第六章「タイマン」1
7つのエリアをそれぞれの王が統治し、頻繁に隣国同士が争い合う戦乱の中で、火炎エリア(地名)を統べる聖王マデリンの第一子である<サトル>が産まれた。
しかし、聖王マデリンは子育てどころではなかったため、部下であるチャールズにサトルを育てさせることにした。
チャールズは以前経営していた格闘技ジムを再開して、サトルにもついでに格闘技を叩き込んだ。
チャールズジムは聖王マデリンが作った法律によって、以前の様な過激な経営を行うことができなくなっていたが、それでも地獄のような厳しいトレーニングを門下生に強いていた。
そのためサトルはチャールズの影響をもろに受けて、ゴリゴリの戦闘狂に育った。
そして、サトルが14歳のある日、隣の同盟国である閃光エリアの王、喧嘩師ピーカリがチャールズジムの噂を聞きつけて、部下の喧嘩師を10人くらい引き連れてやって来た。
ピーカリはチャールズ以上のガタイを持ち、顔に無数の傷がある歴戦の勇士だ。
「ああ、これはこれはピーカリ様。ご無沙汰しております」
チャールズはピーカリに対して頭を下げた。
「あれがマデリン女王の一人息子かね?」
ピーカリは門下生の中にいる一人の少年を指差して言った。
「ええ、もう直ぐ休憩に入るのでこちらに呼びます」
サトルは気だるそうに金髪のツンツン頭を掻きながら稽古を終えると、手招きするチャールズに気がついて、ニコッと笑いすぐに駆け寄って来た。
「へえ、アンタがピーカリさんかい。まさに喧嘩師の模範のような姿だ」
サトルはピーカリを前に動じず、調子の良い口調で言った。
「サトル、トレーニング見させてもらったよ。君には見所があるな」
「ああ、どうも」
「早速だが、俺と手合わせしてみる気はないかな?」
ピーカリがそう提案すると、チャールズは驚いた。
なぜなら、世界1、2を争う伝説の喧嘩師と試合できる権利など、あのチャールズにすら与えられることはないからだ。
ピーカリはそれほどの才能をサトルから感じ取っているに違いなかった。
するとサトルは少し考えたそぶりをし、口を開く。
「いや、まだアンタには勝てないだろうね。またいつか俺から申し込むよ」
「ふふ、それでは楽しみにしておくよ」
ピーカリは厳つい顔に似合わない優しい笑みを曝け出すと、右手を挙げ、部下の喧嘩師達ともに去っていった。
サトルとチャールズは去っていくピーカリを見送ると、チャールズがサトルに聞いた。
「サトルおぼっちゃま。なぜピーカリの試合を受けなかったのですか?いつものアナタなら秒で受ける提案じゃありませんか」
チャールズはサトルほどの戦闘マニアを見たことがない。育て上げたチャールズでさえ、恐怖を覚えるほどだ。そんなサトルが喧嘩の申し込みを断るなど今までに一度もなかったのだ。
「ふふ、自分でも驚いているくらいさ。この俺が喧嘩師相手に恐怖を覚えるなんてね」
サトルは笑った。
「2年猶予を貰う。アイツを確実にぶちのめすためにな」
サトルはそう言うとジムの道場に戻っていった。
そして、2年後。
荒野に10人の喧嘩仲間を連れたサトルと、チャールズがいた。
「それじゃあ、行ってくる。母さんには言うなよ」
「サトルおぼっちゃま、どうか考え直してもらえませんか?アナタがやろうとしていることを実行すれば、国際問題に発展しかねません」
「それの何がいけないんだ?」
サトルは真顔でそう言った。
チャールズは後悔した。
サトルには格闘技術だけではなく、もっと一般常識を教えておくべきだったと。
「これは国の問題ではない。俺の問題だ。誰が何を宣おうが関係ない」
「ならばせめて、このチャールズも連れて行ってください」
「お前の顔はもう見飽きたよ」
サトルはそう言いながら、喧嘩師達と共に荒野の砂埃に紛れ消えていった。
サトルの向かう場所はもちろん、閃光エリア(地名)の喧嘩師ピーカリのもとである。
検問所に辿りついたサトルは、閃光エリア(地名)の番兵に、聖王マデリンの使者だと伝え、エリアへの侵入に成功した。
しかし、番兵も只事じゃない空気感を感じており、サトルが去った後、膝から崩れ落ちて失禁したという。
ピーカリの根城である閃光城の目の前に到着したサトルは怒鳴り声を上げた。
「歴戦の喧嘩師ピーカリ!遊びに来てやったぜ!出てこいよ!」
するとピーカリの部下の兵及び、喧嘩師がぞろぞろと集まってくる。
「おいガキ!無礼であろう!?」
兵の一人が怒鳴ったが、サトルにとっては雑魚なので無視した。
「約束を果たしに来たぞ!出てこい!」
サトルが再び怒鳴ると、城の中から顔に無数の傷がある男が現れた。
ピーカリだ。
ピーカリはサトル正面に立つと、口を開いた。
「ふふ、サトル。本当に喧嘩しに来たか」
「ああ、今の俺ならアンタに負ける気がしねえ」
サトルはツンツン頭を掻きながら言った。
サトルはさらに挑発した。
その理由は、お互いの身分関係なく闘えるよう、相手に遠慮させないためと、自分を奮い立たせるためだ。
「お前ら手を出すなよ」
ピーカリは殺気立っている自分の部下を抑制する。
「では、いくぞ」
ピーカリはサトルの意図を読み取り、嬉しそうに構えた。
サトルは手のひらをピーカリに向けて突き出した。
「その前にだ。俺がアンタを倒したら、俺がこのエリアを貰うぜ?」




