不安な部活
ハッキリ言って不安だった
この軽音部のキーボードの人は何を考えているのかよく分からない雰囲気だし、ドラムの人はいかにもチャラ男、人柄が分かりやすそうなのはベース担当の2年生だけだった。
入部届を出したは良いものの、部活に来ているのは見た感じ僕含め3人だけ、しかも全員がギターと言う最悪なコンディションだった。
部室の鍵が開くのを待ちながら、ただ一人近くの階段でギターを吹いていた。
「ごめんごめん!体験の子だよね!」
後ろから突然声を掛けられ振り向くと、そこに立っていたのはベースの2年生と顧問の新橋先生だった。
「大丈夫です…来たばっかりだったんで…」
「なら良かった!今鍵開けるからちょっと待ってて!」
そう言うと彼は部室の鍵を開けた。
部室に入ると、床にはスコアが散乱していた。
「散らかっててごめんね〜…水瀬君が片付け苦手だから…」
「水瀬さんって言うのは?」
僕がそう聞くと、彼は目を輝かせて言った
「こないだの部活紹介の時にキーボード弾いてた人!無愛想だけど腕は良いんだよね〜」
「あぁ、あの人ですか」
「そう!同い年だけど本当に尊敬するし、新橋先生とセッションしてる所とかすごいカッコいいよ!」
「新橋先生はどの楽器を担当されてるんですか?」
「ま、その辺は後で話すからまず自己紹介をしてくれるかな?」
新橋先生は困ったように彼に伝えた
「ほんとだ、忘れてました!」
彼がそう言うと同時に部室の扉が再度開いた
「すいません!遅れました!」
「すいませーん…」
ドラム担当の人とついさっき話を聞いた水瀬先輩が入ってきた
「水瀬、部長なら部室くらい自分で開けなさい」
「スコア探してました」
「どうせ床だろ、自己紹介が終わったら探しときなさい」
「はーい」
「この会話も何回目だよ…」
呆れたようにドラムの人が言う。
「そろそろ自己紹介始めないとね」
ベースの彼が切り出し、初の部活が始まった。
「まず僕の名前は大山夏向、担当はベースです!」
そう言うと大山先輩はベースでワンフレーズ弾いて見せた
少しの拍手が止み、二人目が話す
「花咲龍太郎です、担当はドラムやってます。あと作曲も俺がやってます、こないだの部活紹介の時の曲も作りました」
完全にチャラ男だと思っていたので、あのような繊細な曲を作れるなんて意外だなと思った。
そして問題は最後の一人だ。
「水瀬です、シンセとキーボード、メインボーカルで作詞してます」
「水瀬君、短いよ…」
大山先輩が少し笑いながら言った。
短かったが、内容は中々濃かった。おそらく部活紹介で歌われていた曲の作詞も彼なのだろう。
本当に意外な人達と言うか、見かけによらないなとただただ思った。
「それじゃ次はみんなに自己紹介してもらおうかな!一番左の子からよろしく!」
一番左に立っていた同級生が口を開いた
「えー風間圭です、ギターやろうと思ってます」
「横山、ギターいなかったんでギターしたいなと思ってきました」
2人が喋り、順番が回ってきた
「青海翔斗です、中学3年間ギターやってました、まだまだ出来る事も少ないですが、全力でやり切ります」
「風間君、横山君、青海君、よろしくね〜」
「まさか全員ギターで来るとはな、まぁ喧嘩だけしないよーに」
そんなことを話していると、奥から新橋先生の声が聞こえた
「水瀬、見つかったか?」
「ん…家かもしれないです」
「どうせそうだろうと思って印刷しといたから使いなさい」
「ありがとうございます」
「次はもう刷らないからな」
「はい」
「水瀬君はキーボードもシンセも上手いから、実際に聴いて欲しいな〜」
「すごく楽しみです」
そうして僕の部活は始まった。青春が始まるのと全く同じタイミングに。