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弔いの旅路  作者: クジラ
不穏を追って
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ミュウル編 手痛い一撃

「……ミュウル……簡潔に言う……奴の能力は……おそらく『ある程度の重さがある無機物』にしか発揮できない……俺自身の重さに干渉してこないのが証拠だ……」

「……そして俺たちから見て右側にあるあの壁……あそこには奴しか開けない扉がある……奴が自身の夢の中で見ていた……作業部屋と呼んでいた部屋だ……入れば最後2度と出られないと思ってくれ……」


 触れれば火傷してしまいそうな威圧感を放出し続けるビルトから、一瞬も目を逸らすことなく口だけを動かし、カノープスが言う。


「うげっ、キモすぎでしょあの筋肉ダルマ。今もキモい筋肉を私たちに、なんか見せつけてきてるし、自意識過剰なんじゃないの? 誰も見たくねぇよお前の筋肉なんか。きしょキモっきしょキモっきしょキモっ! きしょキモ〜ッ!!」


 挑発のつもりか、ミュウルが声をわざと大きくあげビルトを煽る。今もなお様々なポージングを繰り出し続ける上機嫌にぶっかける冷水。コケにされ、カンカンに怒るかと思われたビルトだが、意外にも気にもとめていないようで、


「同意だ小娘。ここまで鍛え上げるのはさすがにどうかと俺も思うよ。ふっふ、まぁただ? 溢れ出る活力、ってやつを筋肉は与えてくれるんだ。思うに、生命とっての最上エネルギーが筋肉なのだろうな。俺の考えでは、筋肉はひとつの道具として利用価値がきわめて高く、めんどくさいが、これからも筋トレは続けていく考えだよ。能力にも起因していることだしな。くっくっく」

「???? え……なにあんた、急によりキモくなっちゃって……。もしかして……効いちゃった感じ? 胸がうぅって苦しくなった? メンタルは鍛えられなかったって? よっわっ〜!」


 ビルトは全能感に包まれているためか、少し口調が変わり、言動がおかしくなっていた。オフェンスモードと言っていた戦闘向きの身体、その完成がもたらす高揚感は、会話能力を失うほどなのだろうかと、カノープスは疑問を抱いた。


「……ミュウル……俺の能力は守りとカウンターに特化している……生存能力はお前より遥かに高い……だからヘイトを買う言動は慎め……死ぬぞ……」

「ええ〜! カノ君忘れちゃったの? 昔かくれんぼでさ、私に全然勝てなかったこととかさぁ! 他の遊びも負け負けだったじゃん!」

「……くっ……いつの話をいつまで覚えてる気だ……」

「泣きじゃくってたカノ君可愛かったな〜。めっちゃ悔しそうで! あはは!」

「まっ、心配ご無用ってこと! ちゃんと私なりに考えてあるからさ! じゃあさっそく……。“影遊び”あっ八柱六角(やばしらろっかく)守天睡灯籠(しゅてんすいとうろう)〜! うう〜ん! この技名一回言ってみたかったんだ〜!」


 両手のひらをパンッと叩き合わせ、先ほどカノープスが作り出した灯籠と瓜二つの影を、施設内にいくつも出現させる。なるほどとカノープスが静かに頷く。意図は理解したと。


「重量5トン! ビルトMAX! チェーンウィップ!」


 実体のない影の中を、トレーニング用の鎖がすり抜けていく、鞭のように繰り出される鎖の鞭打は、スパーンと、空を穿つ音を響かせ、辺り一帯に出現した影を高速で通過していった。


「あっ、あぶな〜……なんつ〜威力。こんなの当たったら身体真っ二つだっての……」

「……ミュウル……」


 少し煩わしそうに自身の名を呼ぶカノープスを流し見る。みなまで言うなと言わんばかりのムスッとした顔だった。


「実体なし。ただの影か、小賢しい」


 一撃が致命傷になる相手に、先ほど有効打となった灯籠の虚像を使い、攻撃を散らそうとする考えは、確かに小賢しいと言えばそうだが、煩わしいと思わせる的確な一手でもあった。


「”残影擬人(ざんえいぎじん)修羅主戦場(しゅらしゅせんじょう)“」

「また小賢しい技を……結果は変わらんぞ! 小娘! 俺の筋繊維を1本も傷つけることなく死ぬ結末は!」


 大勢の人形の影が激しく争う。それぞれが武器を持ち、盾を持ち、互いに傷つけ合い、場はまさに影の乱戦模様を呈していた。


 自身に切りかかってくる影を、ビルトは呆れた顔で振り払う。影はそのまま自身を通り抜け、次の戦いを求めどこかへと走り去った。


「影に紛れたか。奴らの姿が見えん」


 ビルトのトレーニング用の鎖がまたも猛威を振るう。自身を起点とした円状の全方位攻撃、ただ今回は手応えがあり、目を向ければ、灯籠の影にぐるぐると鎖が巻き付いている。


「実体も紛れさせているな、また眠らされては敵わん。あの位置、覚えておこう」


 影同士が戦い合う戦場、その灯籠の中、動く人影の中、どこかでじっと隙をうかがいながら、奴らは反撃の機会を待っているのだ。ビルトは、そんな2人をコケにするようにわざと声をあげて思考を始めた。


