第五章「クレイジー・スクワッド」1
この世界の土地はエリアという区画によって分割されており、生命エリア(地名)を中心として、閃光エリア、火炎エリア、氷結エリア、疾風エリア、流水エリア、暗黒エリアが円を描くように、それを囲んでいた。
世界崩壊後はそれぞれのエリアに王(暴徒、喧嘩師)が現れ、その場を支配した。
閃光エリアは喧嘩師ピーカリ、流水エリアは異王ブランド、暗黒エリアは搾王サイ、生命エリアと疾風エリアは力王アギト、氷結エリアは過酷な環境のためほぼ無人の状態で、火炎エリアは聖王マデリンが統治している。
これらはただの土地の名前であり、火炎エリアだからと言って、炎が燃え盛る土地というわけでは断じてない。
他のエリアに関しても同じで、名前などどうでも良いのだ。
そして、疾風エリアに属する孤島にて。
島の海岸で隻眼の女性が腕を組んで、海を眺めていた。
「良い風だな・・・」
その女性がそう呟くと、後ろから老婆がやってきた。
「感じるのか、アイ?奴らの存在を・・・」
老婆はそう女性に聞いた。
「まあね」
アイと呼ばれた女性はこう答えた。
「お前たち兄弟は、全員その日に生まれ、生まれた時から傷つけ合っていた。やがて幻獣の影に怯えた両親は自ら死に、お前たち兄弟の争いもエスカレートした。そして、ついにアギトはお前の宝石のような右眼を抉り取ったのだよ。親代わりだった私も手に負えないと思い、お前以外の兄弟を本土に向かって海に流した・・・」
「・・・」
「やっと歩けるようになった子供を小舟に乗せてな。普通なら死んでしまうだろう。私もそう願ったさ。でも生き残ると確信していた。それほどの生命力を感じ取っていたのだよ。恐ろしい・・・」
「・・・」
「アイ、奴らを殺してはいけないよ・・・」
「ああ、分かってる」
アイが答えると、老婆は去っていった。
その後、頭にバンダナを巻いた女性が、アイの所に駆け寄ってくる。
「姉貴、船の用意ができたぜ!早く来いよ!」
「ありがとう。エリン」
二人は船の停泊地まで歩いた。
その船は全長20メートルほどの海賊船のようなもので横幅もそれなりに広かった。
船の前には、角刈り頭の大男が立っている。
「姉貴、遅いぜ!」
「悪い、ダン。この島が名残惜しくてね」
アイは大男に軽く手を挙げ、船に乗り込んだ。
アイは乗員の点呼を取る。
乗員はアイ、エリン、ダンを含め10人で全部だった。
この10人は、本土から島への侵略を試みる暴徒を撃退するために、アイが集めた義勇軍で、元々はアイの不良仲間だった者たちだ。もちろん腕が立つ。
兄弟が力を付け始めた今、島に留まるのは危険と見て、アイが島を旅立とうと決めた時、名乗りをあげてくれたのだった。
「よし、みんな行くぞ!」
アイは剣で本土を指し大声を上げると、船がゆっくりと動き出す。
本土に着けば戦闘が始まり、まず10倍や100倍の戦力に包囲される。
アイ以外は虫のように死ぬだろう。
アイも他の者たちにそう言い聞かせて止めたのだが、全員が着いていくと言って聞かなかった。
そう、アイはそれほどの人望を持ち合わせていたのだ。
(アギトに再会したら私は奴を殺してしまうかもしれないな・・・)
自身の無いはずの部位である牙と翼と尾を感じながら、アイは本土を見つめた。
後ろを振り向けばもう島が見えなくなった頃、突然船が激しい衝撃と共に揺れ始めた。
「おい、いったいなんだ!?」
アイが叫んだ。
「お頭、あれを!」
仲間の1人が指を差し叫ぶ。
アイがその方向を見ると、右船端に毛むくじゃらの大きな人間の手が掛かっていた。
やがて船内によじ登って来たそれは、猿のような姿の体長3メートル位の巨人だった。
「なんなんだ、このバケモノは!?」
仲間の1人が驚き叫ぶ。
しかしアイは間髪入れずに、海巨人の横に跳躍すると携えていた剣で斬りつけた。
海巨人は野生の感か何かで攻撃を予測し、斬撃を右腕で防御する。
体毛で覆われたその腕は金属のように硬かったが、アイの剛力から繰り出される斬撃はそれを僅かに押し込んでいた。
しかし、海巨人は流血しつつも、アイに向かって左拳を突き出し、アイは飛び上がってそれをギリギリ回避した。
海巨人はアイに標的を絞り走り出すと、アイは叫んだ。
「お前らコイツに近づくんじゃないぞ!」
そして、海巨人は自分の髭を抜いて、アイに向かって投げつけた。
〜髭手裏剣〜
まとまった髭が矢の如く発射されたが、アイも持ち前の反応速度で身体を逸らし、それを回避する。
アイと海巨人の距離が僅かとなり、海巨人が掴みかかろうとした。
それを飛び上がって回避したアイの跳躍は、3メートルをゆうに超えて、海巨人の頭を踏み蹴ってさらに飛んだ。
しかし、海巨人は野生の感を働かせて、飛び去っていくアイの右足首を掴み、そのまま甲板に叩きつけた。
「グワッ・・・!」
そして、海巨人はアイを海に放り投げる。
「姉貴ィーッ!」
見守っていたエリンが叫んだ。
海の中に消えていくアイを確認したエリンは絶叫しながら、海巨人に向かって弩を放ち、他の8人も雄叫びと共に弩を乱射した。
「このバケモノがあああッ!」
エリンが雄叫びを上げ矢を撃ち尽くす。
しかし、海巨人の体毛と筋繊維は金剛の鎧に匹敵し、弩の矢が簡単に弾かれてしまう。
「こんな奴が海に潜んでるなんて聞いたことねえぞ!」
ダンは持っていた弩を投げ捨て、剣に持ち替えた。
「こいやあッ!」




