をかけられていた。
ゼズドは平常運転、ヒューロは奇行を繰り返し、オールは荷車シェイクと王への謁見のダブルパンチでノックアウト寸前の状態だ。
「そこのお前、止まれ」
両腕を大きく広げ、大げさなリアクションをしているヒューロがまた声をかけられる。
どう見ても一般人の彼が、王城でそんな事やっているのだから仕方ない。しかも対面しているのはゼズド、厄介事と思われて然るべきだろう。
「あぁ!面倒クセェなぁ!何回目だよ⁉︎もうコイツ置いて行かねぇか⁉︎」
「そんな!酷いでしゅ!」
「ぶっ殺すぞ‼︎」
「さ、騒がないで下さい…響いて、うっ……!」
「おい、聞いているのか!」
「うるせぇタコ‼︎こっちは客だってーの!」
声を荒げる警備に、それ以上の声で怒鳴り散らす。まさかの返しに狼狽える彼をよそに三人は歩いていく。
「つーかなんでお呼ばれしてんのに案内の一人もいねぇんだよ。そりゃぁ俺はこん中何回か入ってるさ、でも普通案内人くらい用意しとく物じゃないの?ねぇ?」
「いえ、僕に言われても…」
「案内人はゼズドしゃんだったのら」
「さっきからなんなんだよその喋り方、気持ち悪りぃな」
「そんな!酷いでしゅ!」
「使い回しじゃねーか」
そうこうしている内に先程の警備が追いかけてくる。鎧を着込んだ彼はガシャガシャと音を立てながらも三人の前に立ちはだかり、道を塞いだ。
やはり怪しい者を放って置けなかったのだろう。
するとゼズドがいい事を思いついたと言う表情になり、警備に絡んで行く。
「なぁ〜、ち〜っといいか?」
肩に手を回し
「俺達こう言う要件で来てんだわ」
書状を見せる
「王様ん所まで案内してくれないかなぁ〜」
満面の笑み
「え、あの…」
「い・い・か・ら!な?」
そして威圧。
不良である。
「…ハイ……」
「なんか可哀想ですね…」
「バルト民も圧倒的な力には逆らえないのら」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「止まれ、何用だ」
「客人だ、招待状も持っている」
「拝見するぞ」
警備に連れられる事暫く、巨人でも招き入れるのかと言う程巨大な扉の前に三人は立っていた。謁見の間の扉だ。
ソレの前には2人の親衛隊であろう兵士が立っており、オール達を止めている。
「なんど見てもデケェ扉だな」
「へ〜、ルミール君いいところ住んでるんだね」
「いや、王様なんですから当たり前でしょう」
待つ事数秒、兵士が書状から目を離した。
「確かに。話は既に聞いている、王も謁見の間でお待ちだ。入れ」
「オイ、話通すんなら俺等も連れてけや、なんで報告だけ済ませて放置なんだよ。待つよ?王様の準備整うまで扉の前で待つよ?俺」
「バルトだから仕方ない」
「なんでもそれ言えば済むと思うな」
2人の兵士が見上げる程の扉を、まるでドアを開けるかの如く左右片手で押し開けていく。異様な光景だろう。
「【狂闘ニヌエム】以下2名!只今到着致しました!」
兵士の声が響き渡る室内は、それこそ巨人でも住める程の大きさだ。天井まで10メートル以上あり、そこには芸術的な絵が描かれ、煌びやかなシャンデリアがぶら下がっている。窓はステンドグラス、室内の彼方此方に貴重品が飾られ、床は大理石か何かだろう。
