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「失礼します」
蒼輔は、隣室の部屋の戸を開けた。
室内は障子からの明るい陽射しで、やわらかな空気が広がっている。
そこには窓を横目に、渋めの配色に梅の柄を施した着物を身に纏う小柄で華奢な女性が正座していた。
「貴女が……?」
蒼輔は不思議に思い、目を細める仕草をする。
今、目の前に居る女性は両目をしっかりと閉じ、音を頼りに蒼輔を伺っているように見えたからだ。
目が悪いのか……
蒼輔は直ぐにその女性が盲目であることを把握し、同じく正座の形で女性の前に腰を下ろした。
「初めまして、依頼を受けた蒼輔と申します。貴女が依頼主さんでしょうか…?」
それまで少し不安そうな表情を浮かべていた女性は、蒼輔のやわらかい声音に安心したのかこれまたあたたかく優しい微笑みを作った。
「はい、名を美和子と申します。蒼輔様‥が『七神』と呼ばれるあの……?」
「恐れ多くも。僕は『七神』の中の人格です。どの程度まで『七神』をご理解頂いているかわかりませんが、僕は他人の過去を記憶を通して断片的に覗くことが出来ます」
美和子と名乗る女性は、蒼輔の言葉を聞き逃すまいと物音一つ立てずに声の方向に集中していた。
「『七神』については風の噂で少しだけ知っている程度です。噂では、七色の瞳、七つの人格、七つの独自な力を持つ人とのことでしたが……」
「成程、では依頼をお受けする前に僕達自身の『七神』についてご説明致しましょう」
蒼輔は、自分の腕を顎に置き考えるポーズをとると、ゆっくりと『七神』についての説明を始めた。