入部
体験入部も終わり、いよいよ軽音学部の部員として活動を始める事になった。
「早速で申し訳ないんだけど、ギターが3人も来ると思ってなくて…ギター枠が一枠しかないんだよね…」
大山先輩が申し訳なさそうに言う。
正直覚悟はしていた事だったので驚きはしなかったが、焦りは最高潮に達していた。
「だから、正規メンバーとして1人入ってもらって、残り2人はサポートメンバーとして活動してもらうんだけど…大丈夫かな…?」
「それはどう言う風に決めるんですか?」
同じ学年の風間君が聞いた。
「今からオーディションって形で3人に何か弾いてもらいたいな」
そう言うと、ずっと黙っていた横山君が小さく口を開く
「聞いてねぇって…」
「そうだよね、本当にごめんね、でも設備の問題もあってー」
大山先輩がそう言った時、奥から声が聞こえた
「敬語。」
水瀬先輩だった。
「え?」
「敬語、使ってくれるかな。先輩後輩の関係は分かっておきなよ」
水瀬先輩が冷たくそう言う。
「水瀬君!僕は大丈夫だから!」
「ほっとくとめんどくさい事になる」
「だからって、そんな言い方ないでしょ」
「夏向はもっとそう言う所敏感になった方が良いと思う」
「ほんとに無愛想なんだから…」
どうやら水瀬先輩は上下関係に厳しいらしい。
当たり前と言えば当たり前なのだが、大山先輩と花咲先輩があまりにもフレンドリーだったので、少し気が抜けていたようだった。
「すいません、気を付けます…」
横山君はそう言うと後ろを向いて練習し始めた。
「じゃぁ、行ける人から弾いて欲しいな!」
そう言われて真っ先に手を挙げたのは風間君だった
「行けます!やらせてください!」
「それじゃぁよろしく」
風間君が演奏したのは最近流行りのバンドの曲だった。
一度だけ聴いた事があるが、あまり好みではなかったので突き放していた曲だ。
演奏が終わると、部室に小さな拍手が響いた。
7人しかいない部室で一番最初に弾くのはプレッシャーが凄かっただろうと思う。
次は練習をしていた横山君が手を挙げた。
こう言う時に勇気を出せれば良いのになと毎回思っているような気がする。
風間君と横山君の演奏も終わり、いよいよ僕の番がやってきた。
緊張でピックも落としてしまいそうだが、何とか先輩たちの前へと立った。
自己紹介の時に何か弾くだろうと思って練習してきた曲がある。
それをここで見せるしかない。
「一応、コーラスとかも出来るかなと思うので、1番のサビまで弾き語りします」
「いいね!よろしく!」
大山先輩にそう言われ、息を深く吸った。
「そうさ僕らは、世紀末に生きている、世紀末で死んでいる…」
選んだ曲は、櫻崎高校の伝説と呼ばれたバンド「ソフィア」のデビュー曲だ。
僕はこの曲が無ければ、今こうして歌っている事もなかっただろう。
その気持ちを込めて歌った。
「こんな現状維持した結果は、すぐそこに見えているんだろう…」
歌い終えると、3人の歌を無言で聴いていた水瀬先輩が口を開いた。
「君、上手いね」
「ありがとうございます」
「青海君だっけ、よろしくね」
「よろしくお願いします!」
水瀬先輩は、少し表情を緩めた
「水瀬に好かれると厄介だぞ〜」
花咲先輩がいたずらっぽくそう言う。
「人聞き悪い事言わないで」
ピリついていた空気が少しは和らいだ気がした。
「それじゃぁ、設備が整うまでは青海君にギターお願いするね、2人は僕が色々教えるから明日からも来てね」
あまりにも流れるように話が進んだので驚いていると、職員室に資料を取りに行っていた新橋先生が帰ってきた。
「それじゃ、部活始めるぞ」