第1章第3話 村の守護者
バルフォルトから馬車(馬じゃないが)に乗る事4日、無事目的地に到着したのだった。
ただしーー
「ゔぁ…ぎもぢわるい……」
「大丈夫かよ…」
ーーオールは無事じゃ無かった。
巨大な爬虫類が引く馬車(馬じゃない)のスピードはおよそ60キロ。それが大した整備もされていない道を、ちょっと強固にしただけの荷車で物走り抜けるのだから、その揺れは半端な物ではない。
酔う酔わない以前の問題である。
4日間この箱の中シェイクされ続け、それにギリギリで耐えたオールの胆力は中々の物だ。
「つ、ついたんですか…?」
「お、おう。ついたぞ」
青白く、クマの出来た顔で見上げるオールの形相にゼズドは若干引き気味に答える。
「どこですか…ここ…」
「エイグニールの村、バルフォルトから北に行った場所だ」
オールが青い顔で辺りを見渡せば、畑、畑、畑。道の続く前方には木の囲いで囲われた集落。
結構なド田舎である。
「こ、こんなところに【壁轢ヴォッシュ】が?」
「らしいな」
「らしいな、って!大丈夫なんですか⁉︎」
「あぁ、俺がコロシアムに住み着いた時、他の奴等から手紙で居場所教えて貰ったし」
そう言ってゼズドは懐から一枚の紙を取り出す。
「ほら」
オールに見せたその紙は、左上に『エイグニールの村』と書かれており、中央にはデカデカと雑な地図が描かれている。その雑さ具合は酷く、途中の目印になる家や店の名前を完全に無視し、門から歪な線が伸びて、目的地に
☆←ココ
と書いてあるだけだった。
「なんですかこの殴り書き具合は…」
「シラネ、適当に書いたんじゃねーの?」
「他人事⁉︎これから探しに行くんですよ⁉︎」
「まぁ、村はあってるみてぇだし、そこ等へん探しゃ見つかるだろ」
「うわ〜…先が思いやられる…」
そうして2人は門を潜り、村へと入ったのだが…
「外見より大きいし…」
そう、この村外から見た感じより大きい。近場に他の村や町がなく、行商人や旅の冒険者などが多くがこの村に流れる為だ。
多種多様な店が並び、村人も老若男女と、どこかに偏る事なく、もはや町と言ってもいいくらいの発展ぶりである。
オールは一つ溜息をついた後、ゼズドの後ろを歩き出す。その際、ただ歩くだけではつまらないと雑談をした。
「【壁轢ヴォッシュ】と合流した後は何処へ向かうつもりで?」
「次はセンサだな」
「超能力者住まう大陸、能力国 《センサ》…ですか。マジクじゃないんですね?」
「あぁ、早目に行きたい気もあるんだが、安パイ切って置こうと思ってな。仮に他のヤツが集まらなかったとしても、センサにいるビ…あ〜【暴帝エビヲン】さえいりゃぁ大抵の事は何とかなるからよ。アイツだけはぜってー回収して置きたい」
「何もない空間からノーモーションで電撃や炎を生み出すと資料にあったので、予想はしていましたが、やはり超能力者でしたか。彼に関しては不明な点が多く、質問したいところですけど、長くなるのでまたの機会にしましょう」
「そうしてくれ。アイツの能力は特殊だ、んでもってアホみたいに強い。説明するのも長くなるだろうし、先ずは目先の事を優先すんぞ」
「分かりました」
「と言う事で【壁轢】だな」
「はい。ところで〜、話は変わりますけど、この村、なんでエイグニール村とかではなくエイグニール”の”村なんでしょう?」
「しらね。誰かの私物なんじゃねぇの?」
「村が私物って…」
そうして歩く内、オールはなにかを思い出した様にゼズドの方を向く。
「あぁ、そう言えばゼズドさん。先日の【七拳刃】との件ですが…」
「なんだぁ?俺が負けたの馬鹿にでもしてぇのか?」
「いえ、そうではなくてですね…ゼズドさんは彼等と面識があったのですか?何やら因縁浅からぬ様子でしたが」
【七拳刃】と言えば、ゼズドが言っていた通りバルトの最高戦力である。
バルト軍の強者、それを上から順に7人集めたゴリ押し部隊にしてバルト軍に代々伝わる最強の部隊。その戦力は師団を軽く超えるとすら言われており、実際、四界大戦時には敵軍に多大なるダメージを与えて見せた。
そんな【七拳刃】と〈気狂い〉の因縁。それは何なのか?この世界の住民ならば当然の様に興味を引く話題。
「【七拳刃】か…大戦時に何度か戦って、四人殺した。今のは前の【七拳刃】と総入れ替えになってて、あのリーダーは前のリーダーの弟子なんだよ。その前のリーダーってのも俺等が殺したんだ、相当恨まれてらぁ」
「そうなんですか…」
「いきなり斬りかかって来ないだけ節度は弁えてるんだろうよ…よかったな、バルト民、特に軍部のは気性が荒いのが多い。可能性は高かったんだぜ?もし、あそこで俺と奴等が本気出したら、バルフォルト半壊じゃ済まなかったぞ」
(良識ある人でよかったーー!)
