第五章「クレイジー・スクワッド」2
しかし、ダンの雄叫びのような挑発を無視して、海を観察している海巨人。
そう、海巨人の野生の感覚は、まだアイの気配を感じ取っているのだ。
海巨人が明後日の方向を見ていると、背後から激しい水飛沫が上がり、何かが高速で海から飛び出した。
「姉貴ッ!」
エリンの声が響き渡る。
海巨人は振り返る間もなく、アイの袈裟斬りを背中に受け、そこから勢いよく血が噴き出した。
「幻獣が。元の世界に帰るがいい」
アイがそう言って海巨人の方を見ていると、海巨人の背中がみるみる回復していってるのが分かった。
「凄まじい再生力だな。本土にはお前みたいなバケモノがまだいるのかい?」
アイは感心して海巨人に質問する。
「オマエ、テキ・・・」
海巨人は口を開いた。
アイ達は驚いた。バケモノかと思っていた海巨人が人間の言葉を使えることに。
それは海巨人が、かつて人間の社会と一定期間、接触していたことを意味する。
「我々は敵かもな。お前を見た瞬間、私の本能がそう告げていた」
アイは剣を上段に構え直して、海巨人ににじり寄る。
しかし、海巨人はアイに背を向けて、海に飛び込んだ。
海巨人は分が悪いとみて、撤退したようだった。
「姉貴!怪我は?」
ダン達がアイの下に近寄ってくる。
「ああ、心配ない」
(あれは人間だったのか?それとももっと別の生物なのだろうか?)
アイは少しだけそう考えて、航路の修正を仲間に促した。
こんな海のど真ん中にあのような生物が存在している。
まさかエラ呼吸しているわけではないだろうが、ちらりと見えた、手足の水掻きは水中に適応している証拠だった。
そして、わずかだが人間の言葉を使う。
知能が高い。元々人間と生活していたか、何かしらの原因で変化した人間の延長線上の生物のようだった。
身体中に毛が生えた猿のような生物。
人間であってもあの様な者は、世界中を探せばどこかに居てもおかしくはない。
それと、体毛で覆われていたが全裸だったため、倫理観というものは欠如しているようで、獲物を襲うという性質も野生味に溢れていた。
アイ達には考えても仕方がないことだったが、人と酷似した部分と相反する部分を持つ生物に、興味とちょっとした不安を感じながら、アイ達は本土に着いた。
そこには風化した港があった。
世界崩壊以前に使われていたもののようだが、自然災害や争いによって壊され、修繕する者がいないためボロボロの状態でそこに存在している。
それでも、ちょっとした船の様な何かが停泊しているのを見るに、使われてはいるようだった。
よく見ると暴徒の集団も見受けられる。
アイ達が船を港に着けると、暴徒5人の暴徒が近づいて来た。
「ここは疾風エリア(地名)だ!」
「力王アギト様の支配下だ!」
「この立派な船、お前たちはどこのエリアの者だ!?」
船を見上げながら暴徒たちが何やら別々に叫んでいる。
アイはすぐに飛び降り、それらを横に薙いだ。
アイはこのような輩に、容赦するつもりはない。
暴徒5人は思考の余地もなく、腹を裂かれ地面に倒れ込んだ。
やがて周辺の暴徒達が異変に気づいて、次々に集まってくる。
そして、アイは最も近づいて来た者から、順に斬り捨てていく。
さらに、エリンやダン、他の仲間達も船から降りて、臨戦体制に入る。
「一気に行くぞ。私に続け!」
アイの掛け声と共に、剣や弩を構えた仲間達も、集まる暴徒達にぶつかった。
港はあっという間に溢れかえる暴徒で埋め尽くされていく。
アイが周囲の暴徒を斬り伏せて、一呼吸すると同時に後ろを振り返ると、1人の仲間が暴徒の棍棒での一撃をくらい、地面に崩れ落ちるのが見えた。
そして、アイは再び前方に向き直って、暴徒達を切り進んで行く。
想定通りのこの惨状を噛み締めながら、その怒りをチカラに変えていく。
気がつくと、アイ達は百は居たであろう暴徒をあっという間に片付けてしまった。
仲間はアイを含め、6人にまで減ってしまったが、それでも残った方だと、全員が思っていただろう。
「やっぱりしんどいな」
ダンはつぶやいた。
「急ごう。今日中に疾風エリア(地名)を落とす」
アイは振り向いてそう言った。
ここは敵の領土。どこに居ても危険なこの状況では、休んでる暇はない。見つかれば、暴徒達が虫のように群がって来るだろう。
アイ達は狂ったように進軍した。
人間離れしたフィジカルに身を任せて突進するアイ。
そして、それに続いて死を覚悟した強者達が戦場を掻き乱す。
もちろん、仲間が死のうがお構い無し。
その狂気を恐れてか、戦う前に逃げ出す暴徒もいたほどだった。
その力強い覚悟の進軍により、疾風エリア(地名)が誇る最大の城に着いた。
途中、暴徒を捕らえ聞き出した話によるとここに、アギトは居ない。
アギトは北上した先にある生命エリア(地名)に、ふんぞり返っているらしいのだ。
しかし、この立派な城にも、それなりの身分の者が構えているに違いなかった。
しかも、ここまで生き残ったのは、アイ、エリン、ダンの3人だけになっている。
チカラの温存のため、ここを素通りし、生命エリア(地名)に攻め込むのも手だったが、決死の旅、せっかくならここを攻め、アギトの支配に楔を打ち込むことが正解に思えていた。




