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Lesson01−03.5W1Hは確認しましたか?(1)

 

 望月さん家の真理ちゃんと言えば、双子の姉妹の、口が悪くて、やんちゃな方。というのが、地元じゃあ有名な話だった。

 自慢ではないが、私は姉のようなおおらかな性格じゃあないし、手足がでるのも早かったので(やむにやまれず、といったことも多々あったが)、地元の悪ガキどもから一目置かれたりしていたから、近所の奥様方の評価は、概ね、間違いではない。むしろ控えめなくらいだ。……全くもって嬉しくもなんともない話だが。


 しかし、ぱっと見、初対面の人間から私の印象を聞く限り、私の中身は、外見を裏切ってあまりあるらしかった。


 私は今も昔もさして背が高い方ではない。身体の肉付きもよい方ではなく、特に胸元に至っては涙なくしては語れない。肌のケア、髪のケアにどれほどお金をかけようと、それだけはどうにもならなかった。唯一の救いは、体重が平均を下回ることくらいだが、胸の肉の分だけ軽い、ということを思えば有り難みもなにもないという。

 と、話が逸れた。

 つまり重要なのは、成人を迎えても尚、私の貧相な身体つきは一見、私を、よく言えば、か弱く。悪く言えば、弱々しくなよなよしく見せるということである。


 だから、まあ、私が低く零した言葉でセス少年が浮かべた表情は、よく見る類いであったのだ。則ち、今の品のない言葉は果たして本当にこれが口にしたのか、という疑惑に満ちた眼差し。


 ……しかし、うっかり油断して人質に取られたくせに、頭の固いやつだな、きみ。


 眉根を寄せて(言葉自体は理解しているのだろう)、口許を若干引き攣らせ、セスくんは愚かしくも、私に問うた。


「今。何と言った?」

「ううん、別に。初対面でひとを『ちんくしゃ』呼ばわりする無礼な誘拐犯には、天罰でも落ちればいいのにこのくそガキとか、全然思ってないよー」


 にっこり、と笑う、これは姉の受け売りである。普段は滅多に怒らない彼女が怒り心頭に達したときの微笑みは、見るもの全てを凍えさせたものだが、さて、一卵性双生児の片割れたる私の笑みにも同じ効果が得られるものだろうか。

 いやほんと『ちんくしゃ』とか、ひとのコンプレックスをピンポイントで突いてくるような奴は、いっそ天罰的な不幸に見舞われればいい。

 例えばそう、いきなりバケツの水をひっくり返したみたいな雨に見舞われるとか、そんな感じの。

 彼の頭上でバケツをひっくり返す妄想で笑みを深めたと、ほぼ同時に、文字で表現するなら『ざばあっ!』という感じの音がした。


「そうそうこんな風、に……」


 ばこん、とマヌケな音を立てて、何故かバケツが絨毯の床に転がった。

 プラスチックで出来たバケツだった。どこのホームセンターにも置いていそうな、水色の。

 なんでバケツ?

 いや、それ以前に今。

 困惑も極みに達して、何度も瞬きながら見守る内に、まるで空気に溶けるようにバケツは消えていった。

 おかしな沈黙が、その場を支配した。

 セス少年も、青年も、言葉を発しない。

 私は悪くないはずだが(たぶん)、いくら私でも空気ぐらい読む。

 ざまあみろと声高々に言うには、些か、空気が重すぎた。


「…………えーと、ええと。……よっ、水も滴るいい男!」


 あっはっはと笑ってみるが、無音が耳に痛い。

 水を頭から被ったセス少年は、憑き物が落ちたみたいに、目を見開いて私を凝視している。

 髪や服がぐっしょり水気を吸って、濡れ鼠のごとくになっているのなんか、問題ではないみたいに。

 いやん、そんなに見つめられたら照れるじゃないか。

 もちろん空気を読める私は喉元まで出かかったそんな冗談を、つつましく飲み込んだ。

 青年が頭痛を堪えるように額に掌をやっている。

 私を見下ろす蒼は、私を『厄介もの』認定している気がした。

 こういう目を中高時代の担任や、隣の家に住んでいた幼馴染なんかがよくしていた。


 失礼な、私は何も悪くない(きっと)。


「セスラン・ウォーレン、警護の任を解き、退出を許可する。着替えたら、サイラスを呼び出せ。その後は自室で待機。……わかっているだろうが、このことは他言無用だ」


 低く唸るようにセス(セスランが本名らしい)少年に退出を促した彼は、じりじりと私ににじり寄ってくる。名を呼ばれ我に返ったらしいセスラン(濡れて滴る美少年)は、走っているわけでもないのにそれに近いスピードで――しかしそれでも流れるように優雅な動きで――部屋を辞した。