三人の歩く道にはレッドカーペットが敷かれ、それは真っ直ぐ奥へと続く。そこには上から弧状に広がる階段があり、見上げれば王座、そこに一人の人物が座っていた。
身長は170程度だろう。緑を貴重とした豪勢な服に、燃えるような紅のマント。金髪金眼、透き通る様な白い肌を持ち、長髪から飛び出しているその耳は長い。
何より目につくのはその顔そのものだ。全てのパーツがまるでそうあるべきの様に配置され、体格も相まって最早男か女かすら分からない、人の完全形態。その余りの美貌に老若男女すら魅了するその面立ちは完璧といって差し支えない。
紛れも無いハイエルフ、バルト王、ルミール・バルト・エクセリオンがそこに居た。
彼は停止した3人を、一人づつゆっくりと認識してから右手を上げる。
開戦の合図を出す歴戦の将の様に。
迷える子羊を導く聖人の様に。
ゴクリ…と誰かが唾を飲む音が、静かな室内に異様な程響いた。
ルミールは微笑みを携え、その口が開きーー
「どうも〜」
ーー友人に声を掛ける中学生の様な発言が飛び出した。
いや、よくよく見ればその微笑みも、それこそ友人に笑いかけているだけ。馴染みのヒューロと面識のあるゼズドが来たのだ、当然の反応なのだろう。
なにはともあれ…
(軽ッ⁉︎)
その一言に尽きる。
この王は威厳もなにもありはしなかった。
「「うぃ〜」」
「いやぁ〜お久しぶり。元気してた?」
「まぁ普通だな」
「おいどんは何時でも元気でごわす!」
「ハッハッハッ!ヒューロ君は相変わらずだねぇ。それにしても君がここにいるって事は…」
「あぁ、コイツが【壁轢ヴォッシュ】だ」
「どうも〈気狂い〉の中に似た特徴の人がいると思ったら、やっぱり君だったのか」
「よくぞ見破った!我こそ〈気狂(きぐる〉い〉が1人!【壁轢ヴォッシュ】ことヒューロ・カッシなり!」
「うんそれ今聞いたから」
視線の先ににいるのは王、本来なら即座に跪き、頭を垂れるべき存在。だというのに二人はつっ立って雑談を重ねる。張本人に王もそれをなんら気にした様子もなく、むしろ当たり前の様に雑談を続ける。
オールは戸惑った。跪くにしても完全にタイミングを逃し、太々しく話す二人に挟まれ、最早どうしていいか分からない。
(え?何この状況…僕がおかしいの?)
友達と友達の友達が会話を始めて身動き取れなくなったパターンのアレである。
「ゼズド君は去年の大会以来かな?」
「あぁ、コロシアムの茶番か。確かそうだったな」
「いや〜あの試合は凄かったよ、まさか君への挑戦権を獲得した猛者を秒殺しちゃうなんて」
「ハッ!戦場にも出ず”試合”で奢ってる連中なんてそんなもんだ」
「流石は世界最強の一角、言う事が違うね」
「どーだか?」
「そう言えば、ヒューロ君は何処にいたんだい?エルフの里には帰ってなかったみたいだけど」
「エイグニールの村にいたでゲス」
「あぁ、あそこか……ま、元気そうでよかったよ」
「うぅむ!」
「にしても〈気狂い〉か…」
「意外かい?」
「うん。いや、君の経緯を考えれば、妥当なのかも知れないね」
ルミールは一度頷き、それを否定する様に首を振りそう言った。
「君は優しいエルフだ、だから君が人を殺めたなんて、僕には信じられない…それでも君は〈気狂い〉の1人だと、そう、言うんだね」
一変して暗い表情になり、やっと聞こえる声で呟く様に喋る。
「そのと〜り」