それとなく「本気じゃなかったんですよ」アピールをするゼズドを余所にオールは安堵する。
だが実際、両者共に本気では無かったのは確かだ。超人住まう国、闘争国 《バルト》その猛者たるや素手で岩石を砕き、一蹴りで空を飛ぶ。そんな超人達のトップクラスに立つ戦士があの程度の筈が無い。
「でも、今から会う人もそんなレベルなんですよね…」
そうなのである。
「あぁそれは大丈夫だろ、アイツは争い事好きじゃねぇし」
「え?そうなんですか?僕はてっきりそう言う人ばかりなのかと思ってましたが…」
「戦ってた理由なんてそれぞれだよ。平和の為に戦ってたヤツもいりゃぁ復讐の為に戦ってたヤツだっている。ぶっちゃけりゃぁ利害が一致したから一緒に行動したに過ぎねぇのさ。目的も、目標も、理由も皆んなちげぇ。ま、こうして会いに行ける時点で、少なからず仲間意識はあったんだろうさ」
オールは意外そうだったが、何のことない。
〈気狂い〉といえど人族の集まり、それぞれの目的や目標があり、一個人でしかないのだ。その考え方や途中過程も違う。利害が一致したから手を組んだだけの寄せ集めに過ぎない。
ただ、異様な程に強かった。
それだけだ。
「ゼズドさんは…どうして戦っていたんですか?」
「俺か?ははっ!なんの事はねぇ、俺のはただの”八つ当たり”だよ」
そう言ってゼズドはせせら笑う。儚げに。
「ま、安心しろ、今から会うヤツぁ平和主義だ」
「と言う事は…」
「あぁ、俺みてぇなヤツではねぇよ」
「よかったぁ!…あれ?でもゼズドさんはその人がキチガイの元凶だって…どう言う事ですか?」
安心も束の間、ゼズドのセリフを思い出し、再び顔を曇らせる。それもそうだ、あれだけのイカれっぷりを披露した彼がキチガイと言うのだ、一体どんな人物か想像すらつかない。
「あ〜、うん。ま、会えば分かるだろ。つか、会った方が早い。害は無いと思いたいから安心しろ」
「それ安心出来ませんよね…」
「どっちみち会わなきゃならねぇんだ、諦めろ」
一抹の不安を抱えながら村を歩く。が、地図が地図の為、全く分からない。するとゼズドが「もう面倒だ」と呟き、すれ違った獣人の男性に声をかける。
「あぁ、そこのあんた。ちっとばかしいいか?」
「なんでぇ?ん?あんたコロシアムのチャンピオンでねぇか?」
「だな」
「おお!有名人がこんな辺鄙なとこまでくるとはなぁ!して、なんの用だい?」
「ちとばかし人を探してる。ここがどこだか分かるか?」
と、殴り書き地図を見せてみる。男性はそれを見て、少し考えた後、ハッとした表情になり笑って答える。
「あぁ!こりゃぁ、ココだよ!ほら、その店がそうだ」
男性が指差すは二人の背後。もうそんな近場まで来ていたのかと驚きつつ、二人は振り返り、その建物を視界へ入れた。
そこにあったものはーー
「酒場…ですよね…」
「酒場…だな」
ーー酒場である。決して大きい訳ではないが、そこらの家々と比べれば大きい店だろう。木造の、どこかテキサス風な、そんな酒場だ。
「もういいかい?」
「あぁ、済まん助かった」
「そんじゃ、守護者さんによろしく」
獣人の男性はそう言って去っていく。
「守護者?なんだぁそりゃぁ?」
「聞き覚えとかないんですか?」
「全く?」
「うん、いよいよココで合ってるのか心配になってきたんですけど」
「まぁ、入るしかねぇだろ」
残された2人は意を決して前へと進む。
そこに待つのは神か悪魔か〈気狂い〉の中でも屈指の防御力と推進力を誇る暴走要塞、抜く事の出来ない装甲、世界最強の一人【壁轢ヴォッシュ】がここにいる。
両開きの扉を開け、少なからず客の居る店内へ足を踏み入れた。
途端ーー
「わりぃごはいねがぁぁあああ‼︎」
ーー右手に包丁、左手に桶、鬼の面。まごう事なきナマハゲがそこにはいた。
(えぇぇぇええええ!!?)
