第六章「タイマン」ラスト
「アンタと一対一でやれるなんて光栄だな」
サトルもブルータルを迎え撃つため、構えながら距離を縮めていく。
厳密に言えば一対一などではない。なぜならこの闘いは乱闘の中の一部だからだ。しかし、サトルの集中力は辺りで戦う喧嘩師と暴徒、そして発生する騒音を意識の外に追いやった。
そしてそれはブルータルも同じである。
攻撃の射程距離まで近づくとブルータルは回し蹴りを放った。
サトルは顔面に迫り来るしなやかな蹴りが、突然巨大な野生の圧を放ったことに驚いた。
(これは・・・!?)
サトルの反応力であれば、どうにか躱わせそうな蹴りだったが、巨大な圧が実体を持つかのように機能し、サトルは吹き飛ばされる。
「グワッ・・・!」
サトルは受け身を取り、ブルータルの方に向き直ろうとしたが、ブルータルは追撃を加えるべく、すでにサトルの目の前にいた。
そして、ブルータルの右手には手刀が作られ、脇の下まで引き絞られている。
〜暴王螺旋手〜
突き出す手刀に大気が集まり、渦を巻く、そしてもちろん、野生の圧が発生し、サトルはわけもわからぬまま、飲み込まれていった。
〜暴王螺旋手・ワイルド〜
しかし、サトルの心臓を目掛けた手刀は、無意識にガントレットをはめた右腕に防がれていた。
サトルは空中で何回転もして地面に叩きつけられ、うつ伏せに倒れている。
「見たかサトル!これが野生のチカラだ!」
サトルはやっとの思いで立ち上がる。
(これが、野生・・・?)
ブルータルから感じられた巨大な圧とほのかに香る獣のような悪臭・・・
それは敵であっても憧れを抱くほど、清々しい野生だった。
(こいつに勝つには、あれをやるしかない・・・)
サトルは構えなかった。
むしろブルータルの攻撃を受け入れるくらいの姿勢をとっていた。
「な、なんだ・・・」
ブルータルはサトルに聞こえないくらいの声で言った。
しかし、ブルータルには野生を活かした荒々しい攻めをするしかない。
荒々しく握り締められた拳。
ブルータルは右腕を振りかぶり、投げるようにサトルへ放った。
大きな拳は大きな野生の圧を放ち、まるで地球に隕石が落下するかのような熱い衝撃が走った。
辺りの喧嘩師や暴徒もあまりの事態に驚いて、サトルたちの方を観ていた。
「うらあああああッ!暴王烈火拳!」
雄叫ぶブルータル。
しかし、衝突した拳が地面に叩きつけられると同時に、ブルータルはこめかみに鋭い痛みを感じた。
そう、暴王烈火拳はサトルの左前腕であっさりといなされ地に落ち、反撃の右フックがブルータルのこめかみに強く打ちつけられていたのだ。
ガントレットをはめた拳がブルータルの大きな身体を吹き飛ばす。
本来であればブルータルの攻撃がサトルを捉えていただろう。
しかし仮に、正確にどこに来るか分かっている攻撃であれば対処は可能である。
だが、サトルがブルータルの考えていることを正確に把握することなどできるはずがない。
ならばどうすれば良いか。
<防御の決め打ち>である。
つまり、サトルは左半面を防御に集中し、右半面を攻撃に集中したのだ。
あらかじめ、決めおくことで防御は一歩速くなる。
そのスピードがブルータルの圧倒的な攻撃力の防御を可能にした。
もし、自身の右半面に攻撃が来ていたらなす術もなくやられていただろう。
負ける可能性が低く見積もっても50%あるこの作戦を冷静に成功させられたのは、サトルの強靭な精神を持ち合わせていたからに違いない。
「強いな・・・」
数メートル先で仰向けに倒れているブルータルの声が聞こえる。
「その手甲、どこで手に入れた・・・?」
「ああ、これは母さんが優秀な学者を集めて作らせた破壊兵器らしい。でも、詳しいことは知らないんだ。って、え・・・」
サトルの右腕で、ガントレットが緑色の淡い光を放っていた。
「ふふ、食えない奴だ・・・それは野生のチカラを右手に集中させるものだろう。野生のチカラが少ない者でも竜に対抗できるように・・・」
ブルータルは闘いのダメージが回復したようで立ち上がった。
「面白い。お前にはチカラを貸す価値がありそうだ」
「仲間になりたいということか?」
サトルの問いにブルータルは鼻で笑った。
「ああそうだ。お前と共にアギトを倒すのも悪くないだろう」
ブルータルが周りを見渡すと辺りの暴徒たちは既に戦いを止めこちらに注目していた。
「これより!このブルータルはアギトに反旗を翻し、サトルの配下となる!異議のある者は去れ!また私についてくる者は歓迎しよう!しかしこの場でまだ戦いを続ける者がいれば私が直々に叩き伏せてくれる!」
ブルータルが怒鳴り声を上げると、暴徒たちの中で二分し多くの者は去っていった。
それほどにアギトの威厳は強かったということだろう。
しかし、あれだけの闘いを見せられて、まだ暴れ回る気力を持つ者もおらず、その場に残った千の暴徒と、生き残った二千の喧嘩師が現在のサトルの兵力となった。
「では、行こう。アギトを倒しに」
サトルは全員にそういうと、ブルータルと並び荒野を歩き出した。




