キノコ同盟
マイマイタケとエリエリンギ。
私たちの接点と言えば、「同じキノコ類のあだ名をつけられている」ということくらいだった。
友達からの話で彼女の存在は知っていたが、「ああ、同じキノコがいるのか」というくらいの印象でしかなく、実際、マイとは3年のクラス替えで初めて一緒になった。
長いまつ毛とくせのある髪。
マイには昭和のアイドルの様な面影あった。
騒がしい教室の隅にいた私に、マイは声をかけてきた。
「エリンギちゃん…だよね?私、皆からマイタケって呼ばれてるんだけど…」
「マイタケ…ああ、C組の!」
「そうそう」
「でもなんで私のこと分かったの?多分だけど話したこと無いよね」
「だって…」
マイは目をまん丸にしたまま、私の髪をじっと見つめた。
「ウチの学校で青く染めてるの、エリンギゃんだけなんだもん」
(ああ、そうか)
「青いの綺麗だなー。私も髪、染めて見ようかなあ」
マイは眉にかかった髪を指にくるくると巻きながら言った。
「止めときなよ、手入れ大変だし、髪傷んじゃうから。マイはそのままの方が可愛いよ」
私は思わずそう言ってしまい、やけに恥ずかしくなってマイから目を反らした。
一方のマイは相変わらず気の抜けた表情でこちらを見ていたが、頬を少し染めてニコリと微笑んだ。
私はその笑顔にあっという間に引き込まれていた。
マイは黙ったまま、おもむろにポケットに手を突っ込むと飴玉を3個取り出し、私に差し出した。
「貰って良いの?」
私が尋ねると、マイはコクリと頷いた。
それが、私たちの最初のやり取りだった。
◇
「あ、エリのレモンスカッシュ…もしかして、あの時の味覚えててくれたの?」
マイは空になったグラスの氷をストローで回しながら、意地悪そうな笑顔で言った。
「いや…ホントにたまたま」
「なーんだ。つまんないの」
そう言ってマイは口を尖らせたまま、ぷくーっと頬を膨らませた。
私はその姿を見ると同時に、マイのフグのように膨れたほっぺを両手で挟んだ。
ゆっくりと空気が抜けると、マイは満足そうな笑顔を見せた。
「これは覚えてたんだね」
「いや、覚えてたっていうか…」
私はじっと自分の手のひらを見つめた。
今はただ、彼女に触れた温もりが懐かしくて、それ以上言葉が繋がらなかった。