「つまらん戦い方だ。せっかく仕上がった肉体でやる行いが、手の届かない隙間に入り、殺しにくくなった害虫を駆除することだとはな。触覚の1本でも出してみろ。即座にぺちゃんこに叩き潰してやる」

「が、しかし。あのオブジェには俺のディフェンスモードの回復量を上回る睡眠の力が付与されている。迂闊に攻撃はできない。今のところ実体は1個しかないようだが、無警戒では俺に分が悪い。いつ生成されるかもわからないオブジェ、この状況、つまり俺は今、思い切り筋力を発散できない状況に陥っているということだ。いいコンビネーションじゃないか、素直に鬱陶しいぞ」

「そしてこの影、定期的に俺に襲いかかってきている影。何度目だ、払うたび警戒が薄れているのが否応にでもわかる。もしここで不意に、奴らが影の中に紛れでもしていたら、手痛い一撃をもらってしまいそうだ」

「カノープス。お前の催眠さえなければ、こんな勝敗への思考など即座に捨てられるのだがな。さぁ、俺が勝つためには何がいる? 考えろ。思考は友だ。戦友だ。己を勝利に導くために考えろ」


 長考タイム、とでもいうべきポージングで1番ベタな格好をとってみせる。感慨深げに目を閉じ、顎に手をやりながら、頭を少し傾けて。


「ほぉ? 3体同時に切りかかってくるか? 初めてのパターンだ。どれかに本物がいるのか? こいつは……重量ゼロキロバーベル……対応の幅を広げることで処理しよう」


 影をかわそうとするわけでもなく、ビルトは、プレートのついていないバーベルを手中に出現させ、軽さ分の速さを武器とする。


 殺傷能力の落ちた一振りであったが、目にも留まらぬ早業で3体の影を見事打ち抜いてみせた。手応えはない、またも陽動、そう結論づけた直後、ビルトの腹部に鈍い痛みが走る。


「なんだ? 血が腹から流れている? 熱傷系の痛みだ。焦げ臭いぞ」

「推察するに、小娘の能力は影と光の能力といったところか? 影が俺を通過する際に光のレーザーを放ったと」


 独り言を話し始める前に、ビルトはすでに瞬間移動の如き速さで、ある場所に赴いていた。


「さぁ~て、影が8体。オブジェが1本。この中のどれが本物だ? 弾道で丸わかりなんだよ虫。早く出てこいや」


 四方の部屋の角、その場所で影に攻撃を加えていく。


「オブジェなし。影7体実体なし」


 脳内に快楽物質が溢れ出る。ビルトは最後の影をけして逃さぬよう、覆いかぶさるように迫った。


「まずは一匹、御方の話など聞いてみたかったが、仕方なし」

「……!? なにっ? こいつも虚像? だと……」


 目星をつけた最後の影に実体はなく、ビルトの腕にまた焼けるような痛みが走る。豪快な笑い声をあげ、ビルトは何が起こったのかを理解した。そして理解したと同時に、無数の光のレーザーが自身に迫っていることも目視する。


「あのオブジェの中、おそらく光を反射する反射板のような物が置かれているな。巧みに出現させ弾道を変えているか!」

「どうする……。がむしゃらに影を攻撃して虱潰(しらみつぶ)しに回るか、反射板をさっさと壊してしまうか」


 影の戦場の中を光のレーザーを掻い潜りながらビルトが駆ける。食らったとて、大した傷ではないが、万全を期すなら、避けるに越したことはない。


 駆ける勢いそのままに、ビルトは眼前にあったオブジェの中にあるであろう反射板めがけてバーベルを振った。


 ガギィィィンッ!!


 実に嫌な手応えが残る。分厚く重い物をぶっ叩いた時の感覚。本物の灯籠を叩いた時の感覚。


 ビルトは顔が青ざめる時間もないまま、深い眠りの世界へといざなわれた。


「……ミュウル! 今だ!」

「わかってるってそんなこと!」


 2つの影が晴れる。そこには決死の覚悟を決めた、カノープスとミュウルの姿があった。


千閃(せんせん)……」

千本(せんぼん)……」


 直立したまま意識を失ったビルトを挟み、互いにタメを作った動作に、ありったけの殺意を込める。


光波(こうは)!!」

魔睡針(ますいばり)!!」


 無防備となった筋肉の塊へ、横殴りの大雨のごとき連撃が降り注ぐ。それは止むことなく、無慈悲なまでに、ただひたすらに肉を穿つ一撃となって、ビルトの身を刻んだ。

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