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弔いの旅路  作者: クジラ
ミミゼラブル後編 その剣を手にする者
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ディエゴへの疑念 愛らしいククポ 再び

 ディエゴが起案の『遠征』これは、その先々での訓練中に、参加者の中で噂されたものを、いくつか抜粋したものだ。


 参加者。番号158

“おい、ここって確か例の変死体が出たって場所だよな。ほら、3カ月前のやつ”


 参加者。番号152

“ああ、知人がここでひとり亡くなってるから間違いねぇ。ディエゴ様……いったいなにを考えて、こんな場所を遠征先に選んだんだろうな。怖くて夜も眠れねぇよ”


 参加者。番号170

“確か、ディエゴ様やエルフ様方々でも原因がわからないってやつだろ? 巷じゃエルフ様に疑いの目を向けたくないからか、変わった自殺方法が横行してるなんて流布されてるけど。普通に考えてそんな話、ありえねぇよな”


 参加者。番号178

“死神だよ死神! 死神が命を吸い取って行くんだ! 野道で見たって奴の話を聞いたことがあるぜ! なんでも、そこには夜の闇よりさらに黒い『なにか』がうごめいていたって……”


 参加者。番号23

“なぁ、気づいてるか? 遠征先で行くところ行くところ、例の事件が起きてる場所だってことを。まさかディエゴ様、俺たちを使って事件の調査をしてるんじゃないだろうな”


 参加者。番号8

“調査? そんな生易しいもんじゃねぇだろ。どう見てもこれは人体実験だよ。俺たちの誰かが死ぬのを今か今かと待ってるんだ。人間のことなんて何とも思っちゃいないディエゴ様のことだから。まぁ、そのおかげで裏の家業がやりやすい利点もあるんだけど。おっと、今の話は誰にも言うなよ。死神より先にエルフ信者に殺されちまう”


 話をまとめると、どうやら俺たちが連れ回されている場所は、過去にミュウルたちが言っていた、変死体とやらが見つかった、その現場らしい。


 最初の頃は、たまたまだとディエゴを庇う者もいたが、偶然も何度も続けば必然となる。


 『ディエゴ様は俺たちをエサに死神をおびき出そうとしている』これは、今やミミゼラブルの参加者の中で共通認識となっていた。


 まぁその〜……否定してあげたかったんだけど……あの性格の悪さなら……なくはないと思ってしまった自分がいた……。


 ディエゴは訓練中など、たま〜に話しかけに来てくれるんだが、どうもそれ自体が彼をよく知る者からすれば異常なことらしく、普段は公務がなければ自分の世界に入り浸るエルフだという。


 遠征が始まって2ヶ月が過ぎようとしている今でも、エスタ教官、スタッドさん、とそこに混じってなぜか俺、が名を呼ばれることのある人物で、それ以外は『君』で統一されていた。


 仕事柄繋がりが深いスタッドさんでさえ、覚えてもらうのに5年かかったらしく、既に名と顔を覚えられている俺に対し、腰を抜かさんばかりの驚愕っぷりで顔を引きつらせていたのを思い出す。


 要はそれほどまでに、人に対し無関心を貫いてきたエルフなんだろう。


『あのディエゴ様なら考えかねない』


 妙な疑念がはびこるのも、疑いの目を晴らす判断材料が全くないせいだ。まぁ、俺が気に病むことじゃないが、疑念を信じ切ってミミゼラブルから逃げ出す者が続出しているのは、少し気が落ち着かなかった。


 俺はみんなで完走したいんだよ。切磋琢磨したい。8ヶ月も一緒にいりゃ、そりゃ愛着のひとつも生まれる。


 『ディエゴ様に名を覚えられている羨ましい奴』として模擬戦で真っ先にボコボコにされ、憎たらしそうに睨みつけられることもあるが、それでも苦楽を共にした戦友だ。仲間がいなくなるのは、純粋に寂しい気持ちになる。


