第三章「スノウリィ・マウンテン・フラッグス」1
人物紹介
<武田マナブ>
善良な民間人の情報屋。猿人に対する情熱を胸に行動する。
<暴王ブルータル>
マナブの居た火炎エリア(地名)を統治していた王。猿人(金色)に敗北し、エリアを手放してリベンジを目論む。チャールズジムの一件からマナブの相棒となる。
<マデリン>
ブルータルの奴隷だった女性。猿人(父親)を追っているため、マナブやブルータルと目的は一致している。
<狂い牙>
敵の虚を突く天才であり、ブルータルの元部下。チャールズジムにてマナブに敗北し、家畜の餌となる。既に死んでいるが実は・・・
<猿人>
各地で暴徒を殲滅する謎の人物。善良な民間人から救世主として崇められている。
氷結エリア(地名)にて。
マナブ、ブルータル、マデリンの三人は、なんとか防寒着を用意して、雪山のふもとに辿り着いた。
標高差1000メートルほどらしく、山頂は刃のように鋭利に尖って見える。
そして、ふもとにも既に雪が降っており、足元には数センチメートルほど積もっていた。
「なんでアンタまで来てんのよ!」
マデリンはブルータルに向かって怒鳴った。
「お前の父親を一緒に探してやろうと言うのに、何を怒っているんだ?」
「黙りなさい!山頂に着いたら崖から突き落としてやる!」
「やれるものならやってみるがいい」
「まあまあ・・・」
マナブは二人をなだめ、山頂へと歩き出した。
しばらく進むと登山道の途中、地面に何かが転がっているのが見えた。
四つの赤い何かが雪に埋もれている。
積もった雪に赤い液体が染み出しているのだ。
横たわる人間と血液だ。
「アナタ達!しっかりしなさい!」
マデリンが急いで駆け寄り、倒れていた一人を抱え起こす。
「マデリン様・・・申し訳ございません・・・」
「何があったの!?」
「狂い翼という奇人・・・」
(・・・!?)
マナブとブルータルはその名前のようなフレーズに少し反応した。
「あれはもはや人間ではありません・・・お逃げください・・・」
「しっかりして!今手当てを・・・!」
男の身体の力がガクッと抜け、マデリンは絶命したのを理解した。
「行きましょう!旗を手に入れ、彼らの仇を討ちに!」
マデリンは気持ちを切り替え、先に進んで行った。
「そろそろ教えてくれないか?その旗が一体なんなのかを」
山頂に向かう途中、マナブはマデリンに問いかけた。
「いいわ・・・どのみち、もう頼れるのはアナタ達しかいない。その旗は<聖王の旗>よ」
「聖王の旗だと・・・!?」
ブルータルが食い付いた。
「ええ、それ自体が何か特別なチカラを持つわけではない。しかし、その旗は一定の権力者に対して信仰的な効力を持ち、従わせることができるの」
「旗を持つ者が実質的な世界の支配者になると言うわけだな」
「この混沌の時代に、そこまでの効果があるかは分からない。けれど、あの旗がなければこの世界を正すのは不可能だわ」
「確かにそうだろうな。だが、一つ不明な点がある。なんでお前があの旗の在り処を知っている?」
ブルータルがそう聞くとマデリンは足を止め二人の方に振り向いた。
「私が聖王ドナルドの娘だからよ」
「何ッ・・・!?」
ブルータルとマナブは驚き少し後ずさった。
聖王ドナルドは世界が崩壊する前に、この世のほとんどを統治していた人物であったが、その血縁関係については周知されていなかったのだ。
「お父様がなぜ姿を消したのか私には分からない。でも、この世界を正すのは王女である私の責務だわ」
「なかなか立派な王女様じゃないか」
ブルータルは素直に感心していた。
「それなら、なおさら手伝わなきゃならないね」
マナブはそう言うと、立ち止まっていたマデリンを通り越した。
「お出ましだな」
ブルータルは前方を見て言った。
「えッ・・・!?」
マデリンも二人が見ている方向に振り向く。
そこには、オーバーサイズのローブを纏った不気味な男が立っていた。
男は口を開いた。
「ふふッ・・・会いたかったぜマナブ」
「まさか、狂い牙なのか・・・?」
マナブは狂い牙によく似た姿に驚き聞いた。
「俺は狂い翼。俺達兄弟が不思議なチカラで繋がっていること。お前が牙を殺してくれたおかげで理解できたよ」
どうやら狂い翼は狂い牙の兄弟らしい。
「俺達兄弟のチカラが合わされば世界を支配できる言うのは本当だったのだな。おばあちゃん・・・」
「会ったこともないお前が、なぜ俺のことを知っている?」
「俺は牙の記憶とチカラを持っている。奴が死んだことによって俺達他の兄弟六人にそのチカラが宿ったのだよ。おばあちゃんの言っていたことは本当だったんだ」
「お前は何を言っているんだ?」
(コイツは狂い牙の記憶とチカラを持っているのか?他の兄弟六人と言うのは、全部で七人兄弟ということなのか?)
「ふふッ・・・俺以外の残り五人が死んでくれたらなあ・・・俺はおばあちゃんが言っていた幻獣になれるのになあ・・・」
狂い翼はそう言って自分に酔いしれていた。
目の前に居る狂人を危険だと判断したマナブは先に動く。
おおおッ!マナブがパンチのコンビネーションを仕掛けたアッ!
そして、狂い翼は見事な反射神経でそれをさばききる。
しかし、マナブの本当の狙いは別にあり、狂い翼の左手を掴んで飛び付いた。
これはアッ!神速の腕ひしぎ十字固めだアッ!
マナブは両足で狂い翼の左腕を挟み込む。
この早技には狂い翼もお手上げかと思われたその時。
狂い翼はマナブを持ち上げたまま、地面に叩きつけた。
「グワッ・・・!」
そのまま倒れ込むマナブ。
「二倍の狂気。二倍の腕力」
地面に叩きつけたマナブの拘束が解け、左腕を引き抜き、狂い翼はニヤリと笑う。
しかし、それを見て黙っているブルータルではなかった。
一気に距離を詰めて右手刀を引く。
〜暴王螺旋手〜
ブルータルの素早い突きが、狂い翼の顔面に到達しようとしていた。
だが、ブルータルの右手刀は空を切り、狂い翼の姿を完全に見失ってしまう。
「上よ!」
マデリンの声に、ブルータルが上を見上げると、跳躍していた狂い翼が放つ踵落としがブルータルの顔面に直撃し、地面に崩れ落ちた。
「そして二倍の身のこなしだあ」
狂い翼は華麗に着地しニヤリと笑った。
「どうやら旗の情報は本当らしいな」
狂い翼のその言葉に反応し、マデリンは駆け出し、狂い翼の制止をすり抜けていく。
「貴様ッ!待てッ!」
そう言うと狂い翼も同じ方に走り出した。