戯けた調子で言うヒューロ、彼も顔が笑えていなかった。
「笑えてないよ。どうしてそんな事したんだい?いや、聞くまでもないか…君は、それで良かったのかい?」
「分からない。でも、後悔はしてないかな?」
「そんな君がエイグニールの村に住む、なんとも皮肉だね」
「そう思うかい?」
「いや、君がいいならいいんだ。さて!暗い話はコレでお終い!本題に移ろっか!」
木の取り直しと、再び微笑みを浮かべ、ルミールは3人を見る。
するとオールへ視線を移し、ハッとした表情を浮かべた。
「あぁ!ゴメンゴメンおいてけぼりにしちゃって、君がゼズド君を連れ出した人だね?」
「は、はい!自分はエンスから参りましたオールと申します!」
「あ、そんな畏まらなくて大丈夫だよ。と言うよりお堅いのキライだから普通にしてね」
(えぇ〜…ここまでフランクだとは流石思わなかったな、調子狂う〜)
「僕にタメ口きいたって誰も怒りやしないから大丈夫だって!」
(大丈夫かこの国…)
「え、えぇ〜っと。では、僕の名前はオールといいます、エンスから来ました」
「へぇ〜、ゼズド君に何の用だったんだい?もしかして君も〈気狂い〉?」
「いえ、自分は一般人です。ゼズドさんを連れ出した理由は〜、えーっと……」
魔導国 《マジク》が再び戦争の準備をしていると言う情報は、現在情報取集能力に長けた科学国 《エンス》のみが握っている。
コレが知れれば混乱を招き、その上警戒したマジクは二度と尻尾を出しはしないだろう。そうなってしまってはもう遅い、抑止力として集めた〈気狂〉いも大した役割は果たせなくなってしまう。戦争が始まってから止めに入っても遅いのだ。
だからこそオールは話てしまっていいものか悩んだ。
闘争の国、闘争によって発展を続けた国、闘争国 《バルト》、その強みはなんと言っても肉体的強者に他ならない。科学、魔法、超能力、其れ等と対等に戦う事の出来る”質”鉄の塊を身一つで砕けない様に、バルトの”質”を戦略や情報収集だけで貫くことは出来ない。だからこそこの国はここまで生き残って来た。だからこそこの国は情報への関心が、それはもう恐ろしい程に
薄い
話してしまえば最後、アッサリと情報が漏れることだろう。
(どうしようかな…王様に秘密なんてマズイだろうし、何より〈気狂い〉連れてなんて、反逆行為とおもわれかねないよ…でも)
しかし、目の前にいるのは賢王だ、エンスの科学者よりも賢いと噂される程の賢人。ともすれば今、この瞬間もオールの事を詮索しているのかも知れない。
そんな人物が果たして簡単に情報を漏らすだろうか?
「理由は?」
賢王が答えを促す。
ならばこそ邪魔者は周りの親衛、護衛、彼等さえいなければ話しても大丈夫なのではないか?そう考えたオールは口走る。
「理由はここでは言えません。国際問題に発展する恐れがあるので、するならば人払をお願い致します」
「それはできんな」
声がしたのは後ろだ、野太い男の声。驚いたオールが後ろを振り返ると、そのには2メートルはあろう巨体を持つローブを着た人物がいる。その両サイドは計5人のローブ、彼等が【七拳刃】だと認識するのに、そう時間はかからなかった。
「い、いつの間に…」
「最初からだ。それより小僧、人払だと?笑わせるな、大した素性も分からん貴様と王を二人きりになど出来るものか」
