表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/33

一匹の猫(第二話)

 田舎町の長閑な、田園風景が広がる場所で、幸司は「道しるべ」をひっそりと営んでいる。うぐいすの声が、微かに聞こえてくるような温かい日に、子猫は介抱され幸司に迎えられて、この家の一員になり、それから奥で、娘の麻耶が、幼いながらも大切に世話をしていた。

 優子は、いつもと同じように、店の中を掃除して外に水を撒いている最中であり、幸司は、今日の仕入れてきた素材を、店の厨房で、丹念に仕込んでいた。猫のことを考えながらも、着々と仕事を進めている状況である。


 春の木漏れ日の中、駐車場に軽トラックが止まった。

「おはようございます…。優子さん、ご苦労様です」

優子が、誰かとチラリと見ると、仕入先の八百屋の配達人の政さんが、段ボール箱に野菜を入れて配達しにやってくる。

「あら、政さん。御苦労さま!」

 優子は、にこやかに配達人の政を迎えるようにいった。

「幸司さん、いらっしゃいますか?」

 通称、政さん。幸司の仕入れ先の、八百源水上商店の配達人であるこの男は、山崎政春という。毎日のように、幸司の注文通りに野菜を届けてくれる、仲間内の男だ。

 性格は、さっぱりしていて後腐れがない。そういう所が、幸司とやけに馬が合う。

「厨房にいるよ。待っているから、早く行ってみて!」

「わかりました。お嬢さん、お元気ですか?」

 娘の麻耶を可愛がる政は、気になる様子である。

「元気にしているよ。子猫が、怪我して迷い込んで来てね。うちで、飼うことにしたから、麻耶が面倒みているよ」

「そうなんですかい、怪我した猫を見捨てないところは、幸司さんらしいですね!」

 幸司の性格を知る、八百屋の政は本音を伝える。

「いずれ、恩返しで。招き猫になればいいんだけどね」

 優子も、優しさを心に抱いている。そんな様子が、政には心地よさを抱かせていた。

「じゃ、幸司さんの所へ行きます」

 政は、野菜を入れた箱を持ちあげると、幸司のいる店内に入って行った。扉を静かに開けると、箱を静かに床に置いた。

「おはようございます。御注文のお野菜、お届けにあがりました」

「おおっ、政さん。御苦労さん!」

 野菜を確認している、幸司がいる。

「ひん死の子猫、介抱してあげたらしいですね?」

「そうなんだよ! 可愛くってな。怪我していたし、ほっとけないさ」

 幸司は、政に猫の詳しい話をしていた。その瞳に、優しさが満ちていて、心意気が伝わってくるのを、政は嬉しく感じていた。


つづく。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