青海君の歌詞
「そう言えばこの曲っていつもと雰囲気全然違いますね」
『ザクロのように』のスコアを見ながら水瀬先輩に言う
「今僕が書いてる小説の世界観を元に作ったんだ」
「小説書いてるんですか?」
「うん、ネットのサイトに投稿してる」
時々水瀬先輩が部活の休憩時間でノートに何かを書いていたのはそれなのだろうか
先輩は続けて言った
「連載終わったら読む?まだ未完成だから読んでも面白く無いと思う」
「是非!読ませてください!」
「じゃあ、またサイトのURL送るね」
そう言って先輩はまたシンセサイザーを弾き始めた
優しいピアノから流れてくるのは90年代末期に流行ったバンドの曲で、昔CDショップで適当にCDを買い漁っていた時に出会った曲の1つだ。
「これ先輩も好きなんですか?」
「知ってるの?ディルアングレイ」
「はい、何年か前に聴きました」
「僕も何年か前にテレビで見てCD買ったんだ」
水瀬先輩がヴィジュアル系のバンドが好きなのは意外だった
どちらかと言えばJ-popの曲を聴いているイメージだったので、先輩の守備範囲の広さに驚いていると花咲先輩が録音を終えて部屋から出てきた
「次誰が録音するんだ?」
「はーい」
大山先輩がいつものベースとは違う少し大きなベースを肩に掛けながら録音しに向かう
「彼方が6弦ベース使うの珍しいね」
「龍太郎君に言われたから持ってきたんだ」
クロスで弦を拭きながら大山先輩は答える
そんな会話を聴きながらリュックに手を入れると、仕舞っていたノートが出てきた
昨日の夜、少し前に風間君と約束してしまった歌詞を見せるために考えていた書きかけの文章が目に入ってくる
『今日の夜はなんだか、楽しい気分で終われそう
朝の光浴びる時に、わだかまりが無いように』
なんだか違うように感じてその歌詞を消した後に新しく言葉を書いてみた
『ロック、ポップ、ブギー何でもいい、好きな音楽を奏でて
恥ずかしがらなくていいから、僕と手を合わせて
ジャズ、ソウル、R&B 知らない曲でもいい、新しい出会いを見つけ
この夜を最高に楽しく、君と過ごしたい』
変な暗さは無くして出来る限り明るくしたその詩の子供をリュックに放り投げ、また僕は練習を再開した
録音の順番はまだまだ先だ、それまでに完璧に弾けるように頑張ろうと決意した僕は
ピックで音を奏でながら歌詞の続きを考えてみた
僕にはまだまだ早いかもしれないけれど、未来はなんだかすぐそばにあるような気がした。
あのノートがすべて歌詞で埋まる未来も。