「俺達が付き添うっつたら?」
背を向けながらゼズドが言い、リーダーであろう男の口元がニッと釣り上がる。
「貴様等こそ信用なる物か殺戮者共め、身の程を知れ!」
「言うじゃねぇか雑魚が!やろうと思ぇやテメェら諸共ぶっ殺せんだぞコッチは!」
「ぬかせ」
「試してみるか?」
二人の狂人が笑い合う、室内はドス黒い殺気に包まれ、一触即発。
「やめなさい」
そこへ透き通る様な声が響く、ルミールだ。
「仮にも彼等は客人だ、慎みたまえ」
「ハッ、申し訳ありません」
「話は分かったよ、じゃぁこうしよう、僕と【七拳刃】の面々だけを残す。そして絶対に口外しないと約束しよう、両者共、コレでどうだい?」
「畏まりました」
「僕もそれで構いません」
「よし、じゃぁそう言う事で、他の人解散ッ!」
ルミールの掛け声に別段反発の声もなく、兵士達が出て行く。室内にはオール、ゼズド、ヒューロ、【七拳刃】内6名、ルミールだけが残る。
「さて、その理由って言うのは〜」
「はい、実は魔導国…」
「マジクが戦争の準備を始めている。かな?」
「……はえ?」
国王の発言に、オールは間の抜けた声を出してしまう。
「ハッハッハッ!幾らバルトだって脳筋ばかりじゃないよ、人は使い様、この位どうとでもなるさ」
「相変わらずルミール君はあったまいい〜!」
「そんな事ないよ〜」
「「ワッハッハッ!」」
「し、知ってらしたんですか…‼︎」
ゼズドと戦争の情報を手に入れたのかも知れないと言うの話はしていた。が、正直な所オールはそこまで期待していなかった。何せこの国の情報網は最弱とまで言われている。
「まあね、と言っても〜、コレが発覚したのつい先日だけど…やっぱりエンスには敵わないか〜君を送り出す位だし」
ポリポリと頭を掻くルミールを見て、オールは思い出す。
(そう言えば、確かに僕はゼズドさんを連れて出たけど、他の〈気狂い〉を集めているなんて誰も知らない筈。僕が使者だって事もまだ)
そう、オールは無断でゼズドを連れ出した。勝手にコロシアムに居座っていたゼズドに”無断”と言う表現もおかしな物だが、確かにオールは誰にもソレを語っていない。
つまりルミールが持っている情報は
マジクが戦争の準備をしている
ゼズドが連れ出された
たったそれだけだ。
(なのに手紙には分かっている様に書かれていた…この人、この少ない情報でそれだけ推理したのか⁉︎)
情報収集能力に長けたエンスが、バルトより先にこの事を知るのは用意に推理出来るだろう。しかし、ソレを混ぜても出されたカードは3つ、にも関わらず、彼は残りの手札を読んで見せた。
まだ少年の域から脱していないオールを使者と認識し〈気狂い〉を集めているだろうと当たりをつけ、更にはそれに何ら疑問を持たず、確信を持つ。
計り知れない、とオールは思った。
「あぁ、あのバルハなんちゃらってガキがいねぇのはそのせいか」
「良く分かったね」
「暗躍なぞ出来そうなヤツ、バルトにゃあんくらいしかいねぇだろ多分」
「うん、バルハロット君には頑張ってもらってるよ」
「んならルミール君の用事って言うのもそれかね!」
「いや、要件は別だよ」
「違ぇのか?」
ここまで来て別の要件、それは3人にとって意外な事だった。
ならば〈気狂い〉を呼んでまでの用事とは一体なんなのか?
