『シャトルラン』
練習も終わり、帰ろうとした時にレコーディングルームに籠っていた花咲先輩が出てきた。
「水瀬、仮完成したから帰る前に聴いて行ってくれ」
「ありがとう、龍太郎は曲作るの早いね」
水瀬先輩の言う通りだ、練習が始まったのは15時半過ぎだったから、2時間くらいで曲を作り上げたことになる。
「メロディーがあると作りやすいんだよ、今回のは単純だったし。ただ…」
「ただ?」
「これを実際にライブでやるとなると相当な技術ないと無理だぞ」
「またか…」
横で話を聞いていた大山先輩がそう言った。
「まぁ前回も何とかなったし、今回のもいけるでしょ」
曲を生み出した張本人は他人事のようにリュックを整理する
「スピーカーで音源流して、それを歌うからちょっと聴いて欲しい。それでもっと複雑にするか簡単にするか決める」
「分かった」
大山先輩が頷いた
ドラムのカウントの後で、ピアノのメロディーがゆっくりとイントロを奏でていく。
すると突然テンポが変わり、先程までのイントロとは違った雰囲気の曲へと変わっていく
「走る横顔を見ていると感じる…情熱に溢れたその笑顔に…」
最初はドレミファソラシドが反復したメロディーだったが、花咲先輩の歌うメロディーラインはどんどん複雑になっていく
「汗を流して少し笑ったキミ、息苦しくて声が出なくても…」
一体何の曲なのだろうか、検討も付かなかったがサビに入るとその答えが浮かび上がってきた。
「いつまでも続く嫌いなメロディーでも、乗り続ける君に憧れて…」
中学3年間、嫌になる程聞き続けたシャトルランのメロディーだ。
「少し立ち上がって叫ぶ『ガンバレ!』…」
水瀬先輩はシャトルランの嫌な音を応援ソングに結びつけたのだろうか。
歌詞には2人の男女が互いを応援する様子が写されていた。
僕の思いつくような世界観とは全く違う場所に彼は生きているんだなと感じた。
「確かに難しそうだね…」
「後でグループチャットにスコアは貼っとくからそれに一旦目を通しといて欲しい」
「じゃぁ新入生の3人もチャットに招待しとくから後で連絡先教えてね」
先輩はそう言った後に、思い出したように口を開いた
「水瀬君、これってシャトルラン?」
大山先輩が聞く
「そうだよ。今日の体育の時間に思いついたんだけど、曲にしようと思ったの忘れてて、さっき思い出した。」
自己紹介の時は無口だった水瀬先輩が、曲のことになるととても熱く語っているのを見て、音楽に対する情熱を感じた。
「そう言えば大山と水瀬は何回だったんだ?俺は78回」
「僕は56だった」
花咲先輩の質問に大山先輩が答えている所を見て水瀬先輩はぽかんとして言った。
「毎年体育は見学してるからゼロだけど」
「そうだったわ、水瀬全授業サボってるんだったな」
「バスケットボールの時はやるけど」
「そんなんで成績大丈夫なのか…?」
「知らない」
またしても他人事のようにそう言い、リュックサックを背負って部室から出て行った。
時計の針は、最終下校時刻の10分前を指していた。
初めまして、九条です。
今回登場した『シャトルラン』と言う曲と、前々回登場した『世紀末に生きる僕ら』の歌詞は、作詞集と言う作品の中に入っているので、フルで見てみたい方は是非そちらもチェックしてみてください。




