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再世記  作者: 月藻 紅
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第二話

一時間後


約束通り青年は、天上界に最も近い転生の間に来た。


本を見た限りでは、転生の儀式を終えたら青年が天上界に連れて行くことになっているらしい。


部屋を見ると、そこにはまだ先ほどの鬼だけしか居なかった。


「お前だけか」


「今はそうですね。ですが、もうすぐ来ますよ」


そう言い終わるか言い終わらない内に扉が開かれ、二人の鬼と一人の疲れ切った様子の男が入ってきた。


「転生者を連れてまいりました」


一人の鬼が口を開く。


「そうか。なら、転生の儀式を始めてくれ」


「了解しました」


言って、鬼は転生者を部屋の中央部へと引きずり出す。


そこには、何とも形容しがたい奇妙な模様が床に描かれている。


次いで、もう一人の鬼が刃物を出した。


「余り転生らしくない転生だな」


青年は、その様子を見て思わず呟く。


「これが地獄流ですよ」


傍にいる鬼が答える。


「多少強引な気がするがな」


青年が言い終わると同時に、鬼の刃物が男の指先に触れる。


「ウギャアアアアアアア」


疲れ切った体からは想像できない大声が部屋に響く。


思わず動こうと、もがく男の体を鬼が押さえつける。


そして、刃物が少しづつ男の指先を溶かす。


30分ほどして、腕が完全になくなった。


「しかし、これだけ経ってまだ腕だけか。本当にこれを見続ける必要があるのか」


惨状にうんざりし始めた青年が言う。


「それが仕事なんですから仕方ないですよ。後、長年染みついた肉体と魂の関係を断つには時間がかかるんです」


が、隣の鬼に窘められて終わる。


「そうか」


青年は、それから口を閉じた。






転生の儀式が始まってから三時間後


遂に転生の儀式が終わろうとしていた。


残されたのは顔の形骸のみ。


もはや声を上げることもかなわない。ゆがんだ顔の形骸。


それを少しづつ鬼の刃物が溶かす。


やがて、顔がすべて無くなった。


何も無くなった所で、鬼たちが部屋の中央部から離れる。


「さあ、仕事ですよ」


隣にいる鬼が青年の方を見る。


「ああ」


青年は返事をして、中央部に向かう。


床に手を当て、床にのまれた元男の魂の再生を始める。


しばらく経って、青年は床から魂を引っ張り出した。


「さて、後はこれを天上界に運べば終わりか」


青年はゆっくり息を吐いた。


「じゃあ、これで転生の儀式は終わったので私達は元の仕事場に戻りますね」


三人の鬼たちは転生の間を出て行く。


青年はもう一度ゆっくりと息を吐いて、天上界へと通じる扉を開けた。


扉を開けると目の前に広がるのは天高く続く階段。


どこまで続いているかは、空の黒い雲のせいで見えない。


その階段を青年は上る。





数千段上った頃に青年は横を見た。


青年の目に、ここから幾ばくか離れたところにある複数の天へと続く、燃え盛る階段が映る。


そこでは人間たちが熱さを堪えながら、必死の形相で階段を上っていた。


「決して天には届かない階段。もう何度も地上に落とされているのに、あそこまで階段に縋り付くか」


青年は憐れみと呆れが混じった表情をした。


少し止まって見ていると、ある一つの階段が急に坂へと変わった。


それまで上っていた男は何とかして耐えようとするが、そのままなすすべもなく落ちて行く。


そして男は諦めたのだろう。熱さから逃れるために、地上へと飛んだ。


熱さと地上に打ち付けられる痛み。どちらが苦しいかは分からないが、男は今ある苦しみから逃れることを選んだ。


その姿はどんどん落ちて行き、男は地面に沈んだ。


「進むか」


青年は、それを見た後に再び足を動かした。





更に数千段進んで、青年はやっと黒い雲の元にたどり着く。


青年はそこから下を見た。


眼下には、様々な地獄が広がっている。


それを一望して、青年は雲の中に進む。


雲の中は視界が悪いため、青年は足元を確認しながら行く。


そして数百段進んで、ようやく雲を抜けて天上界が目に入る。


「久しぶりに来ると眩しいな」


天に輝く神々しい太陽を見て、青年は目を細める。


「しかし、遂に着いたか」


青年は残りの数百段の階段を上り、天上界の最下層に到達した。

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