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序章

 ローズマリーの子供の頃の記憶の殆どは、五つ年上の兄と、兄と同年の幼馴染みの少年との思い出で埋まっている。

 まだ足元もおぼつかない程に小さな頃から、いつも二人の後を追い駆けては一緒にいた。

 遊び盛りの年上の少年達にとって、小さな少女の存在はお荷物にこそなれど、役に立つ存在では無かっただろう。

 それでも二人は決してローズマリーを邪険に扱うことはなかった。

 兄は少し意地悪で良く泣かされたけれど、それでも大切にしてくれたし。

 幼馴染みの少年は、何処までも甘く優しく、本当の妹のように可愛がってくれた。

 どこへ行くにも三人一緒だった。そんな子供達の姿を、それぞれの両親達も微笑ましく見つめてくれていた、幼くも幸せな思い出だ。

 成長と共に兄は家を継ぐために、少年は騎士となるために、遊ぶ時間は限られて徐々に共にいられる時間も減っていったけれど、それでも親しい三人の関係は変わらなかった……今から六年前の、とある日の夜までは。

 あの日の夜のことを、ローズマリーは今でも昨日のことのようにはっきりと覚えている。

 少年の姉の、婚約披露パーティの夜だった。

 本来ならまだ、そう言った社交場に出るには早すぎる年齢だったけれど、少年の姉や両親に是非にと誘われて出席した、初めて経験する華やかなパーティに舞い上がるローズマリーの傍らに、少年がいたのは最初の内だけだった。

 気がつけば幼馴染みは自分の隣から消えていて、どこを見回しても見つけられない。

 少年の姿を探してパーティ会場を抜け出したのは、その時少しだけ心配事があったからだ。他の誰でもない自分の姉の婚約披露パーティだというのに、少年は顔を会わせた時から少し様子がおかしかったから。

 一家で訪れたローズマリーたちを、両親や姉と共に笑顔で出迎えてくれながらも、彼の表情はどこか曇っていたように感じたのだ。一体どうしたのかと訊きたくても、忙しそうにしている大人達や雰囲気に飲まれて、訊くことをすぐに忘れてしまっていた。

 もしこの時、もっと早くに彼と言葉を交わしていたら、何かが違っていただろうか?

 それともやはり、何も変わらないままだっただろうか……それはもう、今となっては確かめようもない過去の出来事だ。

 ただはっきりとしていることは、あの日の夜から自分達の関係は変わってしまった。

 本当の兄妹のように親しい関係だったはずなのに、自分達は赤の他人なのだと思い知らされるように、少年は自分との間に距離を置いた。

 そしてローズマリーもその距離を詰められる勇気がなかった。

 結果、あの日の夜から六年が過ぎた今、年に数度、兄の友人として顔を合わせることがあるだけだ。

 それ以上でも、それ以下でもない……そんな関係になってしまったことが、ローズマリーの心の中に小さな傷を残している。

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