全ては愛のために
※これより先は、救いのない描写・倫理的に重い内容が含まれています。作品のイメージが壊れる可能性もあるため、閲覧にはご注意ください。
苦手な方は、三話までを一つの区切りとしていただいても構いません。
ミレイユの葬儀は、国を挙げて執り行われた。
国内外から多くの弔問客が訪れ、彼女の死を悼む。
葬儀の参列者の中には、ミレイユの家族や元婚約者エドガーの姿もあった。
リーゼルが成人したのち、エーデルヴァイス侯爵家へ正式に婿入りしたエドガーは、爵位を継ぐべく勉強中の身。
しかし、ミレイユとの婚約破棄の件で周囲からは後ろ指を刺され、貴族社会では少々肩身の狭い思いをしているようだ。
「皇后陛下は幼少期に、酷い虐待を受けていたらしいわね」
「栄養状態が悪く、病弱だったと聞いたわ」
「皇后陛下がこんなに早く亡くなったのは、彼らのせいなのでは?」
そんな噂が聞こえてきて、ミレイユの家族たちも逃げ出したいほどの気まずさを感じていた。
葬儀の最中、カインは一切の涙を見せない。
ミレイユの眠る棺をまっすぐ見つめ、霊廟に納められるその瞬間までそばに寄り添う――その姿を見た人々は、カインの深い愛と悲しみを思い胸を痛めた。
◇◇◇
ミレイユの死から二年。
人々はカインの再婚を望んでいたが、カイン自身はそれを断り続けていた。
それでもヴァルシュタイン帝国は、これまで通り平和な日常を送っている。
そんなある日、帝国議会で一人の貴族が声を上げた。
「陛下、近頃レヴァント共和国を中心に、我が国の前皇帝夫妻に関する噂が出回っているようです」
そう言って彼が取り出したのは、一部の新聞だった。
「この記事に書かれたことが事実であれば、あの海難事故は事故ではなく、殺人だった可能性がございます」
カインは新聞記事に目を落とした。
◇◇◇
――海難事故は仕組まれていた!? 唯一の生存者が明かす真実!
約十年前、ヴァルシュタイン帝国の前皇帝夫妻を乗せた船が、海難事故により沈没したことを覚えているだろうか。
前皇帝夫妻及び、船に乗っていた者たちは全員死亡……そう思われていた。
しかし、なんと唯一の生存者が、我が国レヴァント共和国へ流れ着いていたのだ。
事故から数週間後、港町にて衰弱した男を発見。
衰弱が酷く、しばらく治療をしたのち身元を確認したものの、記憶障害を患っていた。
それがこの度、無事回復して話を聞くことができたのだ。
彼の名はローガン。下級船員として、前皇帝夫妻の船に乗船していた。
ローガン氏は海難事故について次のように語る。
「あの日、私は甲板の掃除をしていたのです。すると突然、船尾の方から大きな爆発音がして……振り返るとすでに、船尾が吹き飛んでいました。そのまま船はあっという間に沈んで……」
また、船内に危険物を持ち込んだ形跡はなかったようだ。
「皇帝夫妻の乗る船ですから、積荷も持ち物も出航前に検査していました。爆発に繋がるような危険物は、持ち込めるはずがないのです」
しかしながら、爆発が事実であれば不運による海難事故というこれまでの説は崩れる。
我々は今後、ヴァルシュタイン帝国に対して、再度捜査を求めるつもりだ。
◇◇◇
新聞を読み終えたカインは、何かを思い出すように目を細める。
「陛下、いかがでしょうか。我が国としましても、前皇帝夫妻殺害も視野に捜査すべきでは……」
「いや、その必要はない」
カインが即答したことに議会はざわつく。
「懐かしいな。ある二つの薬品を混ぜると、爆発を引き起こすんだ」
「陛下……? 一体何を……」
「贈答用の酒瓶の中に、その薬品の入った瓶を数本紛れ込ませておいたんだ。瓶の強度を弱めるのに苦戦したが……ちゃんと沖で割れてくれて良かったよ」
顔を真っ青にした貴族が、恐る恐る聞く。
「陛下、それではまるで、陛下が仕掛けたかのような……」
「ああ、そうだ」
悪びれもせず答えるカインの姿に、議会は混乱し始めた。
「陛下が前皇帝夫妻を!?」
「陛下のご両親ですぞ!」
「一体なぜそんなことを!」
「だって、あいつらが生きていたら、ミレイユとは結婚できないだろう?」
カインの一言に議会は凍りつく。
「ミレイユは婚約破棄をされた上に、人形姫だなんて揶揄されていた人物だ。そんな彼女との結婚を、あの完璧主義者たちが許すと思うか?」
「そんな理由で……ご両親を殺されたのですか……?」
「そんな理由? 私に取っては何より大切なことだ」
「で、では、ミレイユ皇后陛下も共犯だったのですか?」
ミレイユの共犯を疑う言葉を耳にしたカインは、かつてないほど怒気を孕んだ表情で答える。
「ミレイユが? そんなわけなかろう。私が彼女を必要としていた。それだけのことだ」
すっかり静まり返った議場で、カインは淡々と話し続けた。
「リシュモン公爵、君の息子がミレイユと婚約した時は、何度も彼を殺してやろうと思ったよ。まあ婚約破棄してくれたおかげで、結果的に誰もミレイユに寄り付かなくなったから、その点は感謝しているがね」
エドガーの父であるリシュモン公爵は、真っ青な顔で震えるだけだった。
「どんな仕打ちを受けようと、ミレイユの笑顔を思い出すだけで乗り越えられた。ミレイユは私の生きる理由そのものだった。その眩しい笑顔は、エーデルヴァイス侯爵の厳しい教育で、大人になる頃にはすっかり消えてしまっていたが……」
名指しされたミレイユの父は、びくりと肩を振るわせる。
「まあ、感謝しているよ。おかげで彼女を誰にも盗られずに済んだ。彼女の本来の姿は、私だけのものになった。……そのはずだった」
カインは表情を曇らせていく。
「しかし、想定よりも早く彼女は感情を取り戻し、私以外の者たちにもあの美しい笑顔を向け始めた。……私だけのものだったのに、だ。だから……毒を飲ませた。ハーブティーに少しずつ混ぜて」
「まさか! 皇后陛下のことも殺したのですか!?」
「あんなに愛してらっしゃったのに!」
カインは誰の質問にも答えることなく、ただ話し続けた。
「倒れてからのミレイユは、完全に私だけのものになった。看病も世話も、全て私が行う。そうして、最期になんて言ったと思う?」
「なんと……おっしゃったのですか?」
「彼女はね、『私の心は、今も、これからも、ずっとあなたのものです』と……そう言ったんだ。これで望み通り、彼女は私だけのものになった」
その話を聞いた貴族たちは、「歪んでる」「悪魔だ」と口々に言った。
しばらくすると、誰かが呼んだ帝国兵がカインを議場から連れ出す。
その後、カインは自主的に自室にて謹慎し、貴族たちの話し合いの結果、前皇帝夫妻の殺害及びミレイユの殺害容疑で、帝国裁判にかけられることとなった。
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