表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

父への鎮魂歌(第三話)

 菜の花が、黄色く咲き乱れる頃に、空はぼんやりと花曇はなぐもりの様相を醸し出している。寒かった時期がやっと過ぎ去り、晩春を感じさせる季節に、二人の夫婦は「道しるべ」を訪れて来た。

 お通しが出された瞬間に、奥さんの表情が、何気なく曇ったように感じた幸司は、一瞬戸惑ったが、夫婦に訊ねることにした。

「どうなさったんですか? 一瞬、表情が曇りましたが?」

 幸司は、心配そうに女性に訊ねる。

「いえ、話すのも気が引けるんですが。つい最近、義理の母を亡くしまして」

「やはり、元気がないように見えるんでしょうか?」

 女性は、心の内を幸司に告げる。

「そうでしたか。家族との別れは、とても辛いことですからね」

「私も、先年ですが、父を亡くしております。今でも、時折ですが、寂しく感じるもんですよ」

 幸司は、女性の家族に対する気持ちが、手に取るようにわかる感じがした。葬儀が終わってからが、寂しくなる頃であることは、経験からよく分かっている。

「長い間のこと、介護で頑張っていたからな。お母さんも、天国で喜んでいると思うよ」

「そのような状況でも、君は、文句も言わないで、良くやったものだよ」

 亭主は、長年の労いの言葉を妻に述べている。幸司は、その話を聞くと、家族の思いやりの心の重要性を実感している。

「今日のお通しは、そら豆ですね。義母が、よく茹でては食べさせてもらいました。さやが、空を向いて付くと云うのは、本当の話しなんでしょうか?」

 奥さんが、意味深に幸司に訊ねてきた。

「そうなんですよ。空にむかってつくと云うのは本当なんです。お義母さんに、そういうお話を聞いたことがあったんですか?」

「その通りです。そら豆の見る空に、お義母は昇って行きました。今日の、お通しが空まめでしたので、思い出したんです」

 奥さんと、介護していたお義母さんの、思い出のそら豆が、偶然にも幸司の手で出された瞬間であった。

「懐かしいわ。この味は忘れることはできないです。義理のお母さんが、目に浮かんでくる」

 幸司は、その話を聞くと、自分の父に対する想いと交差しているように思えた。

 季節は、巡り巡って行く。故人への供養は、誰でも経験する事ではあるが、心の持ちようが一番大事であると幸司は考えていた。

 鯉のぼりが、たなびく季節に、二人の夫婦は気持ちの整理をするかのように、「道しるべ」を訪れてきたことになる。


つづく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