第四章「エリア奪還戦」2
玉座から立ち上がった狂い尾はさらに大きく、身長二・五メートルを超える体格を有していた。
「待っていたぞマナブ。俺の中の牙と翼がお前を殺せと囁き、夜も眠れない」
「逆恨みはよせよ。悪いのはお前らだ」
「ぬかせ!」
狂い尾は高速でマナブに襲いかかった。
そのスピードに驚きつつも、その突進を左に回避したマナブだったが、凄まじい衝撃で吹き飛ばされた。
そして今度は横にいたチャールズに向きなおった狂い尾は、右腕を広げチャールズの首に叩きつけた。
「グフッ!」
チャールズの身体が宙を舞い、そのまま壁に叩きつけられ、前のめりに倒れて失神した。
「残念だったなマナブ。俺は牙や翼とは違う。喧嘩師として最高の完全体格を持って生まれたのだ」
(あのチャールズをいとも簡単に・・・)
狂い尾はマナブに向かって跳躍し、空を駆け出した。
その飛行能力は脚力が強化されたことにより、安定感とさらなる速度を持ち合わせていたのだ。
そして、それを見ていたマデリンは咄嗟に旗を掲げて動く。
素早い旗捌きによって、空中の狂い尾を生地の部分で絡め取った。
マナブもその機を逃さず、上空に向けて拳を突き出す。
「うおおぉッ、だだだだだだだだぁッ!」
マナブの連続した両拳突きが、布越しの狂い尾に襲いかかる。
「グワワッ!」
その連撃の衝撃は絡まっていた布さえも引き裂いて、狂い尾もその場で地に落ちた。
「クッ・・・小賢しい奴らだ」
狂い尾は立ち上がると、今度はマデリンに狙いを絞って動き出す。
そして、狂い尾が放つ強烈な前蹴りを、旗の竿の部分でどうにか受け止めたマデリンだったが、その衝撃で壁まで吹き飛ばされ、チャールズと同じように意識を失った。
「マデリンッ・・・!」
(人外じみたパワーとスピード、そしてタフネス・・・)
マナブはとある感覚を思い出していた。
頻繁に夢に見る恐怖。
父と共に山を降りていた時に遭遇した怪異。
村に伝わる<爬虫神>の放つ死のイメージを・・・。
そして、マナブは見た。
狂い尾の見せる竜の陰影を確かに見たのだ。
(俺自身、思い出さないようにしていた過去。こんな形で巡り合うとはな)
マナブの暮らしていた山と村は、その神の祟りによって壊滅していた。
そうマナブの父もその時のイメージによって、死に追い込まれたのだ。
「負けてたまるかッ!」
マナブは叫ぶことにより、そのイメージをかき消した。
そして、狂い尾もマナブから何かを感じ取っていた。
狂い尾自身、自分の存在が何者なのか、どうしてこんなチカラが備わっているのか知らなかったが、マナブに対して因縁のような<野生>の空気を感じていた。
その感情には恐怖も含まれている。
マナブに対しての恐怖だ。
マナブは身体の力を抜いて構えていた。
(奴への意識を切らすなよ)
父の言葉を思い出す。
意識を切らさない。
それこそがマナブの考えていた、狂い尾に対する打開策なのだ。
牙と翼と戦い、狂い尾と拳を交えたマナブは、虚の部分、つまり心の隙間が段階的に増えていることを確信していた。
そう、兄弟の死によって長所が増幅すると同時に、短所である心の隙間も増幅しているのだ。
そして、マナブが意識を集中すると、狂い尾の虚の部分がハッキリと見えてくる。
その虚は牙や翼と戦った時より色濃いものだった。
(これは・・・隙だらけじゃないか・・・)
マナブは思った。
さらに意識を集中すると、虚と虚が重複する部分が見えてきた。
それは二倍の虚だった。そしてこの時点で三人分の虚が重なる部分、つまり三倍の虚があることをマナブは看破した。
やがてマナブが動く。
その瞬間に狂い尾の右腕は破壊されていたのだが、狂い尾はしばらく気がついていなかった。
意識の外から来た攻撃を認識できないでいたのだ。
そして、次の一瞬で狂い尾の身体は床に倒れていた。
「なんだ・・・この感覚は・・・」
狂い尾はそう呟き、四肢を破壊されつつも、意識がまとまらない混乱の中で意識を失った。
マナブは狂い尾の捕獲に成功した。
マデリンとチャールズも無事のようで、すぐに意識を取り戻した。
その後、王を失い士気が下がった暴徒達を、城に手引きした兵と共に挟み討ちにして、マナブ達は完全に城を制圧した。
劣勢となった暴徒の中には逃げ惑う者もいたが、それらは日和見主義だった善良な民間人に捕らえられ殺されたり、別のエリアに逃げ去った。
火炎エリア(地名)に再び平和が訪れたのだ。
そして、この平和は長く続くと予想された。
なぜなら、聖王ドナルドの娘であるマデリンが悪党を討ち破り、火炎エリア(地名)王として正式に即位したからだ。
この儀式は盛大に行われた。
それによって善良な民間人達の、エリアや民族に対する想いが向上し、他のエリアを威圧した。
そして、捕らえられた狂い尾だが、地下牢に閉じ込めて、十名の番兵を一グループとし、隙間時間なく交代で監視させた。
一番の不安要素である、狂い尾は何としてでも死守しなければならないからだ。
しかし翌日、狂い尾は死んだ。