 マク163番 モッコ141番 ガウ41番 スタッドさん24番 俺125番が、今の俺たちの立ち位置。


 遠征で頻度が増してしまった模擬戦のせいで、マク、モッコ、俺は順位が著しく下がってしまっている。得意の長駆が模擬戦を重視する遠征で、評価されにくくなったのも順位を落とした原因のひとつだろう。


 逆にガウとスタッドさんは順位を伸ばす結果となった。


 ガウは相変わらず器用になんでもこなす。スタッドさんは、なにかディエゴと会ってから、人が変わったように好成績を残すようになり、今じゃ上位層に食い込むほどだった。元護衛対象の目があるからなのか、なんにせよ、スタッドさんはディエゴというエルフに特別な感情を抱いてそうだ。


「ククッポ!! ククッポ!!」

「うぐぐ、はっ、羽が、鼻に当たってくすぐったい……」

「あはは! ナイトのククポは相変わらず甘えたがりですね〜!」


 日々順位が下がるうだつの上がらない毎日、でもこの時ばかりは気分が落ち着く。顔面いっぱいで受け止める全力の愛情表現。サングリア周辺にのみ生息する鳥『ククポ』その抱擁だった。


「ククポポ」

「ククポッ!!」

「クポ?」

「クッポー!!」

「クポポポォ〜!!」

「……ポ!?」


 ああ、どこもかしこもククポククポ……1ヶ月ほど前だろうか。どこからともなくやって来たククポが俺たちの訓練に並走し始め、それが一羽、二羽と増え続け、今ではお昼休みのたびにこの有り様となっている。きっと、俺たちのことを仲間だと思っているんだろうな。


 このモフモフ……頼もしい相棒、ラコを思い出す……。今頃何してんだろうな、元気だといいけど。


「デヒヒヒ! デヒヒヒ! 兄者〜! 見ろよ〜、このクソ鳥〜、おもしれぇ顔してねぇ〜? すっげぇ間抜け〜」

「おおゴラァ、デブタ!! ディエゴ様がいらっしゃるこの遠征じゃ、ちょ~〜いい子にしてろって言っただろ!! クソ鳥やめろ!! ククポちゃんだ!! 言い直せ!!」

「あ、忘れてた〜ごめん兄者〜、え〜ククポちゃん〜、ブッせぇお顔ねぇ〜、デヒヒヒ! これでいい?」

「合格だゴラァ! 好印象間違いなしだ!」


 げっ、入れ墨兄弟……あいつら……また揉め事を起こす気か? ディエゴがいる遠征では比較的おとなしくしてるが、またいつ暴れだすか……。模擬戦で負けた相手に闇討ちを仕掛けるなど、ろくなことをしないんだ。こいつらは。


「え〜、では今日もククポに乗る騎乗訓練を行うぞ。各自配置につけ!」


 始まったか。ククポをいかに上手く乗りこなすかを競う訓練が。今日こそは、完璧に乗りこなしてやる。幸いこの訓練は、まだ対人戦の段階には入っておらず、純粋な騎乗能力を競うものだ。俺のような順位が落ち込んでいる者にとって、これとない巻き返しのチャンスだ。


「頼むぞ、ククポ。後でいっぱい撫でてやるからな」

「ククッポ〜!!」


 俺の言葉に応えるように、ククポは天真爛漫な、真ん丸な瞳でじっとこちらを見つめ頷く。


 そのずんぐりむっくりとした背中に跨り、手綱を握り直す。柔らかい羽毛の感触が、不思議と緊張を和らげてくれた。


「それでは、各自! 今より私の背を追ってこい! ククポ騎乗訓練……開始ぃ!!」


 ククポを颯爽と乗りこなすエスタ教官の鋭い号令が草原に響き渡った。一斉に駆け出すククポたち。見た目に似合わぬ力強い踏み込みで、俺の体は大きく揺さぶられる。地を蹴る音と、ククポたちの鳴き声が混ざり合い、穏やかだった草原に、一気にミミゼラブルの熱が広がっていくようだった。

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