さよなら、ブルーマンデー
朝、眼が覚めると厚い雲が頭の上におおいかぶさっていた。
最初に気になったのは、会社に向かう朝だった。
薄い雲のような、といっても、ごくかすかだったから気にも留めなかった。
それが日を追うにしたがって濃く大きく広がり、とうとう月曜日の朝、目が覚めた時は、真っ黒な雲がどんよりとたれこめていた。
微かな朝食さえとれずにベッドから起き上がる力さえ残されてはいなかった。
俺はテレビ制作の現場を職としていた。
想像を絶する過酷な労働に心も身体も悲鳴をあげていた。
『もう限界だ。』
俺はその日の午後、辞表を提出した俺は自宅でしばらく放心状態だった。
『ついにやってしまった。仕事を辞めてしまった。』
ケツの青い俺は、仕事を辞めた後のことを何も考えていなかった。
『何か動き出さなければ…仕事を辞めた"無職"にしか出来ないことがあるはずだ…。このピンチをチャンスに変えるのだ…!!』
俺は頭をフル回転させ、今後どうするかを考えた。
翌朝、俺は公園のベンチにいた。
それは必然だった。
昨夜俺が考え出した答えは、『無職と言えば、公園でハトにエサやり。』
俺は持って行っていたパン屑を全てハトにやると、何を考えるわけでもなく空を眺めていた。
すると1人のオッサンが俺に話しかけてきた。
「おう兄ちゃん、今いくつだ?」
「22歳です。」
「若いねー!今日は仕事休みか?」
「いえ…昨日辞めてしまいまして…。」
「そうかー!けどまだ若いし、色んなことやったらいいんだよ!」
「でも、この先どうすればいいのか分からなくて…。」
「青いねー!そんなもんどうにでもなる!オッサンも過去に何回かクビになったりしたけど、なんとかなってるよ!」
「え?そうなんですか…?」
「昔は月曜日が憂鬱で仕方なかったよ!でも今は仕事が楽しくて仕方がない!仕事は忙しいけど、好きなことやってるから毎日充実しているよ。グッバイブルーマンデー!ハッハッハッ!」
「…グッバイブルーマンデー…。俺もいつか明るくそう言える日が来ますかね?」
「来るよ!もっともっといろんな経験して楽しめ、ケツの青い青年…ブルーマンよ!ハッハッハッ!」
オッサンは、とても不思議な人だった。
まるで世の中の逆境をやりすごす術を習得したかのようだった。
彼が明るく笑っている間だけは世界が少しだけ平和になった気がする。
『俺も必ず憂鬱な月曜日…ブルーマンデーと、ケツの青い自分…ブルーマンな日々とおさらばしてやる!』
俺はそう固く誓った。
さよなら、ブルーマンデー