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狐の靴

作者: ネロ
掲載日:2026/08/30

これは一話で完結の超短編小説です。

文学の才能のない小説ド素人が書いています。

実際に見た夢の一部をもとに書いたので、支離滅裂なところも多いですがぜひ楽しんで頂ければと思います。

人によっては重く感じるかもしれません。全体的にふわふわしていると思います。

私は水族館にいた。

誰かと一緒に来たとかではなく、一人でそこにいた。

なぜか。

特別な理由などはない。誰かと行きたかったとか、魚を見たかったというわけでもなく、ただふと行きたくなった。それだけの理由。

私は家の近くにある小さな水族館へと足を運んだあと、入場料を払い、光に照らされゆらゆらと揺れる水面の影を眺めながら、淡い青色の水槽の前まで移動した。

水槽の中には、色とりどりの魚が列をなして泳いでいた。名前の分からない大きな魚が、何かくれるの?といったようにこちらまで近づいて口をパクパクさせている。その口にガラスごしに指を当てて、

「ごめんね、何も持ってないんだ」

そう微笑んで、次の水槽へ行こうとその場を離れた。

通路を曲がった先には、少し細くなった道があり、両端に小さな水槽がいくつも並べられていた。

小さな魚、カニ、うなぎ、エビ、ドジョウ、そんな感じの生き物たちが、一列に並べられており、私が通る度に尾びれをずばやくこちら側に向けて逃げていった。

通路の奥にはどんな生き物がいるのだろう。そう思って薄暗い奥を見ると、一人の男性がたっていた。その奥は行き止まりらしく、移動の邪魔になるかなと思い端によった。と、その男性が話しかけてきた。

「こんにちは」

「…こんにちは」

軽く会釈をしながら返す。

「靴、どうかな?」

その男性が表情の見えないまま、下を指差しながら言った。男性の足元を見ると、そこには5、6足ぐらいの靴が並べられていた。

どうも奇妙なことが三つある。

ひとつ、なぜ水族館で靴を売っているのか。売店で売るのなら分からなくもないが、ここは明らかに場所が違う。

ふたつ、なぜ身一つでここにいるのか。どこを見ても荷物らしきものはないし、お金を入れる箱や、靴を入れる袋のようなものも見当たらない。

そして、三つ目。ここが一番不思議に思うことなのだが、靴のデザインがお店では見たこともないような色をしていた。例として、目に止まった一番左端のスニーカーに目を向けると、赤、黄、黒、それらをぐちゃぐちゃにしてぶつけたような感じの色で、赤い靴紐が乱雑に通っていた。かかとの部分には、黒色で狐の形をしたマークがいくつも描いてあった。

もちろん、お世辞にも可愛いともかっこいいともいえず、むしろグロテスクで不気味なイメージが沸いてくるような、そんなデザインの靴だった。こんな靴を、一体誰が欲しいと思うのだろうか。そんなことを思っていると、

「履いてみますか、その靴。きっとあなたに似合いますよ」

そう目の前の男性が平坦な声で言った。

少しためらったが、別に履いて減るもんじゃないし、せっかくの好意を無駄にするのはよくないだろう。そう考えたので、「履いてみます」と言って、私は座って自分の靴を脱ぎ始めた。


端の靴を手に取った。やはり見れば見るほど不思議なデザインだ。足首まである靴だったので、一度靴紐を2、3個はずす必要があった。慣れない作業に苦戦しつつも、ようやく足を通すことができ、一番上まで紐をぎゅっとしめた。これは履き脱ぎが大変そうだなぁ、日常では使いにくそうだ、そんなことを思いつつ、ふと、靴紐を結んだ自分の手を見る、と、その手が赤くまだらになっていた。

「え、」

それは血だった。自分から出た血なのか、靴についていたのか、思考も出来ないうちにその赤はどんどんと広がり、手を埋め尽くす。

どういうことなんだ、と困惑の目で男性のほうを見ると、にやり、と薄気味悪く笑っていた。私はしてやられたのだ、それだけがはっきりと分かった。文句を言おうと口を開こうとすると、言葉の代わりに赤黒い液体がでてきた。なんだ、どういうことなんだ。頭がぐるぐるする。視界がぼやける。もう一度男性の顔を見ようとして、意識が途切れた。