瞬間、オールの隣に暴風が吹き荒れる。なんの事はないゼズドが地を蹴ったのだ。
そして、空中で綺麗横回転をしたゼズドはその右足をナマハゲの顔面へと向かわせる。
とても素晴らしい後ろ回し蹴りである。
「いらっしゃいませはどうしたオラァァァアアア‼︎」
「ポギャァア‼︎‼︎」
(ええぇぇぇえええ!!?!?)
直撃、仰け反るナマハゲ、砕ける面。
オールの頭では到底処理しきれない惨状が広がっていく。
恐らく店主、であろうその男性は後ろの酒が陳列してある棚へ突っ込み、それを薙ぎ倒して床に横たわる。
「な、中々、いい蹴り…持ってるじゃない…ガクッ……」
「ちょ‼︎何してるんですかゼズドさん⁉︎」
「あぁ?挨拶」
「どこがっ⁉︎」
ガシャガシャと割れた瓶の中を歩き、店主へ近づくゼズド。店内は騒然としており、オールの高い怒鳴り声と、科学国から輸入したであろうスピーカーからながれる音楽だけが響いている。
そんな中、ゼズドは店主の胸ぐらを掴み、少し上体を起こさせながらオールの方へ振り返った。
「紹介するわ、コイツが【壁轢ヴォッシュ】こと、ヒューロ・カッシだ」
「う……うっそぉぉぉぉおぉおおぉおお!!!?」
その日一番の絶叫が轟いた。
----------------ー-ーーー
「おーい、起きろー」
「う〜ん…後…5年……」
「一生寝てろッ!」
「へゔんっ‼︎」
寝言を言った【壁轢ヴォッシュ】をゼズドが床に叩きつける。すると「今の今まで寝てました」と言わんばかりに目をこすりながら彼はが立ち上がった。
「う〜ん…あれ?」
「よぉヒューロ、久しぶりだな」
「OH!ゼ〜ズドさんジャマイカ!」
「…へ?」
その男、外見だけ見れば「ふくよかで穏やかな近所のおじさん」と言った感じだろう。
身長は180後半、金髪金眼で、丸々とした体はよく見れば全て筋肉、力士の様な男だ。
千切った様に袖が肩口からない茶色の服を着ており、下はジーンズ。腕には前腕を覆う皮のリストバンドが付けられている。
神父よろしく微笑みを張り付かせており、一見慈愛に満ちた優しそうな人物である。
が…
「O・HI・SA☆ボキに会いに来てくれたのかニ?」
「ちょ…」
「だが残念だったな、今は…営業中だッ‼︎遊べないのにござりまする!」
「何ですかこの人は…!」
一度喋り出したら台無しである。
どう考えても巫山戯た喋り方、目紛しく変わる表情、体の体制をちょくちょく変えるその奇行は、ともすれば煽っているにしか見えない。
「こういうヤツなんだよ。巫山戯てるのがコイツの当たり前、真面目なのなぞ殆ど見たことねぇ」
「ウヒヒヒヒ!」
(こ、これは酷い…)
「ところで誰だいその子?ハッ!まさかゼズドはんの隠し子!」
「んな訳あるかボケ」
「あひん!」
巫山戯るヒューロの鼻先へ綺麗に裏拳入った。それでも彼は笑顔のまま、鼻血どころか眉一つ動かさない。
「あいっかわらず硬ぇな」
「もっと硬くして見せようか?局部をなッ!」
「死ね」
「おほっ!」
続いて腹へトーキックが入る。やはり動じない。
