僕は生きてます
前述したとおり、13係には仕事がないのが普通である。
なら普段、彼らは何をしているか?
答えは簡単。遊んでいる。ある時はトランプ、ある時はウノ。ある時は読書...
そして今日、6月12日はウノの日だった。
「じゃあ、猪俣さん。全部で12枚ドローです」
余裕ヅラでいう中島に、ぎりぎりと歯ぎしりする猪俣。
そんな二人を見ながら、美咲は小さくため息をついた。手札はかなり強いが、それでも気分は晴れない。
「正義」に憧れて自分は警視庁に入ったのに、あたしは何をしてるんだ。
今の自分たち。「怠慢」「税金の無駄遣い」そう言われても言い逃れはできないだろう。
そのとき、不意に声をかけられた。
「おい、青山?」
自分と同い年なのに自分より階級が一つ上の及川の、切れ長の目が彼女を見つめた。
「なに?」
美咲はこの男が嫌いだ。顔はかなりストライクなのだが、性格は論外。
もっとも、男は皆嫌いだが。
及川はどことなく嗜虐的な性格を持っていると思う。殺人とかではなく、精神的に。
「お前の番。なにぼんやりしてんだよ?半口開けちゃって」
その揶揄に満ちた質問には答えず、ドローカードをまとめて出すと、及川はだまりこんだ。
美咲たちがゲームをして時間をせっせと消費していたそのとき、ノックもなしに一人の男が入ってきた。
蛇のような目元が特徴的な彼は、12係長の柳沢警部である。
「!」
その顔を見た瞬間、金子が声にならない悲鳴をあげてウノカードを隠そうとしたが、逆に注意を引き付ける結果となり、失敗。
「何の用ですかぁ?」
お流れになったゲームにため息をつきながら、中島が捉えどころのない風のように尋ねる。
柳沢はしばらく、机に覆いかぶさっている老人を凝視していたが、やがて口を開いた。
「上層部から捜査依頼。珍しい事もあるもんだ」そして書類を机の上に投げ、次の瞬間には彼らに背中を向けていた。
明らかな皮肉を残して部屋を出て行く男を見て、美咲は憤慨した。
どこまで、連中は人を小馬鹿にするの?
しんとした部屋に、不意に舌打ちが響いた。及川だ。
「感じ悪い連中。アホかよ。人のこと馬鹿にすることしか知らないなんて、人として惨めだな。見てて笑えてきた」
あんたが言えることかと突っ込みたくなったが、考えは同じなので黙っておくことにした。
居心地の悪い空気の中、安堵のため息とともに金子が起き上がる。
「よかった。カード持ってかれないで」
あんたは小学生か!美咲は軽いめまいを覚えた。それよりもう少し空気を読んでくれ。
「あまりに下手な演技に、そんな気力も失せたのでは?」
「そんなはずはない!」
猪俣の言葉に猛烈に反論する金子に、中島が冷や水を浴びせた。
「じゃあ、あの人は死人に鞭打つようなことはしないんじゃないですか?だったら、根はいい人ですね」
「ぼく、死んでないよ...」
「係長の生死なんか今はどうでもいいでしょ。それより、この事件、久しぶりの殺人っすよ」
何時の間にか手にした書類から顔も上げずにいう及川を見て、金子は目に涙を浮かべた。