目が覚めた。そこはかなり小さい部屋で、その真ん中に座らされていた。いや、違う、部屋じゃない。籠だ。時代劇などでよく見る、お姫様とかを運ぶ籠。さっきから少し揺れているところを見ると、私は籠で誰かに、どこかに運ばれているらしい。

あっ、と自分の手を見る。さっきは赤く染まっていた手も元どおりになっており、一安心もつかの間。私の腕は肌触りのよい白い袖に通されているようだった。よく見ると、それは白い着物、というより、頭の違和感も考えると、それはまるで、

「白無垢だ…」

私は白無垢を着せられていた。なぜ白無垢を?私はいつの間に結婚したのか?そもそもなぜここに。と、ぐらりと籠が揺れ、地面に置かれた感覚がした。左横の、障子ばりの戸が開けられる。

光が差し込み、まぶしい中で目を細めながら正体を確認しようと奮闘していると、光の中からぬっと手が差しのべられた。

「さぁ、こちらに」

と、さっきの男性とは違う男の声が聞こえた。嫌だ、行きたくない。そう思ったが、手が勝手に動き、男の手の中にするりと入っていく。自分でも訳が分からぬまま手を引かれて外に出ると、そこには大勢の狐面を被った人たちがいた。

「ようこそお越しくださいました。花嫁様」

目の前の狐面の男がそういった。よく見ると、他の狐面の人々より豪華な身なりをしている。花嫁?いつ私があんたの花嫁になったんだよ、そう抗議したかったが、声が出ない。

「行きましょう、みなが待っています」

あぁ、どこかで似たような状況を聞いたことがある。確か、『狐の嫁入り』という話ではなかったか。男に手を引かれ、勝手に足がついていく。歩きだしてようやく、自分があのスニーカーを履いていることが分かった。

白無垢にスニーカーはおかしいだろう、と心の中でつい突っ込むが、周りは誰も言及しない。自分の意思とは関係なく、足はぐんぐんと前に進んでいく。こいつが原因に違いない、どうにかして、脱がなければ。そう思うのに、動けない。むず痒さを感じながら、狐面の一団は前に進んでいった。



男の足が止まった。私の足も止まる。そこは大きな屋敷だった。まさに今から結婚式でも行われそうなほど立派な造形をした豪華な建物だった。目の前の敷居をまたぐとき、男に握られた手に力を込められたのが分かった。逃がさないとでも言いたいのだろう、そう心のなかで嫌悪しながら引かれるままに歩き、私たちは広い居間へと到着した。

居間の中央には、豪華な食事が縦二列にずらりと並べられていた。向かいの席には二人分の食事だけが横に並んでいる。あそこが私とこの男の席なのだろうかと思っていると、案の定男はその席へと向かいだした。


「みな、席に着いただろうか」

隣に座る男が声を張って言った。

「本日は、私の結婚式を祝いに来てくれたことを、まことに嬉しく思う。さて、さっそく儀式に入り、誓いを交わすことがしきたりだが、みな歩いて腹がへっていることだろう。先に食事をとろうではないか」

おぉ、と、周りから賛同の声が上がる。

「さぁ、遠慮なく食べるがいい」

その声を合図に、賑やかな宴会が始まりだした。お酒なども持ってきて、ワイワイと食事をしあっている。

「さぁ、私たちも食べよう」

そうこちらに顔を向けて男が言った。食欲は全く湧いてこなかったが、なんと手が勝手に箸をもった。食事まで強制なのか、と心底驚愕していると、自分の箸が料理の一つの昆布巻きへと伸びた。げっ、と思わず心の中で叫ぶ。昆布巻きは私の苦手なもの第一位に入るぐらい苦手なもので、毎年の正月料理にある昆布も残していたぐらいだ。

青ざめつつも、勝手に口へと運ばれる。もう口に入ってしまう、と身構えたそのとき、昆布巻きと口の間に仕切りが設けられた。男の手が目の前にあった。

「…そういえば、昆布は苦手だったな。これは私がもらっておく」

そういって自分の箸で私の昆布巻きを奪いとると、パクっと全部食べてしまった。

なんでそのことを?そう思ったが、機械的に私の箸が次の料理へと伸びる。謎が残るまま、料理を咀嚼する。おいしかった。と、同時に頭もぼんやりとして、料理を食べ進めるうちにおかしいと思っていたことが少しずつ、霧がかかったように薄れていく感覚があった。



