優しさに
「青海君これあげる」
水瀬先輩がペットボトルのキャップを開けながら言う
「ありがとうございます」
キャップが緩んだボトルを見るとスポーツドリンクだった
「脱水気を付けて」
少し飲むといつもよりしょっぱく感じた。
水瀬先輩は一度カバンの方へと向かって何かを取り出し戻ってくる
また僕の隣に座り、それを机の上に置くとメモ帳だった。
1ページずつ捲っていき、とあるページでそれを止める。
「この詩見て」
タイトルは太い字で『ルミネ』と書かれていた。
少しずつ読み進めていくと、どこかで聞いたことのある文章のような気がした。
いつだろう、確かに聞いた詩だった。
『僕の知らなかった世界にある日突然現れた光、暗すぎた僕の幻想に優しく明かりを灯してくれた』
その後も暗い存在だった主人公に「光」が差していくような、そんな詩だった。
「綺麗な詩ですね」
「青海君は、自分で自分を追い込み過ぎなんじゃないかな」
「そうですかね...」
「ちょっとくらいは頼ってくれて良いよ、僕だって一応先輩なんだから」
水瀬先輩は僕の背中を優しくさすりながら言った
自然と何かがこみ上げてくる気がする。
ずっと優しさに触れてこなかった僕の心が一気に溶けていく気がした。
「辛いことがあったら相談して、なんでも聞くから」
「ありがとうございます...」
力の無い声で返事をした
「もうすぐ風間君もレコーディング終わるから、息整えたら行ってきて」
そうして水瀬先輩は大山先輩に何かを耳打ちした後、財布を持ってスタジオを出て行った
レコーディングルームの方へ目を向けると、風間君は楽しそうにギターを弾いていた。
僕もあんな風に楽しめたらな
そんな事を思いつつ、ギターのエフェクターを少し調節する。
一番いい音で弾けるようにつまみを調節して求めている音に近付けていく。
この作業はなんとなく好きだ、理想に形を合わせていくような事が好きなのかもしれない
録音を終えた大山先輩は、奥の方で花咲先輩とセッションをして遊んでいてその音が少しだけ聞こえてくる。
しばらくして、風間君がレコーディングルームから出てきた
「青海君、水瀬先輩は?」
「さっき財布持ってどっか行ってたよ」
「そうなんだ」
少しだけそんな会話をして、レコーディングルームへと入る。
事前に先輩たちから機材の使い方は教わっていたので、言われた通りにセットする。
ヘッドホンを付けて花咲先輩のPCのスペースキーを押すとクリック音と共に1曲目のイントロが流れ始めた。
この曲の最後の楽器を、僕が入れるんだ。




