表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/33

一匹の猫(第一話)

 彼岸桜が舞う光景は、春の訪れを予感させている。猫たちは恋の季節を終え、お腹に子らをもうける頃である。

そんな頃に、道しるべの裏庭で、うずくまる一匹の茶虎の子猫を、優子が見つけ出す。前足に怪我を負った、その猫は元気がなく、衰弱していた。

「ちょっと、どうしたのさ?」

 子猫の状況を、確認した優子は、心配そうに見つめている。

「にゃあ、にゃあ」と、子猫は助けを求めているように見えた。

「わかったよ、助けてあげるからね!」

 優子が、普段着の格好で、猫を抱えてやってきた。

「お母さん、どうしたの?」

 四歳になる、娘が近寄り、弱った猫を心配そうに見つめている。その場所に幸司がやってくる。

「どうしたんだ、その猫は?」

 一目で、その猫の状態を察知した幸司は、前足の異常に気がついた。どうやら、前足が骨折しているようである。

 幸司は、その猫の前足に、添え木をあてて、応急措置を施した。

「優子、ミルク持って来い!」

「そう来ると、思ったよ!」

 優子は、家の中に娘の麻耶を伴ない、台所に向かった。

「ママ、猫ちゃんは、どうなるの?」

 ミルクを温めている、横で麻耶は心配そうに、猫のことを考えている。

「大丈夫、傷ついた猫を見捨てるパパじゃないよ!」

 ミルクを、ひと肌まで冷ますと、麻耶のお古の哺乳瓶にミルクを流しこんでいる。

「出来た。行くよ!」

「うん」

 哺乳瓶を娘に持たせ、幸司の待つ裏庭に足をすすめる。

「持ってきたよ!」

 幸司は、ミルクを受け取ると、怪我をした子猫に飲ませている。夢中で哺乳瓶を吸う、子猫が命を繋ごうとしていた。

「どうやら、何処からか落ちたみたいだな」

 親猫と一緒であったと思うが、この時点では姿は確認できなかった。つい最近まで、猫が繁殖の季節を迎え、恋する春の名残のようであった。猫は、娘の麻耶に預けられた。

「飼ってもいいけど、お父さんの仕事場所には入れるなよ!」

「それだけ、約束するならOKだよ。傷ついた子猫を、ほっぽり出すのも、可哀想だしな」

「うん、にゃん子。大事にする!」

 春の桜が舞う季節に、一匹の猫は、「道しるべ」にやってくることになる。優子は、その言葉が嬉しく思えた。


つづく。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