表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/33

父への鎮魂歌(第一話)

 人は生まれてくれば、必ず死を向かえる。当たり前の中に、悲しみがあり、供養というものが存在する。

 先年に、幸司は父親を、突然の急死で無くしていた。父は、公務員であった。長年、役場に勤めあげ、定年後は悠々自適の暮らしを送っていたのである。その後、楽器を弾く楽しみを覚え、趣味として、演奏することが好きになっていた。

 それから晩年になると、各地に旅行に出かけては、自慢の喉を披露することが多くなっていたのである。

 そんな父親も、大好きな旅行中に倒れることとなる。連絡が入った時は、心肺停止という状態で、幸司と家族が駆けつけると、残念ながら息を引きとっている状態であった。

「一言でも、最後の会話がしたかった」

 父と会話する事もなく、旅立たせてしまった事実は、悲しい記憶が残っている。幾度も、幾度も、振り返る日々が続いた事実は、経験したものでないとわからない。

(親父らしいかな)

 幸司は、悲しみを堪え切れずに隠れて泣いた。込み上げる悲しみは、幸司の想いに圧し掛かった事もあったのである。

 ふと、昔を思い出すと、父と遊んだ日々や、修業時代に訪れてきた父の面影が浮かんでくる。料理人になった頃、父は心配ではあるが、あまり口に出した記憶はないといえる。

「東京で修業してきたことは、幸司にとって良かった経験であろう」

その一言に、すべてが詰まっている感じがとれる。そういう父の言葉が、懐かしく幸司の耳に残っていた。


 さて、躑躅つつじの花が、ピンク色の花弁を咲かせる頃、「道しるべ」の軒先には看板となる猫が、大きな口を開け、あくびを気持ちよさそうに見せている。

長閑のどかだねえ。お前さんは、軒先で日向ぼっこかい!」

優子が、猫を見て呟く。猫の名前は、福と名付けられている。季節は晩春を向かえ、ぽかぽか陽気が暖かさを感じさせている。

 先日、彼岸参りに、家族で出かけたことは懐かしい。田舎であるがゆえ、残雪は雪白に変わり、川を流れている状況は、自然観が豊かである証拠である。


 いつもと同じように、店先に水を撒いている優子が、通る人々を見つめていた。それから看板を拭いたり、入口の花壇を整えている。

「優子さん、いつもご苦労様です。今日は、温かい日和ですねえ!」

 隣の店の主人が、顔を出して軽い挨拶をしている。今日も、営業が始まろうとしていた。夕焼けが、店の軒先を優しく照らしていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