そうするうちに食事を皆が食べ終え、そろそろ宴会も終盤というところで、家臣らしき一人の狐面が近づいてきた。

「…そろそろ儀式を」

そう隣の男に向かって耳打ちすると、

「分かっている」

そう返して、狐面の男は大きく息を吸った。

「皆のもの、そろそろ誓いの儀式を行おう!そこの女給はあれを用意してくれ」

あれってなんだ、という疑問も泡のように浮いてすぐに消える。

女給が何か赤い液体が入った銚子と盃を二つもってきた。私は男と向かい合わせになった。

男は小声で言った。

「これを飲めば、その靴がなくとももうここを抜け出そうとは思わなくなる。一生ここに住むことになる。今までのことを忘れて」

そうなんだ、とぼんやり思った。

「…、まずは私から」

そういって、男は赤い液体の入った盃をもちあげ、二回くいっと飲むふりをして、三回目に飲み干した。三三九度か、そう思った。私の盃に液体が注がれた。次は私の番だ。

持ち上げて、くいっと男の真似をして二回飲むふりをした。これを飲めば、全部忘れられるのか、何もない無になって、自由になれるのか。もう反抗の意思は微塵も残っていなかった。

三回目。一気に飲み干そうと口をつけたそのとき、盃に男の手が覆い被さった。

「…だめだよ」

焦っているような声で、前を見ると、口を噛み締めている男の表情があった。

「これを飲んだら、君はもとの世界に戻れない」

だからなんだ、それがどうした。もう未練なんかない。早く、これを飲んで…。と、男が勢いよく私の肩を掴んだ。

「しっかりしろ!もとの世界のことを考えるんだ!親が悲しむ、ペットはどうする?!最近欲しい化粧品が出たんだろう!!行きたいところは?食べたいものは?やり残したことがいっぱいあるくせに、諦めてなげうってどうする!」

……そうだ、そうだった。私、親に謝らないと、心配かけて…ペットのカメのきゅーちゃんも、私がいなかったら誰が世話をするんだ。最近欲しい化粧品が出たし、久しぶりに親友にも会いたい、遊びに行きたい、

盃が私の手から落ちて、カラン、と音が響く。男は泣きそうな声で言った。

「言え!こんなの嫌だって、ここに居たくないって、全部ぶち壊して…もとの世界に、戻りたいんだって」

最後のほうは、なぜか優しい声だった。開かない口に精一杯の力をかけて、絞り出すような声で言った。

「……帰りたい」

その瞬間、パキッと空間が割れた。隙間から光が差し込む。世界が崩れる。割れて歪んだ男が手を持ち上げ、その狐面を外した。見覚えのある、記憶より少し大人びた顔に、私の目が大きく見開かれる。

「次こっちにきたら、その顔ぶん殴って、強制的にこの世界の住人にしてやるからな」

口調が崩れ、ニッとした顔でそいつは笑った。






……………

…………………………目が、ゆっくりと開いた。見慣れた天井が目に入り、すぐに自分の住んでいるぼろアパートだと分かった。起き上がろうとした手に、何かがあたる。そこには錠剤の入った小瓶があった。半分ほどなくなっており、そのラベルには睡眠薬とかかれている。私はそこで、自分のしようとしていたことを思い出した。


私は消えようとしていたのだ、自分には合わない明るく窮屈な世界から。昔、私には幼なじみがいた。ニッと明るく笑う男の子の姿が脳裏に映し出される。十年前のあの日、事故でこの世を去ってしまったけど。きっと、止めてくれたのだ。私の考えなしな身勝手な行動を。

「変な夢みちゃったな…」

だるい体を起こす。小瓶をつかみ、ゴミ箱に投げ入れる。最低限の持ち物を持って、玄関に向かう。

「まずは、親に謝りに行こう。そして、やるべきことをするんだ」

ふと、靴棚にセンスの悪い、埃の積もったスニーカーが目に入る。確か、あの幼なじみと、お揃いの靴を作ってみようと言うことになって、絵の具で白いスニーカーに好きな色を塗りたくったのだ。あいつは狐が好きだったな、カッコいいからとかなんとかで。黒色の狐のマークの一つが、じっとこちらを見ているように感じた。

そのスニーカーに私は言った。

「分かってる、あんたの分まで、最後まで頑張ってみるから。ちゃんと見ててね」

そう言って、私は玄関の扉を開けた。

最後までありがとうございました。

納得のいかないことが多いと思いますが、所詮は夢なんだと流していただけると幸いです。色々解釈してくださると嬉しいです。

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