第二章「トレーニングジム」2
チャールズジムは地下一階がフロントと道場のようになっており、地下二階にウエイトトレーニング用のマシンが設置されていた。
「マナブ君、君は足腰が元々強いようだから、短い時間で強くなるためには、上半身を重点的に鍛えるべきだろう」
スーツ姿の男であるチャールズは初めにそう言った。
ジムでのトレーニングは過酷を極めたが、マナブとブルータルは猿人に対する執念で、乗り越えていく。
一日のスケジュールは午前六時から午後四時までの時間、みっちり基礎筋力の強化と、格闘における基本動作の練習に費やされる。
そして、わずかに存在する自由時間でマナブは、ブルータルの指示の下、自身の切札と呼べる技を磨いていった。
そして、ジムでの生活も残り一週間を切ろうとする頃には、マナブの身体は見違えるように筋肥大していた。
「やはり俺の見込み違いではなかったようだな」
その日、自主トレを終えるとブルータルは、マナブにそう言った。
「なるほど、格闘技も奥が深いな。アンタたちが熱中するのも理解できるよ」
気がつけばマナブもトレーニングにのめり込んでいたのだ。
いよいよ明日は最終日だった。
明後日には地上に戻り、再び猿人の情報を探す旅が始まる。
マナブにとって、ようやくスタートラインに立ったと言えるだろう。
そして最終日。
フロントに集められた全員の前にチャールズが現れた。
「皆さんにはこれから、殺し合いをしてもらいます」
「・・・えッ!?」
門下生たちはつい驚きの声を漏らした。
チャールズは出口である門を指差す。
「この門から出られるのは一人だけです。その他の方々は一人の強者のための生贄&家畜の餌として、このジムの運営費になっていただきましょう」
そう、最初にチャールズが話した卒業者全員の強さが同等になると言うのは、一人しか残らないため本当だったのだ。
「ふざけんな!」
一人の男がそう言って、チャールズに飛びかかった。
しかし、チャールズは弩を懐から素早く取り出し、その男の眉間を射抜いた。
「ヒィッ・・・!」
「私と戦って死ぬことも選択肢の一つです。それでは頑張ってください」
チャールズはスタッフルームに去っていった。
「やはり、おかしなことになったな・・・」
ブルータルはつぶやいた。
マナブは周りを警戒した。
この状況下一人でも動く者が現れれば、一気に場が戦場と化すだろう。
マナブとブルータルは自然な動作で背中合わせになり、辺りを注意深く観察する。
「いいか?自分から動く意味はない。まずは生き残ることを考えろ・・・」
ブルータルはマナブにそう耳打ちした。
しばらくして一人の男が突然隣の男に襲いかかり、それを見ていた者も危険を感じて近くに居る者を攻撃し始めた。
やられる前にやる。
生き残るための鉄則だ。
そしてブルータルにも一人の男が襲いかかってきたが、ブルータルの素速い前蹴りがみぞおちに突き刺さり一瞬で昏倒した。
マナブの前にも一人の男が現れ殴りかかってきたが、マナブは冷静にその拳を前腕で逸らし、反撃の拳を顔面にお見舞いする。
男は倒れたがすぐに起き上がってくる。
マナブは殺す気で人を殴ったことがないため、少しだけ加減が生じてしまったのだと気づいた。
「生き残るためだ。勘弁してくれ」
マナブはそう言うと、立ち上がろうとする男の顔面を蹴り上げ、気絶させた。
そうこうしている間に、気がつくとフロントには四人しか居なくなっていた。
マナブ、ブルータル、そして髭面の巨人に、狂い牙と呼ばれるアサシン・・・
「やはり、こいつらが残ったか・・・」
ブルータルはつぶやいた。
相変わらず二人は背中合わせで構えていたが、ブルータルの前にには髭巨人が、マナブの前には狂い牙がにじり寄ってくる。
狂い牙の姿はオーバーサイズのローブを羽織っているため細身に見えるが、それがすぐに脂肪が削ぎ落とされた筋肉質な身体だとわかった。
「そいつに気をつけろ!まともにやれば俺でさえ勝てるかわからねえ!」
ブルータルは言った。
「クククッ・・・ブルータル。貴様は初めからマークしていた。どうやらその男と組んだようだな。だから俺はその髭男を仲間に引き入れたと言うわけだ」
狂い牙は奇妙な笑みを浮かべそう言った。
ブルータルは先手を打ち、髭巨人に襲い掛かって、殴る蹴るの応襲が始まった。
そしてマナブは狂い牙と睨み合い、攻撃の機会を伺っている。
狂い牙の戦闘スタイルについては、すでにブルータルから聞いており、マナブはそれを肝に銘じていた。
狂い牙とは、ブルータル軍の切札的な存在であり、敵の虚を突くことの天才で、意識の隙間を攻撃してくるらしい。
だからこそ、マナブは下手に攻撃を仕掛けず意識を集中して、狂い牙に相対しているのだ。
しかし、狂い牙は実は動揺していた。
素人かと思っていた若造が、これほどのチカラを携えて、ここに立っていることに驚いていた。
本来の敵なら既に20〜30ほど垣間見える、虚の部分がマナブからは未だ見えないでいるのだ。
それはマナブが極限まで肉体を追い込むことで、手に入れた精神力と集中力によるものだった。
そして、狂い牙は気がついていなかった。
狂い牙自身の動揺が、敵に虚を悟らせることになってしまったことに。
マナブは狂い牙の虚を垣間見て素早く動いた。
そう、それはマナブが切札として、99日間磨き続けた技だ。
マナブは狂い牙の左手を掴み、飛びついた。
<腕ひしぎ十字固め>だあッ!