 パタンと扉が閉まる。逃走路はこれで消えた。なにせ、目の前には人が仁王立ちしているもので。


「ちょ、ちかいよちかいっ」


 相手は2メートルはいかないまでも、180より低いってことはまずないだろう、もしかしたら190近いかもしれないってくらいの長身の男である。対してこちらと言えば小柄な(数値で言えば約150センチ/四捨五入の力は偉大)女性である。


「暴走する前に、こちらの話を聞けと言ったはずだが」

 

 真上から覗き込むように見下ろされて、見上げるこちらは首が大変痛かった。し、怖かった。

 いやいや、待って、だーかーら。


「私は悪くないって! ……たぶん」

「たぶん、か。ならば、自覚は多少あるわけだな? 大いに結構だ」


 く。上からの目線(心身両方の意味で)がとてもむかつく。

 そりゃあ、まあ。

 脳裏で考えたそのままに、唐突に現れたバケツが宙でひっくり返って水をぶちまけば?

 流石に私は無関係だ!なんて、口が裂けても言えませんとも。

 あまりにタイミングが良すぎる。


「……ねぇ。あれってやっぱり私の所為、なのよね?」


 セスラン少年には自分の言動を猛省して頂きたいものだが、かと言って、わけのわからん超常現象をおこしたかったわけではない。大きな身体の向こうで高そうな絨毯が局所的に水浸しになっているのを目にすれば、あるかなしかの罪悪感がうずかないでもなかった。

 困ったな。

 後悔はしていないのだ。人質をとって動こうとしたことを含め。

 けれど、冷静な判断が下せていたかと言えば、それは違うとしか言えない。 

 自分では大分、冷静に行動したつもりだったのだけれど、想定外のことが起きたときにあれだけ混乱していたのだ、そんなことはとてもじゃないが言えない。

 そんなことを考えていた所為か、自然、いつの間にか、視線は足元に落ちていた。

 青年の声でそれに気付く。


「ああ。……だが、そうだな、」


 じっと考え込むように目を伏せた後、彼はすまなかったと言って、ようやく私から距離をとった。

 こちらがようやく落ち着いたのを察したのかもしれない。

 もう意地を張る理由もみつからなくて、ベッドに腰掛ける。思わず息を吐く。座って彼を見上げれば、ますます首がつらい。いいなあ。身長10センチくらい分けてくれないかな。

 羨望の眼差しに気付いたのか、彼は苦笑した。


「要因は貴女だが、責を負うべきはこちらだ。先ほど部下が大変失礼をした。申し訳ない」

「あははーうん、まあね」それは否定はしない。否定しないが私の方も大人気なかったという自覚はある。

「配慮も足らなかった。見知らぬ場所で一人目覚めて、不安にならない人間がそうそういるわけないのにな」


 反応に困って、言葉無く見上げていると、悪かった、と彼は私の足元に片膝をついて、目線を合わせて頭を下げた。


「俺も言い方を間違えた。こちらの話を聞けと言うより何より先に、貴女の話を聞くべきだった」


 再びこちらを捉えた蒼い双眸は、どこまでも真剣で、誠実だった。

 見つめられた相手が私以外の女のひとだったなら、この眼差しでころりとやられしまったかもしれない。だからやっぱり、私はこの青年は好きになれそうにないなと思った。それは初めて視線を交わしたときから、わかっていたことだった。

 

 例えば私がどんな理不尽な恨み言をぶつけても、彼は全て引き受けてしまうに違いない。

 そういう目を、彼はしていた。


「……貴方の名前は?」

「クロードだ。クロード・ランドウェル」

「そう。クロード、私は望月真理」

「モチヅキマリ?」

「真理が名前、望月は姓。マリでいい」

「わかった」


 そのまま今度は自分の番だ、と話始めてくれたらよかったのに、クロードはきまじめに「マリ」と私を呼んだ。


「貴女は何から知りたい?」

 

 おーけい、わかった。仕方ないから、今回だけは私の負けを認めてやろう。


 彼の誠実さに免じて、責任者を引き摺り出すのは、後回しだ。


   

 

 こんばんは!もしくは、おはようございます、こんにちは!

 

 こんな亀の歩みな物語にお付き合いいただきありがとうございます。読んでくださる方がいると思うだけで励みになります。


 というわけで、以下あとがき。

 ご覧頂いたように、またまた話がさっぱり進みませんでした。何故だ。魔術士の彼は名前だけでましたが、、、この調子だと次も難しいかもしれないです。

 自己紹介させるのに一話使うとか、ほんとにないよORZ

 あとセスランと真理ちゃんがよくも悪くも波長が合いすぎます。

 ……ほっとくと延々、皮肉の押収しそうでした、主に真理ちゃんが。

 よかったクロりんが我に返ってくれて……。彼が動いてくれないと、収拾がつきません。

 真理ちゃんがちょっと、落ちついたので(とりあえず自分が平静じゃないと気付いてくれたので)、次は、もうちょっと話が進むかも、しれません。予定は未定。


 


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