「今年に入ってからエルフの里が何度も襲撃を受けている、ソレを君達になんとかして欲しいんだ」
今までの態度とはまるで違う、鬼気迫るとは正にこの事だろう。その真剣な眼差しから3人は尋常ならざる事態だと言う事を理解する。
「…そんなにヤベェのか?」
バルトにあるエルフの里と言えば、樹海の中にあるエルフの聖地、全エルフにとって母なる地に他ならない。
当然そこには精鋭と呼ばれるエルフ達が集い、里を守っている。その戦力はバルトでも重要視される程だ。
「うん、ちょっと洒落にならない」
「【七拳刃】でどうにかならんのかニ?」
「多分総出になると思う」
「そうなれば王を守る者が居なくなる、それは出来んのだ。貴様等とバルト民ならば王の為に働け」
「正直ゼズド君には期待してない、君は言われた事やりたくなくなっちゃう天邪鬼だからね。だからヒューロ君、僕は君にお願いしたいんだ、君は戦争が終わっても里に戻らなかった!嫌な思い出があるのなんて百も承知だ!何も出来なかった僕がこんな事言うなんて間違ってるのも分かってる!友を死地に送り込むなんて外道だと分かってる!でも、もう〈気狂い〉に、君に頼るしかないんだ!どうか、どうかこの願いを聞き入れてはくれないだろうか!」
その時、一国の王が頭を下げた。
「他でもないルミールの頼みだ、俺が聞かない訳ないじゃないか。頭なんて下げなくったって、君の願いは俺を動かすに足るよ」
「ヒューロ君…」
「なんて、格好つけちゃってくれちゃっても似合わないよね!ま、そう言う事なんでボキは…ユクゾッ!」
「ありがとう…」
再び王が頭を下げる。
そこへ一つの声が投げかけられた。
「王様、一つ質問がある」
ゼズドだ彼は何時もの様に狂気的な笑みを浮かべていた。
「なんだい?」
「アンタがそこまでするなんて、相手はそんなに強ぇのかぁ?」
「あぁ、強い。エルフの里の精鋭が何人も殺られている」
「そうかぁ…そりゃ楽しそうだなぁ!じゃぁ俺も行くわ」
頬を限界まで吊り上げる彼に不謹慎などと言う言葉は微塵も感じられない。恐ろしい人間だ。
「君も行ってくれるのか!なら百人力だ!」
だが王もそんな事に構っていられない、里の一大事に1人でも戦力が欲しい。ならば賛同する他のないだろう。
「僕も行きます」
更にオールまでもが声を上げる。その表情は真剣そのものであり、年不相応な程だ。
「君が?死ぬかも知れないんだよ?」
「ハイ、でも、間がよすぎるとは思いませんか?」
「……やっぱり、君もそう思うかい」
今年に入ってから、と言うのは、マジクが戦争の準備を始めたであろう時期と奇しくも一致していた。
まるで目を背けさせる様に。
「世界最強クラスが二人もいるんです、きっと大丈夫でしょう。なれば僕の仕事は情報の獲得、その者達の目的を、僕は知らなければなりません」
「分かった、君はバルトの民じゃないからね、無理強いはしないよ。でも、命の危険性がある事は、心してくれ」
「はい、承知しました。何か新たに分かった事があれば手紙を送ります」
「それは助かる、是非お願いするよ」
「んなら今回の話は終わりだな、さぁて行くか!」
3人は踵を返し、巨大な扉へと向かっていく。
「あぁ!待って!」
しかし、ルミールの声によって呼び止められてしまう。どうしたのかと3人は振り返ると、王はほっとした表情で続けた。
「言い忘れていいたけど、敵の族、そのリーダーが不思議な武器を使っているそうなんだ。恐らく魔工技の類なんだろうけど、どうもその性能が桁外れらしいんだ」
『魔工技』それは科学と魔法を合わせ生み出される技術、大戦当時から研究されているソレは現在に至ってもまともな完成作が出来上がっていない。
だが、その魔工技と言う言葉に、ゼズドとヒューロが反応した。
「なんでも、大きなハンマーの形をしていて、振り下ろしただけで地面を割る程の破壊力を持つと言う話だよ。くれぐれも気をつけてくれ」
二人は顔を見合わせる。
「ゼズドさんソレって……」
「あぁ、間違いねぇだろうな。こりゃぁ余計行かなくちゃならなくなりやがったぜ!」
「何か知っているんですか?」
「後で話す。王様!エルフの里にカルラを飛ばせ!その魔工技持ったヤツにやぁ絶対近ずくなってな!」
そうして3人は謁見の間を後にした。
二人が微量の焦りを浮かべながら…
次
回
予
告
。
戦争の準備をするマジク、それと同時期に始まったと言うのエルフの里への襲撃事件。キチガイ達はそれを解決せんとヒューロの故郷でもあるエルフの里へと向かうのだった。現れるヒューロの幼馴染、謎の魔工技、エルフの里を襲う敵の目的とは一体⁉︎
次回、八強者、第一章第5話
エルフの里
お楽しみに!