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Lesson01−02.言葉の壁はこえときましょう

 

「アリサ、何か飲み物を。料理長に言って簡単な食事ももらって来てくれ」


 ぺたりと膝をついて、部屋の絨毯に座りこんだ私の手からペーパーナイフを難なく奪ったあと、彼はもう一度襟首を掴んで運ぼうとしくさったので、慌てて睨んで威嚇する。

 私と彼を順に見比べ逡巡した少女は(どうやらアリサという名前のようだ)、表情が薄い青年を見上げ何か言いかけたけれど、結局は二、三の了解の言葉と共に頷いて、小走りに駆けて行った。

 次に青年が転じて目を向けたのは、立ち上がりはしたものの、いまだ喉の辺りに手をやって難しい顔をしている少年だ。


「セス、いつまでそうしている」

『……*****.*******,********』

「ああ。わかっているならそれでいい」

 

 セスと呼ばれた少年は、立ち上がり青年に向かって一礼し、部屋に入る際にじろりと私を睨んでいく。……うんまあ、仕方ないことではあるが。

 セスと青年の間にあるのは年齢序列の恭しさというよりは、上司部下といった雰囲気だ。案の定、彼は、処分はあとだと言い私に向き直る。

 彼は私を掴んでベッドに放り上げるのは諦めたらしく、私の腕を取って立ち上がらせ、そのベッドに腰をかけるように促してくる。

 セスも年の割りに先ほどの礼の仕方を見ると、一挙一動が洗礼されているように思えるが、この青年に至ってはその所作に無駄が無い。

 決して格式ばっているように思えないのに、かといって雑なわけではない。


 どっちも、いいとこのおぼっちゃまだな、と思わず鼻白んでしまったのは、苦学生の身分上、仕方ないやっかみと言えた。


 わかっている。

 ひっかかるべきはそこじゃない。

 そこじゃないのはわかっているが、ちょっと待ってくれ。

 先走った行動を取った自覚はあるが、出鼻をくじかれて、どうすべきか具体案が浮かばないのだ。

 出来ることなど、虚勢を張ることくらいだ。

 蒼い眼が部屋の中を一巡して、呆れ果てた色を宿して私を見下ろす。 

 私が意地を張って彼の前で、いまだ仁王立ちしている所為もあるかもしれないが。 


「……よくもまあ、人様の部屋をここまで荒らしたな」

「あのね! 起きて、見覚えのない部屋に閉じ込められたら、誰だってびっくりするっていうのよっ。ていうか、誘拐犯に使う気遣いなんてない! この人攫い、ちょっとそこに正座して説明しなさい!」