「ボキの脂肪ちゃんをイジメないでぇ!」
「筋肉だろうが!この筋肉達磨!」
「ひぎぃ!」
更に踵落としが肩へ。衝撃が迸り、床が足型に沈む。
だが、それだけ。
(何この人…痛みを感じないのか……⁉︎なら最初の巫山戯てただけ⁉︎)
「っし、鈍っちゃいねぇようだな」
「もぉちろんさぁ〜!でもやり過ぎっしょ、床沈んだんだけど…」
床が壊れた事にショックを受けているだけだ。
「あ、貴方は本当に、あの【壁轢ヴォッシュ】なんですか…⁉︎」
「およ…?なんで知ってるんだい?ゼズドさんもしかして……」
「あぁ、教えた。ソイツからちょっくら面倒な話があってよぉ、言っとくが真面目な部類だかんな?」
「そうかい…分かった」
その睨む様な表情から、何となく内容を悟ったのだろう。ヒューロは一瞬だけ真顔になると、未だゼズドの登場におっかなびっくりな客達の方へ向いた。
「今日はおいどんの旧友が来たからコレで店仕舞いにするポン!金はいらんから帰ってちょ!」
「お、おう」「あれチャンピオンだよな?」「知り合いなのか」「店主って思ったより凄い人?」「かもな」「流石守護者様じゃ…」「タダ飯イヤッホーイ!」
客達は特に異論もなく帰って行き、店内には三人だけが残る。
「で?話ってなんだい?」
「ああ、簡単に言うとマジクがまたヤル気見てぇだ」
「……それは本当かい?」
「お前が話た方が早ぇだろ」
「分かりました。僕はオール、此度はエンスの使者として参りました。此方がエンスからの書状となります」
ヒューロは手渡された書状を読みながら耳を傾ける。
「魔導国 《マジク》は秘密裏に研究を行い、ソレにより戦争を起こすつもりの様です。残念ながらその研究と言うのが一体どう言うものなのかは分かりませんでしたが、今も暗部、特殊部隊の方々が情報収集に尽力していますので、いずれ分かる筈です」
「特殊部隊…マザナっちと同じだよね?」
「あぁ、だがヤツから連絡はねぇ」
「特殊部隊に知り合いがいるんですか?」
「まぁな。アイツに限ってなんかあったとは思わねぇが……」
「心配、だね。マジクって言ったらウィザーさんにマリさんもいるけど」
「そっちからも連絡はねぇな…」
そらを聞いてヒューロは表情を濁らせた。
「う〜ん。こう言ったらなんだけど、ゼズドさんはその子の話信じるのかい?」
当然の疑問である。何せ戦争と関わる程の件で来た使者が1人、しかも子供だ。普通に考えて有り得ない話だろう、エンスが何を考えているのかサッパリ分からない。
ヒューロが怪しむのも無理はなかった。
「あぁ……ちょっくら脅したが嘘をついてる様子はねぇ、ガキにしちゃ大したヤツだよ」
「って事は、今の話が嘘で、何か企んでいるならエンスって訳か…」
だが、コレも納得がいかない。何をするにせよ〈気狂い〉を集めてしまったら障害にしかならない筈なのだ。
仮に何かしらの計画を阻害させない為、一網打尽にしようと企んでいるとしも、大戦を終わらせてしまう程の力を持つ彼等を一体どうやって始末しようと言うのか?
