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父への鎮魂歌(第四話)

 かわずの子が池に泳いでいるように、生命いのちは生まれてきては、運命を背負って、いずれはあの世に静かに旅立っていく。どんな人間も、避けては通ることはできない。

 そんな思いから、人生という精々長く生きても、八十年前後の人間の生き様に、限りなく正道を貫くのが、「道しるべ」の主人の幸司の真実の考え方になっていた。

 人は、つねに苦しみや悩みに直面する。時には、目を覆いたくなるような経験があったとしても、そこで心を真っ直ぐに保てるかが、最大の鍵になるといえる経験が幸司にはあった。


 お客さんの反応を覗いつつ、幸司は一品目を手掛けていた。奥さんの気持ちも察し、料理には気持ちを端正に込めている。

 その時に奥さんが、この店のシステムに気が付いて質問してきた。

「あの、料理はお任せなんでしょうか?」

 献立やら、値札の無い店内の様子に心配になった奥さんがいる。

「そうなんです。お通しを含めて、六品で二千円になります。良心的な値段にしているんです」

「それから、アルコールはお好みで注文して下さい。お勧めもありますよ」

 幸司は説明を終えると、料理を出すために仕上げ出した。

「二品目は、日本南瓜かぼちゃの鳥味噌田楽です」

 南瓜は中をくり抜いて、くし型に切り、蒸した後、小麦をまぶした後に油で揚げている。そのくり抜いた中に、よもぎ麩と竹の子と椎茸の揚げたのが盛り込まれていた。

 程よい味の鳥味噌が、驚くほど、良いアクセントになっている一品である。

「南瓜とは、驚きましたね。実に甘みがあって、鳥味噌から生姜の隠し味が伝わってくるようです」

 旦那さんが、一口料理を手に付けたあとに感想を伝えてきた。

「これは、黒皮かぼちゃです。近頃では、日本南瓜の純粋な品種が激減してしまい、品種が極めて少なくなっています」

「その中でも、生き残りなんです。南瓜は、生命感が強いと云われているんです」

「我々の先輩であるお年寄りも、戦争やいろんな経験をしています。生命力が強く、長生きしている人たちも多くいる訳ですよ」

「私の父や、奥さんのお母さんも、一生懸命に生きてきたことであろうと思います。その御霊を、大切にしたいものですね」

 幸司が作った南瓜の料理には、そういう想いが込められている。苦しい時代を生き抜いてきた、父への想いがそこにはあった。

「よく、戦争当時の艦砲射撃の、話をしていた父の笑顔が浮かんでくるような気持ちになります」

「得意げに話していた。あの頃が、とても懐かしく思えるんです」

 ふと、父の思い出話をした後は、熱い涙が出そうな感覚になる。

「うちの母も、南瓜の煮物をよく、僕に食べさせてくれていました。母の煮物はとても味が良く、昨日のように思い出されます」

「そうね、お母さんの十八番でしたもんね!」

 奥さんが、涙ぐんでいるように幸司には見えた。

 南瓜の料理で、思い出ばなしが繰り広げられている。そんな場面が、癒しの空間には、必要であると幸司は思っていた。


つづく。


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