父への鎮魂歌(第六話)
季節の、最後の時期を迎える蓮根を使った料理には、故人が極楽浄土へと旅立てるように、想いを込めている幸司の父への思いも伝わってくる。
仕事を進めながら、夫婦の様子を窺がっている幸司は、蓮根掘りの仕事の大変さを痛感している。
「蓮根は、とても美味しい食材です。きんぴらや煮物、天ぷらなどにされます。今の蓮根の八十パーセントは、茨城県が産地なんです」
「蓮根は、三月に3節ほどつけた状態で湿田や浅い沼に植えつけます。種れんこんの地下茎はやや斜め下に伸び、節ごとに水上には葉を、地中には地下茎を伸ばします」
「この地下茎が、先へ先へと枝分かれしながら太くなり、子蓮根ができ、さらに孫蓮根ができるのです」
幸司は、夫婦に蓮根の説明を丁寧にしている。その蓮根の旬は、早掘りが七月に出廻り、五月ごろまで順次に出廻ると云われる。
「蓮根を掘るのが、とても重労働と云われますね。寒くなる時期、収穫を迎えるのは、大変な作業でしょうね」
旦那さんが云うように、蓮根の栽培はとても重労働である。胸ぐらいまで、水田に浸かりながらの作業は、想像を絶する大変な作業である。
作る側の信念が感じられる仕事に、幸司は最高の料理を作ろうと思うのである。
幸司は次の料理を、手掛けていた。
「とても、料理が美味しいです。家族の不幸で、気持ちが落ち込んでいましたが、料理と真心に癒されました」
奥さんの顔には、笑みが浮かんでいる。僅かではあるが、元気が出てきているように感じられた。
人間にとっては、家族との別れは、心に寂しさを作る要因である。その心を知る幸司が、優しく次の料理を出そうとしている。
「次の料理になります。今日の四品目の料理です」
「鰹の土佐造りです。薬味を散らした上から、ちり酢をかけております」
鰹は、春に昇り鰹と呼ばれ、秋には戻り鰹と呼ばれる。日本近海を回遊する鰹は、春には黒潮に乗り東北沖まで北上する群れと、小笠原海流に乗って東北沖に北上する群れの二種類がある。
「春の時期は、脂があまりのってはいませんが、あっさりとした味わいがありますね。ちり酢が良く合います」
夫婦は、器に盛られた鰹を、美味しそうに味わっている。
「春にやって来て、秋に戻ってくる感じは、まさに彼岸みたいですね。故人を偲んで、お墓参りの頃を思い出します」
奥さんが、ぽつりと呟いていた。その言葉には、深い意味合いが感じられ、幸司の心に安らぎを与えている。
つづく。