第六章「タイマン」2
サトルの言葉に辺りが静まり返る。
「ふふ、代表者のみによる戦争をしようと言うのか?」
「いや、この件は俺が勝手に言っているだけだ。俺が負けたからといって、火炎エリアをアンタに渡せるわけではない。ただ・・・」
サトルは挑発した口調を止めて真顔になった。
「負けたら俺の命をやろう」
「話にならん。エリアとガキ一人の命、釣り合いが取れるはずはあるまい。が・・・。喧嘩一筋でエリアを手にしたこの俺が、お前のようなガキに負けるようなことがあれば、今までのようにエリアを運営していくことはできないだろう。結局お前の言った通りになるわけだな」
「ふ・・・ありがとな。おっさん」
「喧嘩師であり勝負師であるこの俺が、ここまできて引き下がれんよ」
ピーカリがニヤリと笑う。
「さあ!楽しませてくれるか!」
ピーカリはサトルに向けて走り出した。
(一発貰っとくか・・・)
ピーカリの右フックが、サトルの腹に突き刺さる。
すると、靴と地面が擦れジャリジャリ音をたてながら、サトルの身体は十数センチ後退した。
「ぐ・・・」
拳を握り締め、ガニ股になりながらサトルは堪えたが、顔は笑っていた。
(頭に血が昇ってきたぜ!あとは闘いに没頭するだけだ)
衝撃と痛みによって、闘争本能を呼び覚ましていたのだ。
「今のをくらって立っていられとはな。どうやら、ただのお坊ちゃんじゃないらしい」
ピーカリもニヤリとして、再び拳を突き出すと、サトルの拳と衝突した。
ドゴォ・・・
そして、骨が打ち合う鈍い音がさらに二度三度・・・。そして、その音はだんだん加速していく。
その嵐のような拳の応襲に、周りの者は唸り声を上げた。
喧嘩師が行き着く先を見た気がしたからだ。
拳の速度に緩みを感じたサトルは右上段回し蹴りを放ち、ピーカリが両腕の前腕で防御する。
一時的に打ち合いは中断され、フェイントや位置取りによる牽制が始まった。
今までの闘いから、お互いのチカラがほぼ互角と判明した今、迂闊な攻めに転じることはできない。
そして、先に動いたのはサトルだった。
若さゆえ、辛抱の無さからのアクションだ。
「いったらあッ!」
右前蹴りから入るサトル。
しかし、ピーカリの反応力は達人の域に達しており、サトルの前蹴りを掴み取ろうとしていた。
だが、サトルの足技は変幻自在で、前蹴りから上段回し蹴りに変化する。
次の瞬間にその蹴りはピーカリのこめかみ辺りを捉えていた。
「ぐふッ・・・!」
ピーカリはその衝撃によろめく。
「惚れ惚れするような鮮やかな蹴りだな・・・」
ピーカリは素早く体制を立て直し、衝撃で切れた唇から伝ってきた血を拭った。
「これで俺も本気になれる。今の俺と本気で打ち合えるのは、かつて<暴王>と呼ばれた男だけだった」
ピーカリもサトルと同じように、痛みによって闘争本能を呼び覚ました。
ピーカリが地面を蹴る。
(速い・・・!)
ピーカリは一瞬でサトルとの間合いを詰めていた。
サトルは驚いたが、身体は敵意に反応し、考えるまでもなく瞬時に右ストレートを放っていた。
しかし、サトルを激痛が襲った。
「うおああああああ!」
突風のような広範囲の拳撃により、サトルの身体中に無数の打撃痕が浮かんでいたのだ。
〜暴徒鎮圧拳〜
十数メートル吹き飛んで、仰向けに転がるサトル。
「俺は無数の暴徒達をこの拳で葬った。そしてこの拳は奴らの害意に対して過敏に反応を示すまでに進化し、奴らを平らげても尚、飽き足らなくなってしまった。今なら全ての敵意が見える。つまり、後の先というやつだな」
ピーカリは倒れているサトルに勝利宣言をした。
「なるほど・・・そっちがそれを使うなら俺にも考えがある・・・」
サトルはそう囁きながら、ゆっくりと立ち上がった。
「もう勝負は決した。あとは俺の城でゆっくり休むがいい!」
ピーカリは立ち上がろうとしたサトルに向けてトドメの前蹴りを放った。
その瞬間、ピーカリの身体が一回転して、地面に叩きつけられる。
そして、倒れたピーカリの身体には無数の打撃痕が浮かんでいた。
「暴徒鎮圧拳!俺とアンタは無数の闘いの中で、同じ領域に辿り着いていたようだな」
サトルの勝利宣言は、おそらくピーカリに届いていなかった。
翌日、閃光城のラウンジでサトルとピーカリは、並んで茶をすすっていた。
「約束通りこのエリアを貰うが、本当に良いのかい?」
「ふふ、あれだけ一方的な闘いを見せられて、俺を含めて意を唱える者などいない」
「一方的ではないさ」
「謙遜するな。お前はまだ奥の手を見せておらんだろう?」
サトルは完全に全力ではなかった。
ピーカリにもエリアを手放すか否かの選択肢を与えるため、わずかに手心を加えていた。
「あいつらも馬鹿じゃない。お前の獣のような気を感じ取っていたさ」
「ふふ、じゃあ遠慮なくいただくぜ」
「お前の配下となって、この世界を跋扈するのも悪くないだろう。それで、これからどうする?」
ピーカリの質問にサトルは少し黙った。
「アンタ、猿人を知っているか?」
サトルは聞いた。
「ああ、当然だ。最近は話題にもならなくなったが、確実に暴徒と敵対している存在。各地での目撃情報から、複数人存在すると聞いているが」
「なら、竜人を知っているか・・・?」
サトルは声を小さくして聞いた。
「なんだそれは?ファンタジーか?」
「母さんから聞いた話だが、かつて俺たちの先祖と争って絶滅した種らしい。しかし、現代に生まれ変わり世界を乗っ取ろうとしている。元々七人いたが、現在は少なくとも四人以下になっているらしい」
「減ったのか?ならよかったじゃないか」
「ところが減っていくのが厄介なんだ。そいつらは仲間が死ぬたびに、その仲間のチカラを手に入れて強化される。そして、最後の一人になったら本物の竜人として完成されるんだ」
「なぜそんなことがわかる?」
「なってみなければわからない。だが、確かに母さんの言ったことだ。母さんはそいつらを見てきた。そして、そいつらと闘い、そいつらを研究してきた男が立てた仮説を母さんは信じている。だから、俺もそれを信じて行動するのさ」
「では、どうする?」
「力王アギトを倒す」




