第五章「クレイジー・スクワッド」ラスト
翌日、疾風城の前に1人の男が立っていた。
城の高みにいたアイは、その男を睨みつける。
その男はオーバーサイズのローブを着ており、フードを被っているため、顔はよく見えないが笑っているのがわかった。
見た目では決して判断がつかないが、異彩を放つその空気感は、アイの脳裏に竜の姿を思い浮かばせた。
「アギト・・・!」
アイは思わず呟く。
力王アギト、又の名を<狂い顎>
狂い尾の死後、急に頭角を現した人物。
4倍のチカラを手に入れ、圧倒的な強者感を放ちながら、多くの暴徒等からの支持を得て、生命エリアと疾風エリアを強奪した。
アイはすぐに城から飛び降り、その男の目の前に立った。
そして、エリンとダンも異変に気がつき、城から出てくる。
アギトが口を開いた。
「アイ、会いたかったよ」
「貴様、一人か?」
「手下を減らされてはたまらんからな」
アギトはこれ以上、自分の領土で好き勝手されるわけにはいかなかった。
なぜなら、アギトの敵はアイだけではないからだ。
「俺たちは殺し合う価値がある。お前が勝てば俺の剛腕が手に入り、俺が勝てばお前の眼が手に入る」
「殺すつもりはない」
アイは鞘から剣を抜いて構えた。
「まあ良い。来い!」
アギトはそう言うと、アイは地面を蹴って跳躍し剣を振り下ろした。
ガキンッ!
激しい金属音と共に、剣が宙を舞う。
「俺たちは通常の4倍の骨密度を持っている。剣で斬れるわけがないだろう」
すかさず放ったアギトの拳が、アイの拳と激突する。
殴る蹴るの応襲だあッ!
アギトの放つ突きと蹴りを数回空打ちさせたアイは、脇腹、みぞおち、喉の3箇所に正確な拳をお見舞いする。
「グワワッ!」
アギトはその衝撃と痛みに飛び退いて、アイと距離を取る。
「やはり、その眼。俺たちにとって、かなり有利な代物のようだな・・・」
アギトは苦しみながら、わずかに前のめりに立っていた。
今の打ち合いでアイは、格闘戦においてアギトに圧勝できるほどの余裕があることを理解した。
「牙は俺達の共通の能力である<人間の虚を突く>チカラをを増幅させた。そして、その眼は俺達の共通の弱点である<自身の虚>を軽減することができる。つまり、まともに戦えば俺に勝ち目はない」
アギトは両手を広げた。
アギトがその状態で走り出すと、アギトの周りに巨大な竜の頭のような像が浮かびあがった。
縦横5メートルはある巨大な像が地面を削り取りながら、アイ目掛けて突進してくる。
〜竜顔拳〜
さすがのアイも、この強大な圧力を前に向かっていくことはできない。
側面に回り込むべく、アイは地面を蹴って左に飛び、尚且つ両腕を目の前でクロスして空中で防御姿勢をとった。
その気の波動をわずかに受けたアイは、20メートルほど吹き飛ばされたが、防御していたおかげでほとんど無傷だった。
アイはすぐに立ち上がり、アギトに向かって走り出した。
あの圧倒的なオーラが今はもう無い。
どうやら有限のようだ。
アギトもアイを迎え撃つべく構えた。
アギトの右剛腕から繰り出される拳をアイは左の前腕で軽くいなす。
アギトの攻撃は強烈だが、その分隙も大きく、アイの右ストレートの反撃をもろにくらい、数メートル吹き飛んだ。
アギトが立ち上がろうとすると、目の前にはすでにアイが見下ろしていた。
「止めだ」
アイは拳を引き絞る。
「グワアアアアアアアアアアア!」
突然後ろの方から断末魔の叫びが聞こえ、アイは慌てて振り返った。
「ダン!」
そこには血を流して倒れているダンと、血まみれのエリンの姿があった。
「エリン!何があった!?」
エリンはアイの問いに答えず、ただ不敵な笑みを浮かべていた。
「ククククク・・・」
目の前のアギトも静かに笑う。
「貴様!いったい何を!?」
「牙、翼、尾は死に。眼、鱗、顎は生きている。竜の伝説によると6つの部位しか書かれていないが、俺たちは元々7人兄弟だ・・・」
「・・・ッ!何が言いたい!?」
「つまり、顎には上顎と下顎があると言うことだ」
「まさか、エリン・・・お前は・・・?」
「残念だったな。その女は昨日の争いで既に死んでいる。そこにいるのは整形した下顎だ」
(まさか、争いに乗じて入れ替わったとでも言うのか・・・?)
「負けると分かっていて、1人で現れるわけがないだろう?」
背後から下顎がアイににじり寄ってくる。
「俺たちは二人で狂い顎だ。さあ、決着をつけようか」
前方には上顎が竜の気を放っており、背後の下顎も同じく竜の気を放っている。
そしてアイはこの強烈な挟撃を受けて、なす術もなく敗れさった。