罠?人海戦術?新兵器?そんな物で倒れてくれるならとっくの昔に彼等は消えていた。
エンスの目的も、マジクの目的も分からない、それどころか本当に再戦などありえるのかすら分かりやしない。だからといってオールが嘘を吐いている訳でもなさそうだ。
結局、現状分からない事尽くし。それでもゼズドは満面笑みで言う。
「そんときゃエンスを吹き飛ばす!」
「吹き飛ばさないで下さい!」
「ま、つーことで他の連中集めてる訳だ。本人の意思は尊重するが、どうするよヒューロ?」
「勿論行くよ、戦争になるかも知れないんでしょ?」
「あぁ」
「はい」
「なら、嫌って言っても付いていくぞい!」
「っし、決まりだな!準備してこーい!」
「はいよーー!」
ゼズドが早くしろとばかりに手を振り上げ、それに合わせてヒューロも住居スペースであろう二階へと上がっていく。その光景を見ながらオールは(何事もなくてよかった)と安心していた。
ただし、店内はグチャグチャである。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「長くね?」
「長くないですか?」
二人が同時に声を出す。何しろ二階へ上がったヒューロが帰って来ないのだ。
「もしかして……逃げました?」
「いや、そんなヤツじゃぁねぇ筈だが……ちっと見てくらぁ」
かれこれ一時間、待たされたゼズドは痺れを切らし、二階へと向かおうとする。だがその時、二階から誰かが下りてくる音がする。
「ごめんごめん、支度に手間取っちゃって…」
ヒューロの声だ。
やっとか、と二人が其方へ向けば、階段を下りきった彼がその姿を曝け出す。
「「……」」
モヒカン、肩パット、グサラン、謎の噴霧器、その他よく分からない金属品の数々ーー
「ヒャッハー!アルコール消毒だ〜‼︎」
ーーそこには紛れも無い世紀末がいた。
「テメェそれやる為だけに小一時間待たせやがったのかぁッ‼︎」
「あべしゃっ‼︎」
そして再びゼズドの回し蹴りが顔面に炸裂する。吹き飛ぶ世紀末、飛沫を上げるアルコール、追撃に走り出すゼズド、遠い目のオール。
(アレ?もしかして〈気狂い〉ってこんな人ばっか?)
それが判明するのはもう少し先のお話である。
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「ったく…支度は済んだか?」
「アハッ!この通り!」
「散々殴ってやったのになんで元気なんだよコイツはッ!ハ!ラ!タ!ツ!」
「まぁまぁ」
元に戻ったヒューロにゼズドが言うが、彼に反省した様子は全くなく、用意した荷物を戯けた調子で見せてくる。ソレにゼズドが憤慨し、オールが宥めていた。
「で?あの二枚盾はどうしたよ?」
「ん?【双盾ヴォッシュ】の事かえ?」
「あぁ、見当たらねぇが…」
「【双盾ヴォッシュ】……それが【壁轢ヴォッシュ】の由縁」
「ちゃぁんとあるぞ〜。オープン・ザ・ドア!」
言いながら開けたのは厨房内にある業務用の人が入れる程大きな冷蔵庫。中には形が分かる程原型を留めている動物の肉がぶら下がっている。
ヒューロはその中を漁り出す。
「どこに仕舞ってんだよ…」
「貴方も大概ですけどね」
「なんか言ったか?」
「いえ、なんでもありません」
再び姿を現したヒューロ、その両手には身程ある大きな盾が二枚と、その間にとても重そうな鎧が抱えられている。
と言うか、どう考えても1人の人間が持てる重量では無い。
「これこれ〜!いやぁ久しぶりに出したなぁ〜」
「鎧も持ってんのな」
「当然!思い出の品だぞい?」
「いや、俺、捨てたんだけど…」
「あ、そうなの…」
そんな会話を挟みつつ、ヒューロがソレを床へおろす。案の定、ズウゥン…と言う音が響き、オールが目を見開いた。
「え、何キロあるんですかソレ…」
「う〜ん?何キロだっけ?」
「いや、俺に振られても…確か600は軽く越えてたと思うんだが…なんぼだっけなぁ?」
「なんにせよ人1人が持てる重量じゃないですよ…」
こんなんでも世界を変えた1人、常人とは程遠い力量の持ち主なのである。
