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完璧皇帝と人形姫〜侯爵令嬢は致死量の愛で、失った感情を取り戻す〜  作者: 知琴


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狂愛の行方

 カイン・フォン・ヴァイスハイトによる、前皇帝夫妻及びミレイユの殺害告白から十年が経った。


 一時は混乱を極めた帝国も、傍系の皇族を新皇帝として擁立することで、なんとか国としての形を保っている。


 カインの凶行はヴァルシュタイン帝国のみならず、世界中に衝撃を与えた。

 世界各地で世紀の大事件として扱われ、帝国裁判には国内外から傍聴希望者が殺到する事態に。


 しかし、十年経った今では人々の興味は薄れ、過去の出来事になりつつある。


 帝国裁判で躊躇いなく全ての証拠を提示し、真実を語ったカインは、辺境の地にある幽閉塔への生涯に渡る幽閉が言い渡された。

 本来であれば死刑が妥当だが、仮にも皇帝であることと、これまでの功績は本物であることから、幽閉が妥当と判断された形である。

 カインは抵抗することもなく、その判決を受け入れた。


 窓ひとつなく真っ暗で、時折わずかな足音や食事を運ぶ音がするだけの部屋――ここではひたすら、自分の罪と向き合うことしか許されない。

 これまで、罪を犯した数人の皇族が幽閉されており、その誰もが三年と経たずに発狂死している。


 そんな部屋で、彼は十年以上生き続けているのだ。


 時折部屋からは、彼が誰かと話しているような声が聞こえてくる。


「おはよう、ミレイユ。今日の体調はどうだい?」

 

 その声は甘く優しく、まるで本当に目の前の恋人に話しかけるかのよう。

 また、食事を運んできた兵士にも、皇帝時代と変わらぬ調子で穏やかに話しかける。


「今日も一日ご苦労。もう下がってくれて構わないよ」


 あまりにも罪人とは思えない態度に、この十年間で何人もの監視兵が気が狂いそうになっては辞めていった。


「気味が悪すぎて、こちらの頭がどうにかなりそうです」


 監視役を命じられた若手兵士は、やつれたような顔で先輩兵士に訴える。


「給料が良いから監視役を買って出たけど……そりゃすぐ人が辞めるわけですよ。あの人、ずっとあの調子なんですか?」

「ああ、ずっとな」

「先輩は嫌にならないんですか?」


 先輩兵士は小さくため息をついて答えた。


「最初から壊れてるってわかってさえいれば、このくらいどうでもよくなるんだよ」

「壊れてる? まあそりゃ、こんなとこに長年入ってたらおかしくもなりますよね」

「いや……」


 先輩兵士は塔のてっぺんを見つめる。


「彼は幽閉されて狂ったわけじゃない。最初から狂っていたんだ。」


 ◇◇◇


 閉ざされた部屋。

 日の光ひとつ差し込まず、時折聞こえてくるのは、監視兵の足音と食器を置くカランという音だけ。


 普通の人間だったら、あっという間に気が狂ってしまうだろうね。


 他国と通じて皇位を脅かそうとしたり、後継者争いで兄弟を殺したり……これまでにも何人かの皇族が、大きな罪を犯してはこの場所へ幽閉されている。

 その誰もが、この環境に耐えきれず命を落としていった。


 だけど、私にとってこの環境は楽園も同然だ。


 ここでは皇帝としての責任も、貴族たちや他国とのしがらみも、何も関係がない。


 ただひたすら、ミレイユのことだけを想っていられる。


 私にははっきり見えるんだ。

 この暗闇の中、優しく微笑みかけてくれるミレイユの姿が。


「ミレイユ、こちらへおいで」


 そう言って手を差し伸べると、彼女は近寄ってきて、私の腕の中に収まってくれる。


 運ばれてきた食事を分けてあげれば、申し訳なさそうに笑って「ありがとうございます」と言ってくれる。

 以前よりもずっと粗末な食事になってしまったから、申し訳ないのはこちらの方なんだけどね。


 夜眠る時は、狭いベッドの中でくっついて眠る。

 皇宮のベッドはとても広かったから、こうして密着して眠れるのは嬉しいな。


 ……ミレイユ、君が亡くなってからの数年間、君に会えないことが本当に辛かった。

 

 もちろん、自分が招いた結果だということはわかってる。

 でも、ふと隣を見た時に君がいないのは、心の底から辛かったんだ。それこそ、死んでしまいたいくらいに。


 ――私の心は、今も、これからも、ずっとあなたのものです。


 君のその言葉だけが、私を生かしていた。

 私の中に君がいる。だから自害なんかして、君を再び殺すわけにはいかないって。


 そんな時、両親の死の真相が明らかになったんだ。


 大罪を犯した皇族は、この塔へ幽閉されるのが慣わしだ。

 だから私は罪を告白した。

 両親の殺害も、君の毒殺も。


 そして期待通り、この静かな楽園へと導いてもらえたんだ。


 この楽園へやってきてすぐに、君は私の前に現れてくれた。


 私が君に会いたかったように、君も私に会いたがっていてくれたんだね。

 本当に愛らしいな。愛おしくて愛おしくてたまらない。


 ああ、ミレイユ。

 どれだけ時が経とうと、君への想いは幼い頃からずっと変わらない。


 誰よりも愛している、私の世界の全て。


 きっとこの想いは、いつまでも色褪せることはない。

 この命がある限り、私は永遠にこの致死量の愛を、君に注ぎ続ける。


 ――私の心は、今も、これからも、ずっとあなたのものです。


 ありがとう、ミレイユ。


「私の心も、今も、これからも、ずっと君だけのものだ」

この作品はこちらで完結です。


長編『悪魔と交わした【約束】は、永遠に解けない愛の鎖となりました。』もよろしくお願いします。


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