第七章「武器としての野生」ラスト
岩壁が砕け突き破られる音と共に、淡い緑の閃光が西の空に向かって走り、流星の様に落下した。
生命城の前に駐屯していたブルータルは、サトルが城に入ると、暇つぶしとして黒神鋭の軍団を蹴散らしていた。
ブルータルがその閃光に気づき、落下地点まで走ると、そこには倒れているアギトと、ちょうどそれを追って来た狂い鱗が居た。
「ふふ、ブルータル。またややこしい奴が来たな」
アギトはブルータルに気がつくとそう言った。
「今の閃光はサトルが放ったものか?」
ブルータルはアギトに聞いた。
「貴様!サトルの仲間か!?」
狂い鱗は怒りに震えて叫んだ。
すると遅れてサトルも到着した。
「サトル、かなり消耗しているな。ここは様子をみよう」
ブルータルはサトルを見るとそう言った。
「しかし、コイツらが殺し合うぞ?」
「良いのさ。させておけ」
ブルータルはサトルの心配も気にしていない様子だった。
アギトが立ち上がる前に、狂い鱗は飛びかかろうとしたが後ろから漂う殺気を感じ振り向いた。
そこには一人の女性が立っていた。
「出やがったな・・・」
ブルータルは呟いた。
「アギト!貴様!正々堂々戦うと言ったじゃ・・・」
狂い鱗が叫び終わる前に、アギトは立ち上がり、女性との挟み撃ちで狂い鱗を殺害した。
「勝てると思って油断したな。狂い鱗」
アギトは倒れている狂い鱗にそう言い捨てると、アギトと女性の肌に艶やかな鱗の陰影が浮かんでいた。
「ブルータル!この女はまさか!?」
サトルは叫んだ。
「この女はロウ。狂い兄弟の一人だ。そして、今残っている兄弟はすでにこの二人だけ」
ブルータルはアギトとロウを見つめていた。
「多少のアクシデントがあったが、ついに俺たちの目的は達成される!」
アギトが高らかに叫ぶと、ロウはアギトに近づいた。
「まさか・・・」
サトルは呟いた。
そして、アギトはロウの胸を右手で突き破り、心臓を鷲掴みにした。
「ブルータル!」
サトルは叫んだ。
「悪いなサトル。俺もこれを望んでいたんだよ」
ブルータルは笑みをこぼした。
暗雲が立ち込める。
アギトの身体が紫色に帯電し、体長4メートルまで巨大化した。
そして、決して実体を持たない像だった鋭い牙、力強い顎、宝石のような眼、宙を舞う翼、頑丈な鱗、逞しい尾は全て現実となって、アギトの身体に備わっていく。
アギトの姿は完全に幻獣に変わっていた。
「クククク・・・俺の天下だ・・・」
身体中に響く様な低い声が聞こえる。
おそらくこれがアギトの声なのだろう。
ここでブルータルは口を開いた。
「残念だが、お前如きの天下はないな」
「なんだと?」
「まるで井の中の蛙だ」
ブルータルがアギトを挑発する。
アギトはブルータルに突撃し、ブルータルは衝撃で呆気なく吹き飛ばされてしまった。
ブルータルの身体中がズタズタになり、瀕死になりながらもどうにか立ち上がると、続けざまにアギトはトドメの突進を浴びせにかかった。
そのどう考えても致命的な突進攻撃に、様子を見ていたサトルも目を背けたが、次の瞬間、予想に反する光景がそこにあった。
ブルータルはアギトの顔を両手で鷲掴みにして、どうにか受け止めていた。
ブルータルの身体が淡い緑色に発光している。
「見ろサトル!これが武器としての野生だ!うおおおおおお!」
ブルータルの身体が一瞬光を強めると、ブルータルがアギトの身体を持ち上げ地面に叩きつけた。
「グワワッ!」
アギトの叫び声が響く。
サトルの見たブルータルの姿は、野生を体現する大きな猿の気を纏っていた。
「サトル。人間の心に野生がある限り、竜が俺たちを支配することはない」
ブルータルがそう言い終えると、放っていた気は消失し膝から崩れ落ちた。
「トドメだブルータル!」
そう言ってアギトが覆い被さる様に、ブルータルに襲いかかる。
「うわあああああああ!」
叫び声と共に無数の淡い緑の光の弾が飛んできて、アギトの顔面にぶち当たり消えていく。
そう、サトルがガントレットから放った野生弾だ。
アギトはサトルの方にムクリと顔を向けると
「死にたいか小僧!」
と怒鳴った。
地面を揺るがす様な声と、見たこともない幻獣の姿に怯えながらも、サトルはガントレットから光の弾を乱射した。
「うらららららららッ!」
サトルは叫んだ。
まるで戦車の様な巨大な幻獣を、一人の人間の力で止めることができるはずもない。
この時のサトルの精神状態では、アギトの姿が山の様に大きな存在に見えていただろう。
アギトがノソノソと歩いて、サトルとの距離を詰めて、襲いかかろうとした。
(人間の心に野生がある限り、竜が俺たちを支配することはない)
ブルータルの言葉がサトルの脳にこだましていた。
アギトが大口を開けて、サトルを頭から食らいつこうとした瞬間。
大きな黒い塊が、アギトの巨体を一瞬で掻っ攫っていった。
「えッ!?」
サトルは思わず呟いた。
目の前で自分を食おうとしていた巨大な竜の姿が、一瞬にして消失していたのだ。
サトルは思わずブルータルの方を見た。
「やっと出やがったな。もう一人の怪物・・・」
ブルータルが膝をついて、一点を見つめている。
サトルもそこに視線を向けると、幻の様な光景があった。
巨大な体長4メートルの竜と、同じくらい大きな体長を持ち漆黒の毛に覆われた怪物が取っ組み合いをしている。
そう、その怪物とはまさに猿人だった。