「で、荷物はそれだけでいいのか?」
「いいよん」
「んじゃさっさと行くか」
「でも、お店を黙って開けても大丈夫何ですか?」
「張り紙でもしとくからだ大・丈・V!ボキはよく居なくなるからね〜」
「わぁい、適当なお店だぁ」
ヒューロが店の扉に『休業、いつ帰ってくるかは知らん』と張り紙をし、三人は歩き出す。すると獣人の老人がその張り紙を見つけ、背を向けていたヒューロに声をかけた。
「おーい、守護者様や。どこかに出かけるのかの?」
「うん、ちょっと旅してくるよー!」
「そうかいそうかい、気をつけてな〜」
その老人とのやりとりはそれで終わってしまうが、ゼズドは思い出した様に頭を動かすと、ヒューロを見る。
「そういやお前、守護者ってなんだ?」
「そう呼ばれてましたね」
「いやぁ〜、いつだったか魔獣の大群が押し寄せて来てね〜」
「それをぶっ飛ばしたって訳か」
「そう。それから魔獣が出る度にやっつけてたら、何時の間にか定着してたんだ。何を言っているかわからねーと思うが、俺もなにを…」
「わぁーったわぁーった!お前はちょっとの間も真面目にしてらんねぇのか」
「そのと〜り!」
「だ、そうです」
「コイツ回収するの最後にすりゃよかった…あ?」
頭を抱え、上を向いたゼズドの視界に1羽の鳥が入る。
「ありゃぁ…」
「どうしたんですか?」
「ニ?」
「ニ?じゃねぇよ。ほら見ろ」
「…鳥?」
指差す上空を見れば、遠目でも分かる完璧な鳥のシルエット。それは緩やかなカーブを描きながら段々と此方へやってきており、やがてその姿がハッキリと見える様になる。
体長2メートル、翼を広げ横にすれば4.5メートルはあるだろう巨大。猛禽類特有の凶暴な顔は紛れもなく食物連鎖の上位に食い込む強者。人族など碌な抵抗も出来ず、片脚で軽く連れ去られ、餌となる事だろう。
そんな怪鳥が3人の前に舞い降りた。
そして驚きの余りオールが白目をむいた。
「王様のペットか」
「どうしたんだべさ?」
「訛んな」
「この様にすれば宜しいで御座いましょうか?」
「いやいやいや!おかしいでしょう⁉︎なんですかこの怪鳥は⁉︎ペット⁉︎王様⁉︎どう言う事ですか!」
ごく当たり前の様に話し出す二人へ、空かさずツッコミを入れるオール。
「うるせぇなぁ。つーか言ってる事が毎回似てんだよ、ちったぁ反応かえろ」
パターン化である。
「やかましい!誰の所為だと思ってんですか!」
「ヒューロの所為じゃね?」
「おひょ!おひょひょ!」
「あぁもういいです!それで、この怪鳥は一体なんです?」
「ったく、特殊部隊と繋がりあるんじゃねーのかよ、情報不足だぞ〜。ホラ、説明してやれヒューロ」
「ゼズドはんが面倒なだけやないか〜い!」
「おう、正解だ。やれ」
「いたしかたなし、では…説明しよう!」
怪鳥の名はカルラ、現バルト王、ルミール・バルト・エクセリオンのペットであり、簡単に言うと伝書鳩的な存在である。
このカルラが人前に現れると言う事は珍しく、その殆どは王直々に命を出す時だと言われており、今回もそれに準ずるものであろう事が予測される。
と、言う事をヒューロが(人差し指を立て、ドヤ顔で)説明した訳だが、その巫山戯た言い方と、度々変わる言い回しから、理解するのに30分近くかかったオール君であった。
「分かってくれたかな!」
「なんとか…」
「やっと終わったか」
「ゼズドさん、次からは通訳お願いします」
「断る。さて、王様からの伝令だが…」
二人があーだこーだやっている間、ゼズドはカルラが咥えてきた書状を貰い、読み終えていた。
そして二人へ向き直り、気怠そうに言う。
「王様からの呼び出しだ、バルフォルトに戻るぞ」
「「え?」」
次回
予告
!!
常時語尾にwwwが付くような喋り方をするキチガイの1人、ヒューロを回収したオール君一行。しかし突然バルト王から呼び出しを食らい、なんやかんやしながら再びバルフォルトへと戻る。そして王と謁見するのだが…バルト王は驚きの態度である依頼を出して来た!
次回、八強者、第一章第4話
壁轢ヴォッシュ
お楽しみに!