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母恋し、幼き想いは(第七話)

 子供をある事情で、手放した母親の心には、深い心の葛藤があると思われる。なかには、そっと、様子を覗いに訪れる母親もいるのが、本来の姿ではないであろうか。

「哲ちゃん。実際にさ、おいらの母親も、夜中にそっと、見に来たみたいだよ!」

「お袋が、よくその事を、僕に話してくれたんだよ」

 自分と、何処か馬が合うところを、幸司は大切に思っている。その想いが、日本酒の銘柄に込められていた。

「幸ちゃん、俺さ。久しぶりに母ちゃんに会ってみようかな!」

 この「道しるべ」が、哲雄にとって、心境の変化をもたらした瞬間であったことは、嬉しい事実であると幸司は思った。

「そうか、それはいいことだよ!」

「是非、そうするべきだよ」

「手放した、親の方は、遠慮や思惑が交差して、なかなか連絡を入れづらいものだと思うよ」

 話をしながら、幸司は、五品目の料理を哲雄に出した。

「はい、お待たせしました。鮎の田楽焼き!」

 鮎を焼きあげ、山椒味噌を塗って仕上げた、この一品には、友人の哲雄も首をひねった。

「えっ、どういう意味合いがあるのかな?」

 哲雄は、興味津々に、幸司に質問していた。

「鮎ってさ、年魚って、言われているよね。意味は、その事を伝えたかったんだよ!」

 鮎は秋に、河口付近で産卵して一生を終える。そして、孵化した稚鮎は、春に川を遡上して、親のいた川に戻ってくる。

 その遡上は、とても力強く、川面にさざ波をつくり、盛りあがって、上流を目指してゆくという。その鮎の、体表の色具合も、澄んだ水の流れでないとなし得ないと言われています。

 その遡上する川の、一番有名な川は、長良川と言われているのが通説です。

「澄んでいる水の鮎は、味がとても良いと言われているんだよ。食べてみれば、良く解かるはずさ!」

 幸司は、田楽を哲雄に手渡した。

「ありがとう。美味しそうだね!」

「でも、おいら! 本当の鮎の味、知らなくってさ」

 正直である男は、料理に恐る恐る手を出している。

「親の生まれた川に、帰ってくる子供は、親を知らずとも、きちんとその川に戻ってくるから、自然の仕組みは凄いと思うよ!」

 何処か、これから親を訪ねる友人の哲雄の純粋さが、川を遡上する鮎に重ね合わせている幸司は、心の中で安堵感を覚えていた。

 清らかな、心に持ち主である男の人生が、寄り良き方向へ進んで行くのが、純粋な願いであるように思われる。


つづく。


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