 指をつきつけ睨んだら、鼻であしらわれた。

 美人がやると様になるが、それ以上にむかっ腹である。


「悪いが、私には貴女が何を言っているのかわからない」

「はい?」なんだとぉ、さては言い逃れするつもりか。

「顔を見れば大体貴女の言いたいところはわかるが、そうじゃない」


 ちょいちょいと指先で呼ばれたセス少年は、私を遠巻きにしつつも、青年に近寄った。


『******?』


 首を傾げる、美少年。


「少しの間、喋っていろ。何でもいい」


 渋々とセス少年は私に相対して、口を開ける。


『*****.********』


 何でもいい、と言われても、テーマがなければ話しづらかったのだろう。セスはとつとつと私に語りかけてくる。

 やはり耳慣れない言葉で聞き取りにくい。青年の言葉はするっと頭の中に意味が入ってくるのに、これはどうしたこ手品だろう。

 当然、私は首を傾げる。

 セスも私と同じ角度で、首を傾げた。


『……***』


 自問するようにセスが眉根にしわを寄せる。

 ばさり。視界を白が埋めたのは、そのときだ。何も見えない。

 だから余計に耳に入る音が明瞭だった。


「隊長これはどういうことですか」

「どういうこと、とは?」


 声は二つ。

 耳に馴染む、言葉での会話。

 まるで私の母国語でなされているかのように、するすると意味が頭に入ってくる。

 光を通す布は暗闇へと私を誘いはしなかったが、わけがわからなかった。なんなんだこれは。混乱しつつもその布を引っ張るが、なかなかゴールは見えない。

 腹立ち紛れに、五度目でよやく視界は開けた。

 手の中には、白い布。よくよく見れば、それは、円と、ミミズの這ったような幾つもの線がうねうねと書き連ねられた趣味の悪いシーツだった。

 趣味が悪いと放って床に落ちたそれが、勝手に私の頭の上から襲い掛かってくるはずもない。

 犯人と思しき青年は、シーツから脱出した私に気付いたのだろう、ちょっとだけ片眉を上げて、それでも部下の言葉を促した。


「神語を喋れない。それはまだよしとしましょう。あれはこの世界でも辛うじて現存していると言っても過言ではない原始の言葉だ。だが、自分で意思疎通のための言語変換の陣を敷けるわけでもないのに、わざわざこちらで部屋に用意してやった陣は投げ捨てた挙句に、部屋は荒らして人質をとっての逃亡を図る――」


 すらすらと罪人の罪状を読み上げるようにセス少年は、言葉を紡ぐ。

 視線に気付いたのだろう、ぎろり、と睨まれた。

 ので睨み返してみた。ら、更に睨まれた。こちらから眼を逸らすのも癪だったので、そのままにらみ合いに突入。

 嫌われたもんである。仕方ないけど。私が彼でも、私を恨む。

 腹が立たないと言えばそれは嘘だが、なんせ年下の少年が言うことだ。目くじらを立てて怒ることではない。それよりも、セスの言葉で、ようやっと先ほど青年が言いたかったことが見えてきて、嘆息したい気分だった。

 私が使ったのは日本語だ。

 セスとアリサが話す言葉は日本語ではないから、先ほど私の言ったことは通じなかった。

 隊長と呼ばれた青年の話す言葉は私にも理解でき、日本語のようによく耳に馴染んだから勘違いしてしまった。セスとアリサ、二人とも会話を成立させていたせいもあるし、何より彼は最初、「ここはどこ」という私の言葉に応えたから。

 セスの言う『言語変換の陣』とは十中八九、手の中のこれのことだろう。

 それをわざわざひとの頭にのっけくさったということは。

 そこから導き出される青年の言う「何を言っているかわからない」という言葉の意味は、なんのことはない。即ちそのままの意味だった、というわけである。

 うむ。

 とりあえず、この陣がある以上、今度こそ私の言葉は伝わるはずだ。

 責任者だせ、ともう一度お願いするべきか、はたまた、この二人から情報を引き出すべきか、うーん悩むなあ。(それとも普通にヒスでも起こして、なんなのこれ!とか魔方陣指して騒いで見るとか、は、今更か……)とりあえず理屈は理解できずとも、用途と効用さえわかればいい。そんなことはいつだって暇なときに考えればいい話だ。

 なにはともあれお腹すいたかもーという私の心の声を聞いたのかどうかは知らないが、割と長かった睨み合いに終止符を打ったセス少年は、興味深げに私たちを見守っていた上司を、裏切られたとでも言わんばかりに見上げ、言い捨てた。


「ランドウェル隊長。あなたは本気でおっしゃるのですか。この魔法陣の式すら理解できない、このちんくしゃな小娘が、我らの『救世主』であるのだと」


 なにが魔方陣の式『すら』だ、てめぇらの知識が常識とか思ってんじゃないよ、この思い上がりが。とか。

 ふざけんな、『救世主』とかどういうつもりだ。つーか、こっちからお断りだこのやろう。とか。

 いろいろ思うところはあって挙げれば切りがないのだが、ひとまずそれはおいといて。


「誰が、ちんくしゃだってこのくそガキ」


 年上のレディへの礼儀は仕込むのが先だと思いました。

 

 駄文におつきあいくださってありがとうございます。

 亀の歩みではありますが、思い出したときにでもお付き合いいただけましたら、恐悦至極です。

 

 閑話休題。


 ところで話がなかなか本題に進みません。

 自己紹介すらしてないんだぜ。

 そして真理ちゃんは短気すぎます。

 うーん、まあ気が立ってはいるんですが、それにしたっておねえさんでしょう?って言いたい。(そんなわたしがお母さんなわけですが←)


 次のターンで、出来たら魔術士のひとを出したいのですが。

 うーん。爺さんズになるか若人になるかは、まだ決めていません。

 たぶん若い方になると思う、けど。



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